第三章 魔王領後編
第22話 魔王領探索 前編
悠貴が魔王によって、参謀にさせられた日から約1ヶ月。
悠貴、シエスの2人はエオスの宿を出て、レイリスと共に魔王から貰った一軒家に移り住んでいた。
◇
「朝か……」
「……ユキ」
「ユッキー…………そんなとこ触っちゃダメよぅ…」
「…………」
毎日何故か俺のベッドに侵入してきて、俺にしがみつくように寝ているシエスとレイリスを引き剥がし、洗面所で顔を洗い、3人分の朝食を作るためにキッチンへと向かう。
「さて、今日は何にするか…」
「後は米があればいいが、未だに見つからんから仕方ないか…」
アルフや西区にいる連中に米について色々と訊いてみたが、有力な情報は得られなかった。まぁ、早急に必要というわけでもないからのんびり探すとしよう。
そんなことを考えていると、玄関の扉をノックする音が聞こえた。多分アイツ等だろうな……
「やっぱりバルバ、アンタ等か…」
「いつも朝から悪いなユキ殿」
「チース!ユキ」
「ユキさん、今日も会いに来ました!じゃなくて美味しい朝食を食べに来ました!」
「はいはい、すぐに準備するからリビングで待っててくれ」
「ではお邪魔するぞ」
「ところで、レイリス様とシエスはまだ起きてないのか?」
「あぁ。ファニス起こしてくれ、いつもの場所で寝ているからな」
「了解しました!」
そう返事したファニスは真っ直ぐ俺が使っている寝室へと向かって行った。
「おはよユキ」
「おはようユッキー。いつもキスしてくれたらすぐ起きるって言ってるのに…」
「おはようシエス、レイリス。飯はもう出来てるから顔を洗ってから食べてくれ」
「やっぱりスルー!?」
「ハハハ、朝から相変わらず賑やかだなユキ殿達は」
「そして朝食も美味いっすね隊長」
「そうだな」
「うぅ………私もここに住みたい…」
今日の朝食はパンとアスク、そして薄く切ったオーク肉を焼いたものとサラダだ。アスクは地球で言うリンゴだ。
俺も席について食べ始めようとした時、顔を洗っていたシエスとレイリスが戻ってきた。
「今日も朝から豪華だねユキ」
「やった!オーク肉がある!今日はどんな香辛料をかけたの?」
「今日はシンプルに塩と胡椒だけだ。パンにサラダと一緒に挟んで食べるといい」
「分かったわ。…………うん、やっぱり美味しいわね!」
「ユキの料理なんだから当たり前だよ」
「それもそうね」
「ユキ殿、今日はどんな予定だ?」
「予定か………今日はアルフの店が休みだから特に予定もないな。ディアナには一昨日会ってるから会いに行かなくてもいいしな」
「なら俺達と一緒に魔王領の見回りに行こうぜユキ!」
「アルゴ!予定が無いからといってそんな迷惑な事…」
魔王領の見回りか………アルフを誘って色々な所に行ってみるのも良さそうだな。
「別にいいぞ」
「よっしゃ!言ってみるもんだぜ!それに隊長、前にもユキに手伝って貰ったことがあるじゃないすか」
「それはそうだが………良いのかユキ殿?」
「あぁ、最近はバベルからディアナの所に行く以外出ていないからな。それに将来住むのに良さそうな場所や珍しい食べ物を発見出来たりするかもしれないからな」
「そういう事か」
「今日はユキさんと一緒にお仕事ですか!?ナイスアルゴ!!」
「お、おう………」
「ならわたしも一緒に行く」
「あたしも行くわ。バベル以外の場所へ行くことへのお父様からの許可はもう貰えてるんだし」
「勝手にしろ。それとアルフも誘うが問題無いか?」
「もちろんだ。寧ろ誘ってやってくれ」
「分かった」
アスクを手に取り、食べながら
「ところで、レイリス様とシエス。ユキさんとは既にあんな事やこんな事をやっちゃったんですか?」
「あんな事やこんな事?」
「ふっふっふ!もちろんやってないわよ………」
「何でですか!?」
「だって、何度誘ってもユッキーってば何の反応も示してくれないんだもん………」
「まぁ、ユキ殿は感情を失ってるようであるからな、もしかしたらそういった事に興味が無いのかもしれん」
「流石ユキ、俺なら絶対に無理だぜ」
「(こうなったら、シエスと一緒に夜中に襲うしかないわね)」
「(何かレイリス様が思いついたご様子。ユキ殿にそれとなく伝えておくのが良いのか?いや、しかし………)」
家から出て行った後こんな会話が繰り広げられていたとは知らない俺は、1人で朝食を取っていたアルフへ話し掛ける。
「ようアルフ、今日は暇か?」
「……!?ゲホッゲホッ!なんじゃユキか。いきなり後ろから話し掛けんでくれ、ビックリして詰まりかけたわい……」
「そいつはすまなかったな」
「(おぉ………相変わらず何の感情も込められていない謝罪じゃのう…)で、暇かと訊いたのは何故じゃ?」
