第17話 魔王ベルゼ前編

 翌日、使用人が持ってきた朝飯を食べ終えた俺達は、ファニスが迎えに来るまで、アルフから教わった魔力向上の瞑想を座禅を組み行っている。シエスは俺の膝の上に座りのんびりとしている。


 それから1時間くらい瞑想をしていると扉からノックの音がした。


「ユキさん、シエス、準備が出来ましたので迎えに来ましたって、何してるんですか?」

「ただ瞑想してただけだ。シエスは休憩してただけのようだがな」

「ユキの膝の上の座り心地が良すぎるのがいけない」

「なら今度、私も座らせてもらっても良いですか?」

「別にそれは構わな」

「それはダメ。わたし専用」

「い、1回くらい良いじゃありませんか」

「1回でもダメ」


 最近思うが、シエスのやつ、表情は相変わらず死んでいるが、感情は復活しているんじゃないのか?何かと俺にくっつきたがるし…

 だが、今はそんな事より…


「お前ら、下らん事を話してないで魔王のところに行くぞ。ファニスさっさと案内してくれ」

「は、はい。了解です!」





 ファニスに付いて行くこと約5分、3メートルはあるであろう大きな扉のある部屋の前に俺達は辿り着いた。


「魔王様達が居られる、玉座の間に着きました。このまま入って大丈夫ですか?」

「問題ない」

「同じく」

「分かりました。それと、言い忘れてましたが、私は途中で隊長の傍に行かなくてはいけないので、途中で離れてしまいます。すみません……」

「気にするな、正直ここまで案内してくれただけで充分だ」

「ありがとうございます。では、入りましょう」


 玉座の間へ入り先ず目にしたのは、黄金で豪華な装飾の付いた大きな玉座に座る、長身で金髪の魔人族の男と、その左右にいるシエスくらいの背の朱髪の魔人族の男、俺と同じくらいの背の蒼髪の魔人族の女。そして玉座のある場所から敷かれている絨毯を挟むように、1列10人ずつ並んでいる魔人族20人だ。

 2列の魔人族をよく見ていると、バルバとアルゴの姿が確認できた。


 列の最後尾辺りまで進むとファニスが跪いた。


「魔王様、各隊隊長の皆様、件の人間である、ユキ・ヤガミと付き人のシエス・ノワールを連れて参りました!」


 ユキ・ヤガミ…………そういえば、こっちの世界じゃ海外と同じようにファミリーネームが後ろに来るんだったな。


「ファニス、ご苦労であった。持ち場に戻るがよい」

「はっ!」


 ファニスは俺達に軽く会釈をして、バルバの元へ行った。


「人間、ユキ・ヤガミ。そしてエルフのシエス・ノワールよ。よくぞ参った。我輩がこの魔王城の主であり、魔人族の王、魔王ベルゼである!貴殿がこの領地へ足を踏み入れ、我輩に会いに来た理由は既に知っているが、改めて申すがよい」

「分かった。んじゃ、改めて……俺の名は矢神悠貴。異世界から召喚された人間だ。ただ、一緒に召喚された勇者共の陰謀で殺されそうになったから奴らの仲間ではない。そして、ここに来た目的は取引だ。内容は、人間達の国の情報、そして勇者共の情報を与えるかわりに、俺とシエスには手を出さないでほしいというものだ」


「異世界から来た人間だと!?」

「人間共に殺されそうになったから、この地へ逃亡したのか…」

「魔王様に直接取引するだど……下等な人間のくせに……」


 バルバ達は俺の事を短い間とはいえ、多少理解しているためか、特に何も言っていない。だが、他の連中は、俺が異世界から来た人間ということに驚いてるやつもいれば、俺の事を無礼者と蔑んでるやつ、はたまた、同族に殺されそうになった俺に同情してるやつもいるな。


「静まれ、皆の衆!」

「「「申し訳ございません魔王様!!!」」」


 騒いでいた連中が魔王の一喝で、一瞬の内に黙ったな。流石は魔人族の王だな。


「では、貴様の取引について色々と話し合っていきたいところだが、その前に我が子供達を紹介しておこう。ラグエル、レイリス前に出て挨拶するがよい」

「分かりました父上」

「分かったわお父様」


「人間ユキ・ヤガミ、俺の名はラグエル・ブラストだ。以後、よろしく」

「あたしはレイリス・ブラストってきゃあああ!!」

「ど、どうした我が娘よ!?」


 魔王の娘が俺を見て自己紹介しようとした際に、いきなり奇声を上げた。そのせいで魔王が若干戸惑っているな…と、思っていたら、いつの間にか俺の前に魔王の娘が来ており、俺の両手を握った。そして……


「人間、ユキ・ヤガミ、一目惚れしました。このあたしレイリス・ブラストと結婚してください」

「ゑっ?」


 は?結婚?




