第16話 悠貴、魔王城へ入城する
アルフに正式に
「ユキ殿、シエス殿早朝から済まない」
「いや、問題ない。バルバが来たということは、魔王との謁見の日程が決まったのか?」
「あぁ…魔王様との謁見は明日行われる。但し、魔王城の案内をしなくてはいけないのでな、今から一緒に来てほしい」
「分かった。ただ、先生に今日と明日仕事出来ないことを伝えに行っても良いか?」
「それは問題ないが…ユキ殿、今何処かで働いているのか?それに先生とは一体……」
「シエスと一緒に薬屋で働いている。そこの店主、アルフに色々教わっているから先生というわけだ」
「アルフお爺ちゃんは物知りだから勉強になる」
「アルフ……。ユキ殿、シエス殿、運が良かったな。彼は、以前話した魔王様の側近の方達とほぼ同じくらい長生きしておられる方だ。存分に学ぶと良いだろう。アルフ殿の魔力は知っているから
「頼む」
「頼まれた」
バルバの
俺らがアルフに報告した後、バルバとアルフが少し話し込んでいたが、何を話していたのだろうか……
「ここが魔王様が住んでおられる魔王城だ」
「立派だね」
「そうだな」
どことなく某伯爵が変態達によって蹂躙されるゲームに出てくる城に似てるな……
シエスと一緒に城の外観を眺めていると、バルバが門番と思われる魔人族の男を連れて来た。
「貴様らがバルバ様が連れて来た人間とエルフの女か。私はこの城の門番をしているボルだ。暫くの間よろしくな」
「こちらこそよろしく。俺は矢神悠貴」
「シエス・ノワール」
「ボル殿、今日もしっかり頼むぞ」
「はっ!お任せくださいバルバ様!」
「ユキ殿、シエス殿、我の後ろに付いて来てくれ」
「分かった」
城内に入りしばらく歩いていると、バルバが突然口を開いた。
「1つ報告し忘れていたことがあった。貴殿等が捕まえた、異世界から召喚された勇者の一味である女だが、奴は今この城の地下牢に幽閉している。後で様子を見に行くか?」
「そうさせてもらおう」
「バルバ、わたしたちは今何処に向かっているの?」
「先ずは、今日貴殿等に泊まってもらう部屋だ。我が早く連れ出したせいでまだ朝食を食べてはいないだろう?」
「そういえば食べてなかった……」
「もらってもいいのか?」
「構わない、貴殿等は客人だからな。客人をもてなすのは当然の事」
「朝食って、何が出るの?」
「それは着いてからのお楽しみだ、しばし待て」
それから、更に10分程歩くと目的の部屋に着いたようだ。道中この城の使用人達と何人かとすれ違った。使用人も魔人族しかいないと思っていたが、エルフや獣人と、魔人族以外の種族もいるようだな。バルバが言うには、バベルに魔人族以外が住むことを許可していることと同じように、城で働くことも許可しているとのことだ。
「ユキ殿、シエス殿、着いたぞ。ここが貴殿等に泊まってもらう部屋だ」
扉を開け、中へ入ると高級ホテルにあるスイートルームのような豪華な装飾や大きなベッドが目に入った。
「バルバ、ただの客人にしては泊まる部屋が豪華過ぎじゃないか?」
「魔王様からの指示だ。「フハハハハハ!この我輩と取引したいだと、面白い!バルバよ、その人間には最上級の持て成しをしてやれ」と仰っていたからな…」
「普通なら「無礼だ!そんな人間なんぞ殺してしまえ!」とか言われると思うのだが……」
「先代の魔王様ならそう仰っていたと思うが、今代の魔王様は少々特殊なところがあるからな」
「そんな事よりご飯はまだ?」
「そろそろ用意が出来る頃合いだと思うが……」
シエスって、こんなに食い気たっぷりなキャラだったっけか?
