第15話 先生アルフ
飯の準備が終わり俺達3人はここへ来た時と同様、テーブルを囲むように座った。
「ユキ、お主料理出来るのか」
「1人暮らしが長かったからな」
「ユキの料理は美味しい。わたしが保証する」
「ほっほっほ、それは楽しみじゃわい。では、食べながら話すとしようかの」
「で、ユキよ、お主の訊きたい事はなんじゃ?」
「アルフ、アンタは魔法に詳しいのか?」
「そうじゃのう……長い間生きておるからそれなりにじゃな」
「魔法を使う際、威力は変わらずに魔力消費を軽減させることは出来るか?」
「ほう…威力を変えずに魔力消費を軽減させることが出来るか、か……出来るか出来ないかで言うと、出来るじゃな」
「それはどんな方法だ?」
「方法はひたすら鍛錬あるのみじゃな」
「鍛錬する。本当にそれだけで魔力消費を軽減させることが出来る且つ、威力がそのままの魔法を使うことが出来るのか?」
「そうじゃ。じゃが、その鍛錬は100年、200年と長い年月の間鍛錬することで出来る、魔法を扱う者の境地みたいなもんじゃ。じゃから寿命の短い人間ではその境地へ達することは到底不可能じゃ」
「アルフの言う
「後者の方が正解じゃ」
「そうか……」
異世界から来た人間も含めてか……だがそれは
「ユキ、何でそんな事訊いたの?」
「いつかガルラ帝国に行くだろ。その時に万が一の事があった場合のために備えておこうと思ってな。それに、力を付けておくことは、悪いことではないからな」
「そう……」
「で、アルフ。人間の俺でも、その境地とやらに辿り着ける方法は無いのか?」
「む?さっき儂は人間では不可能と言ったのじゃが…」
「不可能?それは
「いや、お主も普通の人間……いや普通じゃないな………。はぁ…分かったのじゃ。それで、お主等はこの
「そうだな。魔王との交渉次第だが、正直なところ1、2年は居たいと思っている」
「ほうほう、そんなにも居るつもりなのじゃな。ならば時間はそれなりにあるようじゃな。シエスちゃんも一緒に居るのじゃろ?」
「もちろん。わたしはユキの居る場所がわたしの居場所だから」
「そ、そうなのじゃな……(このシエスちゃん、何というか……怖いのう…)」
「なら、シエスもアルフから何か教われ。色々な知識を吸収出来るまたとない機会だからな」
「分かった」
「ユキよ、儂を持ち上げ過ぎじゃ」
「そうか?」
「まぁ、いいじゃろう。それで、いつから教えればいいんじゃ?」
「今日からでもいいか?」
「問題ないのじゃ」
「ありがとう」
「どういたしましてじゃ。そういえば、話の流れでお主等の先生をすることになったが、お主等今日を含め、3日間しかここで働かないのだろう?」
「そういえばそうだったな……ならアルフ、俺達を正式に雇ってくれ。賃金は2人で1日銀貨1枚でいい」
「2人で1日銀貨1枚じゃと!?そ、それは流石に安過ぎるのじゃ!」
「アンタから様々な知識を学べるからな。賃金なんてそのくらいでいい…寧ろ、もう少し安くてもいいくらいだ」
「こ、これ以上下げるのは儂の心が痛むから勘弁してくれ…」
「分かった。それと、正式に雇ってくれたら金貨5枚は支払わなくていいぞ」
「いや、金貨5枚についてはきちんと支払う。そのお金でシエスちゃんに美味しいものでも食べさせてやってほしいのじゃ」
「……分かった。それで、俺達を雇ってくれるか?」
「まぁ、正直今日の働きぶりを見て、このままいてくれたらと思っとったからのう…お主等を雇うことにしよう」
「重ね重ねすまんな」
「良いのじゃ。儂も久しぶりに教えがいのある奴に出会えたのじゃからな。一旦この話は置いておくのじゃ。他に訊きたい事はあるのかのう?」
他に訊きたい事か……何処か住むのに良さそうな辺境の地が無いか訊いてみるとしよう。
「アルフは人間の居ない、住むことの出来る辺境の地を知っているか?」
「辺境の地じゃな。そうじゃのう…ここから更に西へ進んだ先に小さな湖のある森がある。そこなら良いのではないか?」
「そうだな、いずれ行ってみるとしよう」
「シエスちゃんは、訊きたい事があるかの?」
「わたしは特に無い」
「そうかの。なら、これにて話は終わりじゃ。飯を食べ終わったら早速始めるから覚悟しとくんじゃ」
「あぁ、分かった」
◇
儂は初めてユキを見た時、奴の目を見て酷く驚いた。
これまで生きてきた中で人間を何度も見かけたが、凄まじく暗い闇のような目をした人間なんぞ会ったことが無いからのう。
じゃが、何故かは分からんが、こやつは悪い人間ではないと思った。そして、ユキと話してみると悪い人間ではないというのが判った。まぁ、何も感情の籠っていない感謝や謝罪等には少しばかり驚いたがのう…
恐らく、元居た世界でよっぽどの事があったんじゃろうな……何故ユキが闇のような目をすることになってしまったのかについて知りたいのじゃが……もう少しユキの事を解ってからの方が良さそうじゃな。
そしてシエスちゃんもユキと同じような目をしておることから、シエスちゃんも酷い目に遭ってきたのじゃろう……じゃが、ユキと話す時は表情がほんの少しだけ明るくなってるようじゃし、ユキがいれば問題なさそうじゃの。
そして、いつの間にかシエスちゃんとユキ、2人の先生になってしまった訳じゃが……先生になったことが嫌とは感じなかったのう。逆になれて嬉しいと思った。
儂の残り短い人生に生きがいを見つけさせてくれてありがとう、ヤガミユキ、シエス・ノワールちゃん。儂の最初で最後の教え子であるお主等2人に、儂の持っている全ての知識を授けよう。
願わくば、2人が幸せになれるまで生きていたいものじゃな……
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