「さっき、バルバの部下であるアルゴから、今日の見回りに参加しないかと誘われた。それで折角だし見回りついでに、将来住むのに良さそうな場所と珍しい食材が無いか探そうと思ってな。アルフを誘いに来た」
「それなら儂も一緒に行くぞ」
「分かった。集合場所はいつも通り南門の出入口にしておくから、1時間後そこに来てくれ」
「了解じゃ」
「そんじゃまたな」
再び
「いきなり来たからびっくりしたわい。1時間後……ゆっくり食べるとするかのう」
家に戻った俺を待ち受けていたのはと言いたかったところだが、一番最初に視界に入った光景はバルバ達が普通に食事をしている光景だった。
「ユキおかえり」
「あぁ、ただいま。バルバ、今から1時間後に南門の出入口に集合とアルフに伝えたが、問題無かったか?」
「問題ない。朝食ももう食べ終わる頃合いだしな」
「食べるのが早いのはユキの料理が美味過ぎるからですぜ隊長」
「お前ら毎回俺の料理を美味いと言うが本当なのか?」
「本当だ。前に居た世界で料理の仕事でもしてたのか?」
「していないぞ。ただ、幼少の頃から料理はしていたからな…その影響だろう」
「ユッキー、それって………」
レイリスが悲痛な表情を浮かべている。そういや、シエスから俺の事について色々と聴いていたんだったな。
「レイリス、もう過ぎたことだ。気にするな」
「………分かったわ」
「…何か前の世界であったのだな?」
「今後、時間の空いた時にでも話してやる。とりあえず、さっさと食い終えて準備をするぞ。遅れると探索の時間が減ってしまうからな」
「分かった。だが、もしも話したくないのであれば無理に話してもらう必要は無いぞ。レイリス様の先程の表情を見るに、相当辛い時を過ごしてきたのだと思うからな」
さっきも言った通りもう過ぎたことだから、別になんとも思わないため話すことに何も問題が無いのだがな………
約束の時間となり、南門の出入口付近でアルフと合流した後、首都バベルを出発した。
「バルバ、今回の見回りのルートはどんなルートなんだ?」
「今回は西に行き、ホブゴブリンやハイオーク、ラミア等、知恵のある者達が住んでいる村を訪れ、人間達が攻め込んでいないか見て回るといった感じだな」
「アイツ等の所か。半月ぶりぐらいか?」
「そうだな、前回一緒に来てもらった時に寄った以来だな」
「最初は警戒されてたけど、ユキが魔王軍参謀と判った後はフレンドリーな感じになったよね」
「それに加えて隊長も居たからな、ユキを邪険に扱うわけにはいかなくなったんじゃねぇか?」
「そうでしょうね」
「へぇ~、そんな事があったんだ」
「儂も付いて行っておらぬから初耳じゃな」
「では、前回の見回りで起きた事を話しながらのんびりと行くとしよう」
村を目指して約30分程、俺達は先ずホブゴブリンとハイオークが一緒に暮らしている村に着いた。
「此処がホブゴブリンとハイオーク達が一緒に暮らしている村、ブイである」
「村の名前は2つの種族から付けたのじゃな?」
「おや、アルフ殿は判ってしまいましたか」
「ただのカンじゃよ。ほっほっほ」
バルバとアルフが無駄話をしているとホブゴブリンの1体がこっちに来た。
「コレハコレハ、バルバ様とユキ様デハナイデスカ。本日ハドノ様ナ件デスカ?」
「今回もただの見回りだ」
「ソウデスカ。見回リアリガトウデス。村長ニモ会イニ行ッテヤッテクダサイ。マタ会イタイと言ッテマシタノデ」
「無論そのつもりだ。もう下がっていいぞ」
「デハ、オラハコレニテ」
「では村長の所へ向かおう」
村に住んでいるハイオークとホブゴブリン達に挨拶をしながら、村長(ハイオーク)の元に着いた。
「これはこれはバルバ様、ユキ様見回りご苦労様であります。それに、今回はレイリス様まで…」
「あたしはただの付き添いよ」
「そ、そうでございますか…」
「早速だが本題に入らせてもらうぞ村長殿。前回我等が来てから何か起きたりとかはしていないか?」
「特には何も」
「それなら良かった。万が一、ここに人間達が襲ってきたらすぐに知らせること、いいな?」
「もちろん解っております。」
「よし、さっさと次の村へと向かうぞ。疲れている者はいるか?」
「俺は問題ない」
「儂も大丈夫じゃ」
シエスやレイリス達も問題ないことをバルバへ伝える。
「では村長、我等はこれにて失礼する」
「この先の道中もお気を付けて下され」
村長に別れを告げ、『ブイ』を後にする。
「隊長、次はどの村へ行きましょうか?」
「そうだな…次はオーガの居る村へ行くとしよう」
「オーガ…気性の荒い魔物って聞いてるけど大丈夫なのよね?」
「レイリス様、それは
「へぇ~そうなんだ」
「前に行った時は美味しいお茶菓子をくれた」
「それは楽しみね!」
「期待しているところ悪いが前回出してくれたからといって、今回もだしてくれるかは分からんぞ」
