第40話 決起会(敵側)前編

 全員で冒険者稼業をしたあの日から、更に15日が経った。

 今日は、遂にシュリが勇者達と会う為、俺とレイリスは王城の中へ潜入する予定だ。


 何故レイリスが一緒なのかと言うと、シュリが勇者である不知火嘉音に惚れたかどうか探ってもらう為だ。ファニスやシエスでも良かったが、シエスは戦力が少しばかり低い為、ファニスは直ぐに手が出るから潜入に向いていない。よって、レイリスを同行させることになった。


 本当なら護衛として誰かを連れて行きたいが、城内への潜入だからな。人数は少ないに越したことはない。見つかった時のリスクを考えると、少しばかりヤバい気がするけどな。

 まぁ、一応対処法は考えてあるからどうにかなるだろ…


「今日、王城にて決起会が行われる。潜入するのは俺とミレス。ルネは待機、ジークとシーラもルネの護衛として待機。レオとグラウは、引き続き冒険者稼業をやっていても良いが、すぐに連絡が取れるようにはしておけよ。何か質問はあるか?」


 俺がそう訊くと案の定ファニスシーラシエスルネの2人が手を挙げた。


「どうしてわたしは一緒じゃないの?」

「私もルネと同じです」

「ルネは単に戦力不足、シーラは直ぐに手を出すから駄目だ」

「たしかにシーラは直ぐに手が出るよな~」

「この間も、オメガに不快な視線を向けている奴に凸りそうになってたからね」

「オレが言えた事じゃねぇと思うが、ちったあ我慢を覚えなシーラ」

「うっ…以後気を付けます」

「まぁ、そんな訳だ。今日から数日はあまり目立つ事はするなよ?後、今日の潜入の結果次第では2、3日後にここロゼから脱出するから準備を整えておけ」

「了解だぜオメガ」


 取り合えず、今日の予定の説明はこれでいいか…


「ミレス、今から直ぐに王城内へ潜入するから準備しろ。魔晶石、通信用の魔道具、万が一の時の為に作った転移トランスの魔方陣が書いてある羊皮紙スクロールを絶対に持っていこい」

「了解よ。それにしても、いつもよりも慎重ね。やっぱり王城へ侵入するから?」

「当たり前だ。正直に言えば、もっと色々と準備をしたいが、時間が無いからな…それと、ヤバイと思ったら即座に羊皮紙スクロールを使え。そいつはバルバに作らせた特注品だ。使えばバベルまで飛べる」

「へぇ~、って、そんなに凄いモノだったのアレ!?」

「万が一の時の為の保険だ保険。全員分を用意したかったが、作るのがかなり大変だった為2枚しか作れなかったけどな」

「じゃあ、早速準備してくるね」


 そう言い残し、レイリスは2階へ上がって行った。


「で、その羊皮紙スクロールの一枚がお嬢だとすると、もう一枚はリーダーが持つのか?」

「そうだな………」


 一応俺が持っておくのも悪くは無いと思ったが、最悪自爆する俺が持つのもアレだからな。

 ファニスかアルゴのどっちかにでも渡しておくか…


「もう一枚はシーラとジークお前等に渡しておく」

「は?オメガが持っとくべきじゃないのか?」

「二枚しかないからだ。もしもの時の為にもお前等に渡しとく方が良い」

「……分かった。オメガがそう言うならそれに従う」


 異空間収納ボックスを唱え、異空間から転移トランスの魔方陣が描かれている羊皮紙スクロールを取り出す。


「ほらコイツだ。どっちかの異空間収納ボックスに入れておけ」

「では私が持っておきますね」

「任せた」


 羊皮紙スクロールをファニスに渡し、そのまま10分程待っていると、レイリスが戻ってきた。


「お待たせ、準備完了したわ!そういえばオッキーはもう準備終わってるの?」

「俺の場合、絶対に必要な物は全て異空間収納ボックスに入れてあるから問題無い。さて、それじゃあ行ってくる」

「留守は任せたわ」

「お兄、ミレス、気を付けてね」

「おう!リーダー、お嬢行ってら~」


 シエス達に見送られながら、俺達は出発した。

 ズワルトは居なかったが、恐らく違う次元空間から、今も俺達を観察しているのだろう。



 拠点を出発して約20分程で目的地である、王城へ辿り着いた。

 いつもは深夜に侵入している為、姿を隠して真正面から侵入しているが、今回の侵入経路は地下通路を使う。

 一先ず門番達に見られない場所に身を潜め、レイリスに今回の侵入経路と脱出経路について説明を始める。


「ミレス、侵入経路と脱出経路について説明するから良く聞いておいてくれ」

「分かったわ」

「先ずは侵入経路。今回は地下通路を使って城内へ侵入する。これまでに色々と調べて判った事なんだが、その地下通路は王族が万が一に備えて作った避難用の通路だそうだ。入口は玉座のある部屋の隅で、出口は首都ロゼここへ出入りする門だ」

