異世界と金剛（アダマンタイト）の鉄仮面

第21話 魔王軍参謀悠貴、爆誕

　魔王からの仕事を終えてから数日後、俺は再び魔王から呼び出しされた。

　魔王城の玉座の間へ赴くと、魔王だけでなく、バルバ達隊長の姿と邪神ズワルト姿があった。

「魔王、今回はどんな件で俺を呼び出したんだ？」

「貴様！魔王様に向かってなんという態度だ！」

「デモン、人間（ユキ）は特別だ。そのままの態度で構わん」

「わ、分かりました、魔王様…」

「…今回、貴様を呼び出したのは…人間（ユキ）よ、我輩の部下になれ」

　魔王の部下だと？

「悪いが断る」

「き、貴様！魔王様のお誘いを！」

「何を考えてるの！？」

「お前達静かにせよ！…人間（ユキ）、理由を聞かせよ」

「理由は２つ。１つ目、組織に所属することによって行動に制限が入ること。２つ目、部下になる事でのメリットが少ないことだ」

「なるほど…その２つが解消されたら我輩の部下になっても良いということだな？」

「そういうわけじゃないｎ」

「フハハハハハ！では、こうしよう！貴様を部下にしても、貴様には何も課さない。時折仕事を頼む事はあるがな。２つ目のメリットが少ないというのはよく判らんが、我輩の考えうる中で最高の待遇で迎えてやろう」

「いや、だかｒ」

「それに、レイリスとの結婚を考えるとそれなりの地位が必要であるからな！皆の者、我輩の独断で悪いが、この人間、ユキ・ヤガミを部下にする事への異論はないな？」

「「「「はっ！全ては魔王様のお心のままに！」」」」

　…………話聞けよ魔王…

「ではユキ、これから宜しく頼むぞ！フハハハハハ！」

「悠貴が魔王君の部下になるのか…それは良い事だね」

　はぁ…………仕方ない。

　何を言っても無駄そうだし…大人しく魔王の言葉に従っておくか。

「分かった。で、さっきの言葉本当だろうな魔王」

「もちろんだとも。非常時と仕事を頼む時以外は自由にしてもらって構わぬ。そして、バルバ達と同等の権限を与えよう」

「同等の権限？」

「独自の部隊を作る事の許可、書斎に厳重に保管してある書物の閲覧の許可等だな」

　厳重に保管してある書物の閲覧の許可？

　…なるほど。俺が書斎でそういった書物を堂々と読めるようにするために部下にしたかったのか。

「有難くその権限とやらを使わせてもらおう。それと、俺に頼みたい仕事というのはどんな事が多くなりそうなんだ？」

「それは主に指揮系統の事を頼みたい」

「何故だ？」

「ユキ、貴様がこの世界に来て、ここへ来るまでの道中についてレイリスより聴かせてもらった。貴様はどんなことが起きても動じない精神力、物事を冷静に見極め最善の判断を下す、観察力と判断力。そして、普通なら思いつかない事を発想する、柔軟な思考力。それらを持っていると我輩は判断したという訳だ」

「なるほどな。だが生憎、個人への指示ならともかく、軍の指揮を執るのはやった事が無いから、厳しいぞ」

「それについての心配は無い。軍の指揮をする際にはサポート役を１人か２人付ける予定だ」

「分かった。それなら恐らく問題ない」

「フハハハハハ！良い返事だ。では早速、我輩との最初の謁見の際に話しそびれた、勇者の一味を使った策について聴かせよ」

　そういや、その策について何も話していなかったな。魔王の重役の部下である隊長とやらも全員いるから丁度いいな。

「分かった。この策の目的はロゼ王国内の軍事情報やその他諸々、勇者達の動向を探り、その情報を基にロゼ王国の戦力を削ること。やり方は、捕まえた勇者の一味をスパイとして送り、定期的にこちらへ情報を流す。そして時期を見計らい、ロゼ王国と勇者共に痛手を負わせる。策の内容はこんなとこだ」

　と言っても、本（・）当（・）の（・）や（・）り（・）方（・）は少し違うんだけどな。

　俺の策が思ったより普通だったためか、魔王達は微妙って顔をしてるな。

「ユキ殿…思ったより普通の策だな…」

「あぁ、勇者一味の女に説明するものだからな」

「人間、それはどういうことだ？」

「本当のスパイは勇者一味の女ではなく別の人物だ。そして、勇者一味の女は人間達へ寝替えさせる前提で行動させる」

　そう言うと、今度は唖然とした表情をした魔王達。ズワルトはずっとニコニコした顔で俺の説明を聞いているけどな。

「ユキ…どういうことですか？」

「魔王、口調が素になっているぞ」

「え？あっ……フハハハハハ！ユキ、説明せよ！」

「はいはい。で、何故寝替えさせる前提かというと………そっちの方が奴らに与えられる精神的ダメージが大きいからだ。後、行動の仕方が想像し易いから、こちらも動きやすい」