「えぇ~…」
「いや、心配することは無いと思うぜユキ。主従関係を大事にしているアイツ等の事だから、持て成しくらいしてくれるはずだからな」
「たしかに。それにあの村のオーク達は今の魔王様への忠誠心が天元突破してますから、レイリス様にお菓子だろうが何だろうが出してくれると思いますよ」
「って、アルゴとファニスは言ってるわよユッキー」
「あっそ」
「えぇ~………何その反応…」
「ハハハハ…さすがユキ殿…」
「でも、こんな態度なユキも好きなんでしょレイリス?」
「何当たり前の事を訊いてるのよシエス」
「ほっほっほ、物凄くユキに惚れ込んでるわけなんじゃのう…」
それから歩くこと約1時間程、俺達はオーガ達の住む村『シュテン』に着いた。
そして俺達が村へ着いた途端、村の至る所で歓声が沸いた。
「おぉーーー!バルバ様ーーー!!」
「ユキ様ーーーーー!!!」
「今回はレイリス様までいるぞーー!」
「ふ、ふつくしい………」
「オレ、今日死んでもいいや………」
「今回はいつまで居られるのですかーーー!?」
「至急、お持て成しの準備をするんだーー!!」
「任せとけーーー!!!」
前回来た時はこんなカオスな感じではなかったのだが………
そう思っているとバルバがこそっと耳打ちしてきた。
「先程ファニスが言ってたであろう魔王様への忠義が天元突破していると…」
「そうだったな」
「それにしても凄いね」
「そ、そうじゃのう……(儂、この村のテンションには絶対ついていけんじゃろうのう………)」
「何回か来たら慣れますよ」
「寧ろ、慣れないと色々とヤバイからな………」
「あたし、多分慣れないと思うんだけど……」
俺とバルバの後ろで話しているシエス達の会話を聞いていると、男のオーガが1人俺達の前に出てきて跪いた。
「バルバ様、ユキ様。ご訪問誠にありがとうございます。今回はどのような件でいらしたのでしょうか?」
「今回は見回りと少しばかりお前達に報告があってここへ来た。だから、そんなに長居するつもりは無いからな」
「りょ、了解致しました!では、族長の元へ案内致します」
「頼んだ」
俺達は男のオーガの案内で族長の居る和風な屋敷に着いた。道中視線が凄かったな…主に俺達を案内しているオーガへ対しての嫉妬のようなモノの視線が………
「族長、バルバ様御一行がご訪問されましたのでお連れしました!」
「分かった」
襖を開け、中へ入ると額から大きな角が2本生えている強面の男のオーガが出迎えた。コイツがこの村の族長であるエルドラだ。そしてエルドラの傍に、同じような角を生やしている男女のオーガ、計5人いる。
「レイリス様、バルバ様、ユキ様。またのご訪問誠にありがとうございます!」
「そう畏まるな。今回もただの見回りで来ただけであるからな」
「は、はぁ、そうでありますか…」
「では早速本題に入らせてもらう。エルドラ、我等が前回来てから何かあったりしたか?」
「いえ、何も起こっておりません!」
「なら良かった」
「も、勿体なきお言葉、ありがとうございます!!」
「それと、1つ報告があるのだ。レイリス様、よろしくお願いします」
「えっ!?ここであたしに振るの!?………まぁいいわ。実はね、あたしはユキと結婚することになったのよ。あっ、シエスも多分ユキと結婚するわよ」
「け、結婚………レイリス様とユキ様がですか?」
「おう、その通りだぜエルドラ」
「そうですか………………ヒャッハー!!!!お前達!レイリス様が今仰ったことは聴いておったか!?」
「勿論ですよ族長ーー!」
「今日は宴会だぁああ!!」
「オレサマ、村の連中に伝えてくるぜええ!」
「俺達は宴の準備だーーー!続け者どもーーー!!!」
「「「了解です族長!!」」」
「な、なんじゃ!?」
エルドラのやつ、俺とレイリスの結婚の事を聴いて俯いたかと思えばいきなり雄叫びを上げて部屋を出て行ったなおい。
そして、エルドラに続いて傍にいたオーガ達もエルドラ同様に雄叫びを上げてエルドラへ付いて行った。
「あははは…なんか凄い事になったわね…」
「レイリス様が結婚するって言うんですから仕方ないですよ」
「しかも相手がユキ殿であるからな。それで1つ判った事があるぞ」
「それはなんだバルバ?」
「今日の内にこの村を出るのは厳しいだろうな…」
「そ、それは本当かのうバルバ」
「お、恐らくは…」
「この村のオーガ、色々と可笑しいじゃろ………」
この後バルバの予想通り、1日中エルドラ達の宴会に巻き込まれ見回りに戻ることが出来なかった。
特に、俺とレイリスは結婚の事で質問攻めにされ物凄く疲れた。まぁ、レイリスは出されたお茶菓子のお蔭で元気一杯だったけどな。
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