「へぇ~、でもそれならここに来た意味は無いんじゃないの?」

「それがな、王城の城壁のすぐ近くにも増設された入口があった。2日前に実際に見てきたから確実な情報だ」

「……オッキー、前々から思ってたんだけど、そういうのって潜入させてる人にやらせるもんじゃないの?」

「潜入させる奴が確実に信用できる奴ならな」


 今回潜入させているのはリースの部下であるシュリだ。正直な話あんまりコイツを信用できない。

 理由は、勇者がズワルトから貰ったあの能力主人公があるからだ。恐らく既に堕ちているだろうな…


「それに加えて、実際に己の目で見なければ判らない事もある。俺の元居た世界に百聞は一見に如かずという言葉がある。たとえ百回聞くより、一度でも自分自身の目で見た方が確実であるって意味だ。要するに、自分自身で見て調べるのが一番確実という訳だ」

「そういうことなら納得」


 次は脱出経路について説明するか。


「脱出経路も侵入時に使う地下通路を利用する」

「侵入経路を逆走するの?」

「少しだけな。脱出途中で侵入する時使う道から外れて違う出口へ向かう。詳しい案内は後程伝える…こんなとこだな」

「オッケー、ほぼ把握したわ。それじゃ早く行きましょオッキー」



 巡回中の衛兵を警戒しながら、以前侵入した時に見つけておいた地下通路への入り口を見つけ出す。


「ここだ。行くぞミレス」

「ええ」


 梯子を下り、地下通路へ降り立つ。

 地下通路内は明かりが無いのか真っ暗であった。


「うわっ、真っ暗ね……これじゃ何も見えないわ」

「いや、この方が都合が良い。目が暗闇に慣れたら進むぞ。それと足音が響かないように、足裏に魔力を薄く張れ。それと、逸れないように俺の何処かを掴む事、ここからの会話は思念伝達用の魔道具で行うからな」

「了解。なら手を握らせてもらうわね」

「好きにしな」


 明かりを点けずに進むのは、居ないとは思うが万が一衛兵がいたら見つかる可能性がある為。

 足裏に薄く魔力を張るのは、足音をほぼ消す為だ。


 出入口を閉め、5分程その場で待ち暗闇に目を慣らせた。そしてそのまま足裏に薄く魔力を張り俺達は通路を進み始めた。





「【ねぇユッキー、ここまで来てこんな事訊くのもなんだと思うんだけど…どうやって中の様子を探るの?】」

「【…鼠や蜥蜴等の小動物を使い魔サーヴァントにして、使い魔サーヴァントの目を通じて探りたがったが、現状だと、それに使う魔力の余裕が無い。そういう訳で気配を完全に消し、幻影イリュージョンで姿を隠した状態で決起会を直接探る】」

「【でも、魔晶石とディアナから貰った魔石があるじゃない】」

「【あれは緊急時用だから基本使えない。それに魔晶石はアルゴ達に預けているから、今は魔石しか無い】」

「【じゃあ、その方法が一番妥当って訳なのね。ごめんねユッキー、あたしの魔力がもっと多かったら…】」

「【謝罪は不要だレイリス。寧ろ俺の修行が足りなかったからこんな事になっている。さて、このまま進んで行くぞ】」


 今回の任務が終わったら本格的に修行し直すか…ガルラ帝国の情報を集めながらになるが。


 そのまま地下通路を進んで行くこと約10分。俺達は目的地の下へと着いた。そして懐中時計を取り出し、一瞬だけ明かりを点け、時間を確認する。


「【…あと10分で決起会が始まる。準備はいいなレイリス?】」

「【もちろんよ】」

「【潜入開始だ】」


 幻影イリュージョンで姿を消し、アルフから教わった気配の消し方で、気配を完全に消し、音を立てずに侵入口である石畳を軽く持ち上げ、城内へ侵入する。

 中へ入った時に最初に目に入ったのは何時ぞやに見た勇者不知火達とシュリ、零条の2人。それに加え、二つ名持ち冒険者が約15人程だ。


「【うわっ、凄い数の人間】」

「【恐らく貴族とかもいるのだろうな】」


 軽く辺りを見渡すと、玉座に座っている王様や派手な装飾が施してある服を着た貴族のようなやつ。それに衛兵がずらりと並んでいるのが見える。

 万が一戦闘にでもなったら逃げられないだろうなこれは……

 その時はレイリスをあの羊皮紙スクロールで魔王城へ送り、シエス達アイツ等がこの都市まちを出たのを確認後、自爆魔法で道連れにするのが良さげだな。

 もしかしたらズワルトが何かしら手を貸してくれるかもしれないけどな…


「【レイリス、シュリの様子はどうだ?】」

「【ちょっと待ってね…………正直に言わせてもらうと、あの子はもうダメそうね。勇者に完全に恋しちゃってるって感じ。演技であってほしいて思ったけど、本気であの勇者に惚れ込んでるわ】」