「アハハハハ！！悠貴最高！それでそれで、その策はいつやるのかな！？」

「落ち着けズワルト。この策は今からでも構わないが準備があるからな。最低でも半年は待ってくれ」

「慎重だねぇ悠貴は」

「確実に遂行したいからな。魔王、そして隊長方、俺の策を簡単に説明したが…乗るか？」

「邪神様もこう仰っているのでな、我輩は乗るぞ！」

「我はどんな策であろうが乗るつもりだったぞユキ殿」

「アタシも乗るわ」

「レイリス様の結婚相手の策ってのが気に食わないが俺っちも乗るぜ」

「お前、まだそれ言ってんのか…オレサマも乗ってやんよ」

「ワシも乗らせてもらうとしようかの」

「私も賛成だ」

「当方もその策に乗らせていただくとしよう」

「分かった。さっきも言ったが、準備があるからこの策を始めるのはまだ先だからな」

　誰か１人は乗らないとおもっていたんだがな…

　まぁ、全員乗ってくれたのはスムーズに事を運べるため良かった。

「ユキよ、貴様が準備とやらをしている間に我輩達にしておいて欲しいことはあるか？」

「そうだな……戦力の向上と、スパイに特化した奴を３人程育てておくこと。そして、勇者一味の女に教える、ここの偽の情報の作成だな」

「準備期間は約半年でいいのか？」

「最低な。もし、延びたり、早まったりする場合は俺から連絡する」

「分かった。だが、偽の情報の作成とやらには貴様にも付き合ってもらうぞ」

「もちろん付き合うさ。俺も把握しておかないといけないしな」

「これにて、今回の集会は終了とする。バルバとユキ以外は各自の持ち場へ戻るがよい。では、解散！」

　魔王の号令の後、俺とバルバ、魔王、そしてズワルト以外玉座の間から出て行った。

「ユキ殿、魔王軍参謀への昇格おめでとう」

「魔王が勝手にしたことだがな」

「フハハハハハ！我が娘、レイリスから貴様がここへ来るまでの道中について聴いてなかったら、参謀なんぞにしなかったのだがな」

「うんうん、魔王君は素晴らしい判断をしたね」

「これはこれは、ありがとうございます邪神様」

「しかし、本当に何者なんだユキ殿は……邪神様が興味を持った存在なんて、魔王様以来であるぞ」

「そうなのかズワルト？」

「そうだね。それに、人間で興味を持ったのは悠貴が初めてだよ」

「そうか……で、魔王。俺とバルバを残したのは何故だ？」

「それはだな…単なる雑談だ」

　雑談？

「そんな事のために残したのか？」

「ユキ、そんな事とはなんだ！コミュニケーションを取ることは大事であるぞ！それに我輩は貴様の義父になるのだぞ。バルバに関しては、我輩の部下で一番信頼している男だからだ。他の隊長達の事をよく教えてもらうことだ」

「ということらしい」

　ふむ…たしかに魔王の言うことに一理あるな。

「分かった。いくらでも付き合うぞ」

「フハハハハハ！では、早速我が娘の事について語ってやろう！レイリスは小さい時から凄かったのだ！今から…………」

　前言撤回、無駄な時間を過ごすことになるかもしれん…………

　それから３時間後、魔王のレイリス自慢も終わり、バルバから他の隊長達について教えてもらった後、俺はズワルトに魔王城の天守閣にある部屋へ連れてこられた。なんでも、ここがズワルトが現界した時に利用している部屋だそうだ。

「ズワルト、また俺に訊きたい事があるのか？」

「その通り！で、今回訊きたい事はね…悠貴はあの人間達に復讐するのか否かって事だよ」

「復讐……か…」

　そんなの決まっている。俺は…………

「俺は復讐なんぞしない。そんな下らない事、何のメリットも生まないからな」

「そうなんだ～悠貴がどんな復讐をするのか見てみたかったよ。それに復讐された相手がどんな顔をするのかもね…」

「それは悪い事をしたな。まぁ、今回の策でお前の見てみたいものはいくらでも見れるだろうから安心しろ」

「うんうん、楽しみにしてるよ」

「話はこれだけか？」

「もう１つあるよ。今回の策が成功したら頑張ったご褒美をあげようかなあと思ってるんだけど、悠貴はどんなモノが欲しい？」

　欲しいモノか…

「それは何でもありか？」

「僕が出来ることであればね。あっ、不老不死とかは無理だよ」

「そんなモノは欲しくない。だが、そうだな……俺の寿命を延ばす事は出来るか？」

「なにかやりたい事でもあるの？」

「特には無いけどな。シエスはエルフであるし、レイリスは魔人族だからな。もし俺が死んだ場合、あいつらが何をしでかすか判らないからな。特にシエスの場合」

「アハハハハ！確かに、シエスちゃんの君への執着を見るにとんでもないことをやってのけるかもね。いいよ、寿命を延ばすくらい造作もないよ」

「交渉成立だな」

「ただのご褒美だけどね」

「じゃあなズワルト、また何か話したい時は呼んでくれ」

「またね悠貴」

　レイリスから教えてもらった転移（トランス）を使い、アルフの店へ戻った。

「ホント…楽しみだよ。勇者君達の顔が絶望に染まるのが…ね」

「ただいま」

「ユキおかえり」

「シエス、レイリスとアルフは客対応してるのか？」

「うん。わたしは今休憩中」

「そうか……なら俺も少しばかり休憩させてもらうとしよう。ずっと立ちっぱなしで疲れているからな」

「身体揉んであげる」

「頼んだ」

　店仕舞いをした後、シエス達に今日の報告をした。その際にレイリスとアルフが驚愕したのは言うまでもない。

　これから色々忙しくなりそうだ。