第19話 レイリス

「やっぱり、ロクでもない理由だったか………」

「ありゃ…リアクション薄いね…」

「そいつは悪いな。俺は感情が無いのでね、リアクションを楽しもうと思っても無理だぞ。地下牢に幽閉している女なら良いリアクションをしてくれるかもな」

「地下牢に幽閉している女…………さっき君が言ってた勇者の一味で、君の同郷の子だね」

「そうだ。お前は魔人族から崇められているんだろ?案内してもらって、言ってきたらどうだ?」

「それはナイスなアイデアだね。そうさせてもらうとするよ。ところで君はまだ、この魔王領にいるのかい?」

「1、2年はいるつもりだが、それがどうした」

「君は興味深いからね、もっとお話がしたいのだよ」


 俺が興味深い…………神というのはよく解らんな。初めてそんな事言われたぞ。


「まぁ、俺もお前には色々と訊きたいこともあるから、いつでも話し相手にはなってやる」

「それはそれはありがとう。なら、これから名前で呼ばせてもらうよ。あっ、僕の名前はズワルト。僕の事も次からは名前で呼んでね悠貴」

「好きにしろ」


 それから、暫く邪神…ズワルトと話し込んだ。神とはいえ、それなりの常識はある奴ということは判った。


 で、寝泊まりしている部屋に戻った訳だが……


「レイリス、何故お前がいる?」

「何故って、あたしがユッキーの奥さんだからに決まってるじゃない」

「そういやそうだったな……」

「もう!忘れないでよ!シエスも何か言ってやって!」

「ユキお帰り」

「あぁ、ただいま」

「……はぁ、もういいわ。ユッキー、さっきこの城の書斎にある本を自由に読めるかって言ってたよね?」

「あぁ、それがお前との結婚を受け入れる条件だからな。で、自由に読めるのか?」

「うん、大半は自由に読めるよ。ただ、中にはお父様の許可がないと読めないものもあるから、それについて教えておこうと思って」


 魔王の許可無しでは読めない本もあるのか……魔王から仕事を貰う時に許可してもらうとしよう。


「ユキ、書斎に行くの?」

「明日からまた、アルフの店で仕事だろ?だから、今の内に読めるだけ読んでおかないといけないからな」

「ユッキー、読みたい本が沢山あるなら、あたしが明日以降持っていってもいいけど……」

「それもいいが……俺を転移トランスで書斎へ運んでくれる方が効率が良い」

「なら、そうしましょ。それならユッキーに付いて行く口実が出来るし」

「は?俺達に付いて来るのか?」

「もう……さっきも言った通り、ユッキーの奥さんなんだから当然でしょ。シエスにはもう許可を取ってるわよ」

「レイリスは一緒でも良い」

「分かった。魔王は許可してるのか?」

「後で貰いに行くわよ」

「なら先に書斎だ。俺が読書している間にでも行け」

「もう、そんな邪険に扱わなくてもいいのに……」


 レイリスが何か言ってるが、放置でいいだろう。どうでもいい事に時間を費やすべきではないしな。


「書斎へ行くぞ。さっさと準備しろ」






「ユッキー、こっちがこの書斎にある書物の中でも特別なものよ。下の方にあるのは自由に読んでもいいけど、上の方にあるのはお父様の許可が必要なのがあるから注意してね。まっ、その本は厳重に封印してあるから読めないけどね」


 書斎に着いた後、俺達はレイリスの案内で奥まで進んで行き、説明を受けていた。

 魔王の許可がいるやつは封印してあるのか…それは判り易くていいな。それと、上の方がより重要な書物があるんだな。後で少し漁ってみよう。


「説明ありがとう。レイリス、今日はずっとここに籠っているから魔王のとこに行って、許可貰ってこい」

「どういたしまして。そうね、お父様のところに行ってくるわ。シエスまた後でね」

「またね、レイリス」


 魔王のところに行ったレイリスを見送り、シエスと共に読書の時間に入る。


「ユキ、どんな本を探すの?」

「魔法に関する本だな。アルフから色々教わる予定だが、奴でも知らない事はあるだろうしな。後は、魔人族しか知らない魔法があれば、それを習得したいというのもあるが…」

「分かった。探してくるね」

「頼んだ」


 本棚に収められている本を5冊程取り出し、近くのテーブルの上に置き1冊ずつ読み始めた。




 ユッキー達と別れたあたしは、ユッキーに付いて行く許可を貰う為にお父様の部屋に訪れていた。お父様はユッキーのことをそれなりに評価してるみたいだから許可は下りるでしょうけどね。


「あら、ラグエルもいたの」

「姉貴と違って、俺は父上の仕事を手伝っているからな」

「あたしも少しはお父様の仕事を手伝っているわよ」

「たしかに少しだけ、手伝ってるな」

「ラグエル、レイリスをあんまり揶揄うんじゃありません。で、レイリス、どうしたんです?」

「今日、ユッキー達がバベルに戻るでしょ。それにあたしも付いて行くから、許可を貰いに来たの」

「ふむふむユキに付いて行きたいと……付いて行きたい!?」

「姉貴、アイツに付いて行って何するんだよ…」

「もちろん、ユッキーのサポートよ」


 そう、ユッキーのサポートをするためにあたしは付いて行く。そして、ユッキーを殺そうとしたという、ユッキーと同じ世界から来た人間共とロゼ王国の国王を殺すために…


「そうですね……ユキに付いて行くことは許可しましょう。邪神様が何故か一目を置く存在みたいですしレイリスが危ない目に遭うことは無さそうですからね…」

「ありがとうお父様!」

「但し、付いて行ってもいいのは今のところはバベルまでですからね!」

「それでいいわ」


 今はバベルまで。つまりユキがお父様から、完全に信用されるようになったら何処へ付いて行っても良いということね。


「それにしても父上、何故邪神様はアイツに一目を置いているんでしょうね」

「恐らく、あのでしょうかね…」


 ユッキーがあんな目になった理由をあたしは知っている。ユッキーが邪神様と話し込んでる間にシエスから聞いたのだ。ユッキーには悪いと思ったけど、好きになった人のことは色々知りたいからね。

 シエスからユッキーの過去を聞き終わった時、あたしはユッキーを助けてあげたいと決意した。まぁ、ユッキーからしたら余計なお世話になるかもしれないけどね…


「それじゃ、お父様。あたしはユッキー達のところに戻るね」

「分かりました。そうだレイリス、ユキに7日後に仕事を与えるから、7日後にここへ連れて来てくださいね」

「7日後ね、了解。ユッキーに伝えておくわ」


 お父様から許可を貰ったあたしは、お父様の部屋を後にした。

 今頃、ユッキーは本の虫になっているのかしらね…



「ユッキー、シエス、戻ったわ」

「お帰りレイリス」


 5冊目を読んでいるところでレイリスが帰ってきた。魔王からの許可は下りたという報告と7日後に仕事を与えるという魔王からの伝言を受けた。


「という事だから、7日後あたしがお父様のところへユッキーとシエスを連れていくわ」

「了解だ。で、レイリス、お前はこの後どうする?」

「ここに残るわ。ここに詳しい人がいる方が便利でしょ?」

「たしかにな…そんじゃ、シエスと一緒に魔法に関する本を持ってきてくれ」

「分かったわ」




 その後、エオスの宿へ戻るまで書斎で読み続けた。シエスとレイリスがいたおかげで大分捗ったな。

 今後もこういう時は2人に頼るとしよう。

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