そう思っていると、ノックの音の後、見知った顔が入ってきた。
「隊長、食事の用意が出来ました」
「待っていたぞ。シエス殿、存分に食べてくれ」
「ん…ユキ食べよ?」
「あぁ…。そうだ、ファニス、あの女をここに連れて来た後の様子を分かる範囲で教えてくれ」
「分かりました。ユキさん達と別れ、ここへ連れて来た後、地下にある牢屋に閉じ込めました。その時
「そいつは重ね重ね手間を掛けさせたな」
「いえ、こちらとしても貴重な存在ですので、この程度大丈夫です」
「そうか……」
そのまま朝飯を食べながら、雑談をしていると、ふとバルバが立ち上がった。
「すまないユキ殿。本来であれば我が城内を案内する予定だったのだが、重要な会議に出なくてはいけないのでな、これにて失礼する。ファニス、後は頼んだ」
「はい、私にお任せください!」
バルバが部屋を出て行き、朝飯を食べ終わった俺達はファニスの案内の元、人質にしたクラスメイトの女を閉じ込めている地下牢へ足を運んでいた。えっと、たしか女の名前は零条美紗だったか?
「ユキさん、シエス、着きました。ここにユキさんが連れて来た人間の女を閉じ込めております。看守の皆さん、少し席を外してください」
「了解致しました、ファニス様」
牢屋の中へ入ると、手足を鎖で繋がれ、俯くように座り込んでいる零条美紗の姿があった。着ている服は乱れ、体のあちこちが汚れているところを見るに、脱出しようと暴れた話は本当のようだな。
「……………………」
「ファニス、こいつの健康状態はどうなっている?」
「一応、食事は無理やり食べさせているので衰弱して動けなくなってはないはずです」
「それならいい」
さて…交渉の道具として使えないと少々不利になってしまうからな。念の為、起こして確かめるか……
零条美紗の体を揺すってコイツを起こす。
「……ん。なんですの……って貴方は!?」
「起きたか……」
「貴方のせいで、私は……!今に見ておきなさい!きっと不知火様が貴方達を倒しに、そして私を助けに来ますわ!」
これだけ元気なら問題なさそうだな。
「あっそ……ファニス、用は済んだ。この城の残りを案内してくれ」
「もういいのですか?」
「あぁ、元気かどうか確かめたかっただけだからな」
「分かりました。では行きましょう」
「ちょっと、私を無視しないで下さい!!シエスさんも何か言って下さい!」
「…………何故?」
「シエスさん!?」
「おいシエス、こんなやつに構うな。行くぞ」
「分かった」
「お待ちなさい!」
零条美紗を無視して地下牢を後にした。
「ファニス、最初は何処から案内してくれるんだ?」
「そうですね…私がこの城で一番好きな場所に案内します」
「ファニスが好きな場所?」
「はい、アルゴや隊長も好きな場所です」
「着きました。ここが私がこの城で一番好きな場所です!」
「ここか…」
ファニスの案内で着いた場所は、この城の中庭のようだ。
整備された草木と綺麗な水の水路や噴水、そして太陽の日差しによって神秘的な雰囲気を出しているな。
「今日は天気が良いので天井が無いのですが、雨の日は天井が付くので、雨の日でもここでのんびりすることが出来ます」
「魔法で覆うのか?」
「いえ、ここにあるレバーを下ろせば…………」
ファニスが近くにあったレバーを下ろすと、ガチャガチャと音を鳴らしながら1分程で天井が出来上がった。しかも天井は全てガラスのようであるため、暗くなることもない。
「ほう、これは凄いな」
「この城自慢のスポットですからね。設備も充実しているんですよ」
「ほえ~」
この世界は魔法があるため、科学はそんなに発展していないと思っていたが、そうでもないようだな。まぁ、魔人族だけなのかもしれんが………
「それでは、次にいきましょう」
「頼む」
「次は…………」
それから、ファニスに城内を案内してもらった。途中、書斎に案内してもらったが、今は時間が無いため書物を読むことが出来なかった。明日、魔王と交渉して読めるようにしないとな…
晩飯はファニスが持ってきたものを一緒に部屋へ来たバルバとアルゴと共に食べ、明日の事について色々と説明された。と言っても、俺達の準備は無いからファニスが呼びに来るのを待つだけだがな。
それと、謁見の際、敬意を払いながら喋った方がいいかと訊いてみたが、いつも通りの口調で大丈夫とのことだ。魔王本人が、そうするようにと言ったらしい。正直、どちらでも良かったが、魔王が許可しているなら普通に話すとしよう。
「シエス、明日に備えてもう寝るぞ。今日も俺のとこで寝るのか?」
「一緒に寝る」
「好きにしろ」
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