第四章 ロゼ王国侵略編

第33話 顔合わせ

 建国祭から約半月後、零条美紗を使った作戦の最終チェックをする為に、俺は魔王城を訪れていた。

 そして今は、以前、作戦会議で使った部屋にいる。集まったメンバーは魔王、グリオスの隊長達、スパイとして育成された3人の魔人族とバルバの部下であるファニスとアルゴだ。


「今から件の作戦の会議を始める。先ず、本作戦でスパイとしてロゼ王国に侵入する3人、皆の前で挨拶するがよい」

「「「はっ!魔王様!!」」」


 円卓の真ん中へスパイとなる魔人族の3人が移動する。


「デモン様率いるアンガー隊所属、スパーダ・ドラグです」

「リース様率いるラス隊所属、シュリ・ルクリラです」

「フォール様率いるゲヘナ隊所属、メガロ・レイヴです」


 スパーダは、オールバックをした髪型の体育会系っぽい褐色イケメン。

 シュリは、金髪セミロングのスレンダー体型の美女。

 メガロは知的な好青年っぽい感じのメガネをかけたイケメン。

 挨拶を終えた3人はメガロ以外、元いた所へ戻った。戻らなかったメガロは俺の近くへ来た。


「ようメガロ、お前も作戦に参加すんの?」

「それはこちらの台詞だアルゴ」

「なんだアルゴ、知り合いか?」

「おう、俺の友人だぜ。それとメガロ、俺はユキの護衛として作戦に参加する」

「なるほどな。参謀殿、こいつはそれなりに腕の立つ男ですので、存分にこき使ってやって下さい」

「ちょ!?」

「あぁ、分かった」


「それでは」と言い残し、メガロも元いた所へ戻っていった。


「後は頼んだユキ」

「了解」


 次は俺が円卓の中央に立つ。


「では、今回の作戦の最終チェックを始めていく。疑問や質問がある場合はすぐに話してくれ。万全の状態で作戦に臨みたいからな」


 俺の言葉に全員頷く。


「初めは作戦の第一段階についてだ」


 第一段階…今回の作戦において、一番重要な部分だ。ここで躓いてしまえば、ロゼ王国へスパイを潜入させる事が困難になってしまうだろう。

 一応、躓いてしまった場合の案も考えてはいるが、リスクが高い為、あまり使いたくは無い。


 で、第一段階についてだが…簡単に説明すると、零条美紗ができる魔人族を創り上げる、というもの。

 零条美紗が信頼する=主人公気質である勇者…不知火嘉音だったか?奴も信頼する。そうなると、勇者を信頼しているロゼ王国の連中も多少は、協力する魔人族の事を信頼するだろう。

 要するに芋蔓方式で、信頼を得ていき、疑いを持たれなくして、スパイ活動をやり易くするという訳だ。無論、成功すればの話だけどな…


「でだ、その信頼される魔人族を演じてもらうのはリースとシュリお前等に頼みたい。出来るか?」

「一応理由を訊かせてもらってもいいかしら?」

「同じ女である且つ、勇者一味の女に顔を見られていない事。そして戦闘能力が問題無さそうだから、だ」

「妥当な判断ね。それで、演じる事に関してだけど、アタシは問題無いわよ。シュリはどう?」

「ウチも大丈夫ですリース様」

「演技については、全ての会議が終わった後詳しく伝える。魔王とバルバにも把握してもらうからも2人も残っておいてくれ」

「了解だ」

「分かった」


「次は作戦の第二段階について。第二段階はロゼ王国の軍事情報や勇者達の情報収集等を行う、それだけだ」

「ほぅ、第二段階はかなりシンプルなのだなユキよ」

「そんなにやる事ないからな」


 やる事は少ないが、ここも大事な部分だ。気を抜いて、もしもスパイがバレたら、全ての努力が水の泡と化してしまう。だから第二段階も気を付けないとな。


「そして、作戦の最終段階。勇者一味の女を使い、勇者達やロゼ王国の兵士共を誘き出して、一網打尽にする。それと、スパイの3人はロゼ王国から脱出し、魔王領ここに戻ってくる。以上で作戦終了だ」

