第34話 下準備

 我はユキ殿の発言に驚いていた。

 いや、発言の内容自体には驚いていない。寧ろ考えて当然の事である。

 ただ、作戦の最終チェックという大事な場で、お前達の部下が裏切った場合と言った事に驚いた。



「お主………今、何と言ったんじゃ?」

「聞こえなかったか?万が一スパイの誰かが裏切った場合を話しておきたかった、だ」

「ほほう………やはり聞き間違いじゃなかったようじゃのう…」


 デモンが不機嫌そうな様子でそう答えた。他の隊長リース達もデモンと同じような様子。

 ユキ殿は……何故デモン達が不機嫌そうな様子になっているのか、解っていないようであるな………


「あのねぇ参謀ちゃん、アナタは大事な部下が裏切るかもと言われて不快な気分にならないのかしら?」

「不快な気分?なる訳ないだろ」

「「なんだと!?」」

「ま、待て皆の者!!」


 ちょっ、ユキ殿!火に油を注いでどうするのだ!?

 と、取り合えず我がこの場を収めなければ……… ファニスとアルゴもオドオドしているばかりであるからな…

 そう思っていると、魔王様がいきなり立ち上がった。


「皆の者静まれ!!」

「「「魔王様っ!?」」」


 魔王様の一喝で場が静まった。流石、魔王様。


「グリオス隊長達、お前達の気持ちはよく解る。だが、今は大事な会議中であるぞ!!万が一を想定しておくのは当然の事だ!」

「「「申し訳ございません。魔王様」」」

「ユキももう少し相手の事を考えて発言することだ。(まぁ、レイリスからユキには感情が無いと聞いているため、難しいと思うが…)」

「それは済まなかったな、善処しよう」


 ◇


 魔王のおかげで場も収まったことだし、続きを話していくとするか。


「万が一、スパイの誰かが裏切った場合は俺とアルゴ、ファニスでスパイ活動を行う。アイツの協力を元にな」

「え?俺もかユキ?」

「当たり前だ。シエスが別行動してくれないだろうからな」

「な、なるほどだぜ………(ユキが命令すれば一応別行動してくれると思うけどな…)」

「アイツとは一体誰の事だユキよ」

「邪神ズワルトの事だが?」

「なっ!?邪神様だと!?」

「協力といっても、姿を変えてもらうぐらいだ」

「そ、そうか…」


 他にも色々とやってもらいたかったが、ズワルトが言うには「邪神と言っても僕は神様だからね。過剰な地上の生物への干渉を禁じられているんだ。まぁ、君達に一つ能力をあげたみたいに、何かしら授ける程度なら問題無いけどね」とのことだ。一応、協力する事自体は問題無いらしい。

 そんなわけで、万が一の時は陰から俺達のサポートをしてもらうことになった。顔を変えてもらうのはやってもらうけどな。


「つまり、誰か一人でも裏切った場合でも参謀達がスパイをやるのか?」

「そのあたりは臨機応変に対応するから何とも言えない」

「そうなのか」


 話すことも無くなったので、会議を終わらすとするか。魔王に目配せをして、会議を終わらせるように促す。


「ではこれにて、全ての会議を終わるが、何か報告のある者はいるか?」


 魔王がそう尋ねるも手を挙げる奴はいない。


「よろしい。リースとユキ、バルバはこの後先程の件について話す為残れ。それ以外は解散である」

「ユキ、また後でな」

「ユキさん、また後で」

「おう」


 名前を呼ばれなかったアルゴとファニス、他のグリオスの隊長達は部屋から出て行く。


「それじゃ、アタシはシュリを連れてくるわね」


 シュリを連れてくるためにリースも一度退室する。


「ふう………さっきは少しばかりヒヤッとしたが、どうにか会議が終わってホッとしたぞ」

「それは我輩もであるな」

「尻拭いをさせてしまったようで済まなかったな」

「気にするな。ユキ殿の事情では仕方のないことであろう。ユキ殿が感情を失っているのを知っているのは邪神様、我達と部下であるファニスとアルゴ。それにレイリス様、ラグエル様、アルフ殿にシエス殿だけであるからな」

「そんなに少ないのか?」

「ユキ殿と積極的に関わっているのが我等だけであるからな…」


 魔王、バルバと雑談しているとシュリを連れたリースが戻ってきた。


「待たせたわね」

「お待たせしました」

「揃ったな。それじゃあ、話していくぞ」



 そして、リースとシュリに零条美紗へ行う演技内容を伝えた。恐らく問題無いだろうが、駄目だった場合は違う方法を考えないとな………これで、下準備は全て終了か。


 全ての会議を終わらせた俺はズワルトの所へ移動した。


「やぁ、悠貴。中々面白い会議だったね」

「……姿を消して会議室にいたのか?」

「だって面白そうだったもん」

「あっそ……」

「それで悠貴。君達がロゼ王国へ行く時、僕も一緒に行ってもいいよね?」

「駄目だと言っても絶対ついて来るだろ?」

「そうだろうね~」

「勝手にしろ。但し、見つかるなよ?」

「それは大丈夫。違う次元空間にいるから」


 なら大丈夫そうだな。まぁ、邪神と言っても神だから見つかる心配はあまり無いか。


「いやぁ、楽しみだねぇ。全てを知った時、あの子供達がどんな表情をするのか?特に作戦に利用する女の子が」

「相変わらずだなお前は」

「僕は面白い事が大好きだからね。そういえば悠貴、水の大精霊の事はどうするの?たしか7日に一度、雑談しに来いって言われていなかった?」


 水の大精霊…ディアナの事か。


「アイツの事なら心配要らない。つい先日会いに行った時、今回の作戦で会えなくなるのを伝えたら、ディアナの一部である精霊を1人を俺に寄越した。その精霊を通じて連絡が取れるそうだ」

「ほえ~、なら最初からそれを使えば良かったのにね」

「ヤツ曰く「私は顔を見て話すのが好きなので」だそうだ」

「それ、僕にも解るなぁ~」


 さて、コイツと話す事ももうないから家に戻るか…


「そんじゃあなズワルト。俺はそろそろ帰る」

「またね悠貴」





「いやぁ………ホントに楽しみだねぇ………」



 転移トランスで家へと戻ると、レイリスとシエス、ファニスが3人でお茶会を開いていた。レイリスとシエスはともかく、ファニスの奴は何時の間に来たんだ?


「お帰りユッキー、会議は全部終わったの?」

「あぁ、特に問題無くな。ファニス、いつの間に来たんだ?」

「会議が終わってすぐです!アルゴはメガロと一緒に特訓してくると言ってたので、ここにいません」

「そうか」

「ユキは何が良い?」

「そうだな、俺は緑茶でいいぞ」

「分かった」

「緑茶、私苦手なんですよね、苦くて…」

「それはあたしも同意」


「はいユキ、緑茶」

「ありがとうシエス」


 シエスが用意してくれた緑茶を啜りながら、3人の会話をBGMにして、今後の展開がどうなるか考えていった。

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