「【やっぱりか…】」

「【ユッキー、気付いていたの?】」

「【完全にではないけどな。シュリの日報と零条からの報告がかなり似てきた為、色々と調べた結果、裏切っている可能性に辿り着いた】」

「【なるほど…】」


 まぁ、シュリが裏切る事は想定内だから問題無い。そして、万が一シュリの上司であるリースも裏切っていたとしても問題無い。例え、今回の潜入作戦の内容が全てバレたところで、俺達が侵入できてる時点でほぼ俺達の勝ちが決まっている。今回の作戦内容の本当に重要な部分に関してはバルバと魔王、そして邪神ズワルトの3人にしか話していないからな。

 さて、シュリの持ち込んだ情報で国王達がどんな作戦を思い付いたのか聴かせてもらおうか……



 ロゼ王国、首都ロゼにある王城。その王城の玉座の間にて本日、魔王及び魔人族を含む魔族を討つ為の決起会が行われる。


「皆の者、今日は忙しい中よくぞ集まってくれた!只今より魔王及び魔族共の討伐の決起会を行う!!」

「「「「おおおおおおぉぉーーー!!!!!」」」」


 ロゼ国王の宣言の後、玉座の間に冒険者や衛兵達の雄叫びが響き渡る。


「では先ず、現状の説明を行おう。ゼム、よろしく頼む」

「承知致しました、国王様」


 ゼムと呼ばれた初老の男がロゼ国王の隣に立ち話し始める。


「現在、我等人類と魔王率いる魔族は拮抗状態にあり、中々攻め入る事が出来ていない。そして、魔王領に関しては殆ど攻略が進まず、情報も集めることが出来ていないのが現状である」

「だが、今回こんな決起会とやらをやるっつー事は、状況が動いたって事か?」

「その通りである!実は、魔人族の1人が我等の味方となったのだ。しかも、魔王軍の中でもそれなりの地位であるので、色々と魔王達の情報が集まった」

「でも、その魔人族って信用できるのかしら…」

「それは大丈夫。なにせ件の魔人族は勇者殿のご活躍によって我らの味方となったのだから」

「へぇ~、異世界から来たあの勇者によってねぇ~…」

「ゼム、前置きはそれくらいにして、次の説明に移ってくれ」

「はっ!承知致しました」


 国王に促され、ゼムは続きを話し始める。


「では、今回の作戦を伝える。今回の作戦の目的は魔王軍の幹部を含む魔人族達の撃破及び、魔王内に人類の拠点を作る事。もしも魔王が出てきた際は魔王の討伐も視野入れている」


 ゼムの言葉を聞いた一同は一部を除き、歓声を上げた。


「遂にこの時が来たか………」

「だな!俺達の積年の恨み、晴らしてやろうぜダチ公!」

「うふふ、腕が鳴るわね!」

「こんなにも二つ名持ちの冒険者がいるんだ、今回の作戦は楽勝だな!」

「そうだね。加えて、王国の兵士達と異世界から来た勇者達もいるからね」


「おぉ、遂に俺達英雄になっちまうのか!?」

「そうなればハーレム作り放題だな!」

「だったら、あたしは逆ハーよ!」

「嘉音、一緒に暴れようぜ!」

「あぁ!もちろんだよ!!」


 冒険者達や不知火嘉音達が歓声を上げている一方で、城の衛兵達は静かに冒険者達を眺めていた。


「全く、まだ戦が始まってもいないのに、既に勝った気でいるとは………」

「まぁまぁ、そんな事言わないで下さいよフェルト隊長。士気の向上は大切ですよ?」

「確かにそれは大事な事だが、絶対に油断しない前提があってこそ効果を発揮するのだ」

「多分大丈夫じゃないですか?今回呼ばれているの冒険者は、二つ名持ちの中でも特に優秀な者と聞いておりますし、勇者殿達は直接隊長がご指導なさったのですよね?」

「それは、あの子達は我等の都合に巻き込んでしまっただけであるからな。必ず、誰一人として死なせない為に儂が一から指導を行った」


「コホン!続けて、作戦内容を伝える!心して聴いてくれたまえ!」


 部屋の隅で盗み聞きしている悠貴とレイリスに誰も気付かぬまま、人間達による魔王領へ攻め入る決起会が始まった。


ーーーーーーーーーー


お待たせしました40話です。

色々書こうとしたら1万字超えそうだったので、2話に分けることにしました。

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