「ユキ殿、こちらの戦力をどの程度出すつもりなのだ?」

「予定としてはグリオスから3部隊、その他から100名程だな」

「なら、俺っちの部隊がいいぜ」

「いや、オレサマの部隊だろ」

「「なんだと!?」」

「お主等………」


 ヴァイとルーチがなんか言い争っているが無視して会議を続ける。


「投入する部隊に関しては情報が集まり次第決める。ここまでで質問、意見のあるやつはいるか?」


 俺がそう訊くと、3人手を挙げた。バルバ、スパーダ、デモンだな。


「バルバから言ってくれ」

「物凄く今更であるのだが、今回の作戦でユキ殿がロゼ王国へ行く必要があるのかどうか、である。作戦内容的にユキ殿が行かなくても問題ないのではないか?」

「たしかに、バルバの言う通り、今回の作戦は俺が行かなくても進めていくことは可能だろうな。だが、俺は魔王やお前等に対して言ったはずだ。人間達の国の情報、そして勇者共の情報を与えるかわりに、俺とシエスには手を出さないでほしい、と。今でこそ魔王に認められ、参謀になってしまったため、お前等から危害を加えられることはないだろうが、取引き自体が無くなった訳ではないはずだ」

「それはそうだろうが………」

「だから俺も俺で、ロゼ王国へ行き、情報収集を行う」


 バルバへの返答はこれでいいだろう。バルバの表情が苦虫を嚙み潰したような感じだから、納得していなさそうだがな…


「次はスパーダ、お前だ」

「我等スパイは、どのタイミングでロゼ王国を脱出すれば良いですか?」

「俺達とロゼ王国が戦争をしている最中に脱出するのが一番リスクが少ないだろう。無理だった場合は臨機応変に動いてくれ」

「了解しました」

「最後はワシじゃな」


「先程、勇者一味の女を使って、勇者達やロゼ王国の兵士共を誘き出すと言っておったが、具体的な方法はどうなんじゃ?」

「方法はその女へ勇者一行を特定の場所へ連れてこいと命令するだけだ。こちらの軍事情報を伝えた上でな」

「じゃが、その方法じゃと罠と警戒するのではないか?」


 たしかに普通ならデモンの言う通り、罠と警戒され、、こちらの思い通りに事が進んでくれないだろう。

 だが、あの勇者不知火嘉音主人公が相手だ。奴ならそうだな……「たとえ罠だとしても、皆を救う為に僕は行く!何故なら、僕はこの世界を救う勇者なんだから!」とか言って乗り込んでくるはずだ。

 まぁ、事が進まなかった場合は俺がなんとかするから問題無い。


「デモンその点は問題ないだろう。勇者は物語に出てくるような、正義の主人公みたいな感じの人間だからな」

「なるほどのう…で、あれば、罠であるとか気にせずにやって来るじゃろうって考えか」

「そういうことだ。他に何か訊きたいやつはいるか?」


 再び、意見や質問のあるやつはいるかと訊いてみたがいなかった。


 一通り、今回の作戦に参加するメンバー全員への説明も終わった為魔王に合図しする。


「これにて作戦会議を終了とする。この後、定例会議を行う為グリオスの隊長達と、バルバの部下であるファニスとアルゴ、そしてユキは残ってくれ。では、解散!」

「シュリは会議が終わるまで、別室で待機しておいてちょうだい」

「了解しましたリース様」

「え?俺等も残るのか?」

「ファニス、アルゴお前等にも話さないといけない事があるからな」

「「了解」」


 グリオスの隊長と魔王、俺以外のメンバーが退室する。

 退室した事、盗聴の恐れが無い事を確認すると、ベルフが俺に疑問を投げかけた。


「参謀殿、私達を残したのは何故だ?」

「それってどういう意味なんだベルフ?」

「定例会議なら7日前に行ったはずだ。いくら何でも期間が短すぎる」

「たしかにそうだな」

「ユキ殿理由わけを話してくれ」

「…あぁ。お前等を残した理由わけ、それは………今回の作戦で万が一スパイの誰かが裏切った場合を話しておきたかったからだ」


 俺の一言にバルバ達の顔が強張った。

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