「「「「「「ええええええぇぇ!!!!!!?」」」」」」


 こいつの爆弾発言によって、玉座の間が驚嘆の声で埋め尽くされた。








 5分程経ち、ようやく落ち着いたように見えたが、魔王達は未だに混乱していた。


「あ、姉貴いきなりどうしたんだよ!?」

「そ、そうです!レイリスいきなり求婚なんてして……パパは絶対認めませんよ!」

「ちょっ、魔王様口調!口調が素に戻ってます!」

「今はそんな事どうでもいいのです!」

「いや、折角の威厳とかが台無しになっていしまうのでやめて下さい!!」

「そ、そうですよ父上!」

「威厳よりも娘の純潔の方が大切なのですーー!!うおぉぉ!!」

「ま、魔王様!こんな場所で力を使わないでください!」

「父上それはしてはいけない!」

「総員魔王様を止めるんだぁあ!」

「りょ、了解!!」

「は・な・せ!!ワタシを止めるなーー!!」


「だ、誰か、魔王様を正気に戻してくれーー!」

「この状態の魔王様をどうやって正気に戻すんだよ……」

「そりゃ……一発殴る?」

「バカ!そんなこと出来るわけないだろうが!!」

「それじゃあどうすんだよ……」


 何だ、このカオス空間は…………魔王は俺の方に今にも飛び出そうとしているのを息子や部下に止められ、他の部下の連中は一向に答えが出ない解決策を話し合っている。そしてこのカオス空間を作った張本人は魔王たちに目もくれずに俺の手を握り、今か今かと俺の返事を待っている。

 シエスは爆弾発言を聞いてからずっと固まっている。


「レイリス、お前と結婚することによって、俺が得られるメリットは何だ?」

「メリット?そうね…………隊長達と同じくらいの権力が手に入ることと、この魔王城にあるものを自由に使えることぐらいかしら?」

「つまり、書斎にある書物を自由に読めるということか?」

「もちろん」


 この女と結婚した場合、色々と厄介事に巻き込まれる可能性が有りそうだが、あの書斎の本を自由に読むことが出来ることに比べたら些細なことだな。


「分かった、結婚しよう」

「ホントに!?」

「但し、そこで固まっているシエスも一緒になるが構わないか?」

「もちろんいいわよユッキー。だって素敵な男には多くの女性が集ってしまうものだからね」



「「「「「なにぃぃぃぃぃ!!!!?」」」」」


 俺の返事によって、玉座の間が再び驚愕の声で埋め尽くされた。




 数日前、お父様からとある人間について聞かされた。なんでも、国から追い出された人間で、この領地に少し入ったところでバルバ隊長に拾われたとのことだった。それを聞いて、少しだけ気になったけど、どうせ、他の人間と変わらないのだろうと思っていた。


 けれども今日。例の人間に会った瞬間、あたしは恋に落ちた。

 スラッとしている細見の体型、微妙に整っていない顔、そしてあの、この世の全ての闇を凝縮したような物凄く淀んだ目を見ちゃった結果ね。あんな目を見てしまったら一目惚れするしかないじゃない!!



 勢いそのままに、このチャンスを逃がさまいと求婚すると、あたしと結婚することのメリットを訊いてきた。なんでそんな事訊くのかと思いながら、メリットを話すと結婚を承諾してくれたわ。ただ、横にいるエルフの娘も一緒というのが条件と言われた時は、少しびっくりしたけど、いい男には多くの女性が集まるのが普通だもんね。だからエルフの娘が一緒というのを許可したわ。



 これから末永くよろしくね、ユッキー!

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