第13話 異世界版ハロワ、トルーガ組合
翌日
久々のベッドで寝たお陰か、ある程度身体の疲れが取れているのを感じつつ、起きようとした時、ふと違和感を感じた。
「……なるほどな」
横に置いてある、もう1つのベッドを確認したが、そこにシエスは居なかった。つまり……
「やっぱりだな…」
シーツを捲ると、俺の腹の辺りにしがみついて寝ているシエスがいた。
「おい、シエスもう朝だ。起きろ」
「ん?……ユキ?おはよ」
「おはよう。動けないから早くどいてくれ」
「分かった」
シエスを起こした後、
「おはようございます!ユキさん、シエスさん。昨晩はお楽しみでしたね」
「あぁ、おはよう。それとお楽しみはしてないぞ」
「おはよ…」
「ふふ、そうですか。それで、ユキさん達はもうお出掛けですか?」
「ここにいても特にやることが無いからな」
「そうなんですね。それでは…はい、昨日頼まれていた地図です。お渡しする前に、ある程度この辺りについて説明しておいた方がいいですか?」
「頼む」
「分かりました、ではご説明しますね」
「ここ首都バベルは5つの区画に分かれています。先ず、ユキさん達が後で行く予定の中央区。中央区は主にこの
「俺が行かせないから問題ない」
「そうですか、なら心配いらないですね。そして最後は北区。北区は魔王城に仕えている兵士の皆様の駐屯所が主にある場所です。ここは軍事施設があるだけなので特に用が無ければ行く人はいません。以上、簡単に説明しましたが、何か質問はありますか?」
「俺は特に無い」
「わたしも」
「では、地図をお渡ししますね」
「すまんな」
「いえいえ、これも宿屋のお仕事です。では、行ってらっしゃいませ!」
ファルから地図を受け取った俺達は、地図を見ながら南区を抜け、中央区にある異世界版ハローワーク、トルーガ組合という場所に辿り着いた。
「ここだな」
「ここって、どんな場所なんだろ?」
「人間達の国にある冒険者ギルドみたいなものだろ」
「なるほど……」
組合所の扉を開け中へ入ると、朝にも関わらず、多くのヒトが職員と話しているのが目に入った。
だが、ここにいる連中なんぞ興味無いため、受付へ足を運ぶ。
「いらっしゃいませ、トルーガ組合へようこそって……人間!?ここへ何しn」
「待て、たしかに俺は人間だがバルバの関係者だ」
受付にいた魔人族の女が俺を見て騒ぎ出そうとしたため、右手に刻まれた魔方陣を女に見せる。
「そ、それは、たしかにバルバ様の部隊の一員であることを示す魔方陣……まさかそこのエルフの女の子もですか?」
「バルバの部隊には入っていないが、この魔法陣は刻まれている」
「これでいい?」
シエスも右手の手のひらを女に見せ、バルバの関係者であることを証明する。
「か、確認致しました!組合長を呼んできますので少々お待ちください!」
その場で待ち続けて約10分後、先程の女が筋肉モリモリマッチョの魔人族の男を連れて来た。
「プル、件の人間はそいつか?」
「はい、そうです組合長」
「待たせたな人間。俺様はこのトルーガ組合組合長トルーガだ」
「俺は矢神悠貴、こいつはシエス」
「……よろしく」
「あぁ、宜しくな!それと、俺様にも一応魔方陣を見せてくれ」
「分かった」
トルーガに右手の手のひらを見せる。
「たしかにバルバ様の部隊の魔方陣だな。よし、特例で、人間だがここの利用を認めよう。それで、今日の要件はなんだ?」
「数日で終わる単発の仕事が無いか探しに来た」
「なんで数日なんだ?」
「バルバが昨日、後日魔王との謁見の日程が決まり次第迎えに来ると言っていた。だから、長期間の仕事だと途中で辞めなくてはいけなくなるからな」
「ま、魔王様とのえ、謁見……だと…」
「あ、貴方は一体……」
「さっき自己紹介しただろ。矢神悠貴、ただの人間だ」
「普通の人間が魔王様と謁見出来る訳がないだろっ!?」
「……そうなのか?そんなことより、早くどんな仕事があるか教えてくれ」
「そんなことって……まぁいい。プル、こいつらは俺様が応対するから受付業務に戻ってくれ」
「あっ、はい。分かりました」
「ユキ、シエスはこっちだ」
「ここなら基本誰も来ないから安心してくれ」
トルーガに連れてこられた部屋は、どうやらトルーガ専用の部屋らしい。所謂社長室みたいなものだ。
「ここまで気を遣ってもらわなくても良かったのだが…」
「いや、もしもの事があった場合、バルバ様に顔向け出来んのでな。我慢してくれ」
「そうか…」
「それでお仕事はどんなのがあるの?」
「数日の仕事だよな…少し待ってな」
「この中から好きなのを選んでくれ」
「ふむ……」
トルーガが持ってきたのは3枚の羊皮紙。
1枚目は薬屋の手伝いを3日間、報酬は金貨5枚。
2枚目は武具屋の手伝いを2日間、報酬は金貨4枚。
3枚目は屋敷の掃除、報酬は金貨10枚、銀貨5枚。
「トルーガ、この屋敷の掃除なんだが……仕事内容に対して報酬が多くないか?」
「あぁ、それはだな……その屋敷はゴミ屋敷になっている上に匂いがキツ過ぎて誰もやらないから、最終的にその額になったのだ」
「なるほどな。シエスはどれをやりたい?」
「……わたしはこれをやりたい」
シエスが手に取ったのは薬屋の手伝いだ。
「おっ、そいつにするのか?」
「ユキ、駄目かな?」
「俺はそれで構わん」
「了解だ。明日から仕事が出来るか?」
「問題ない」
「では、明日から向かわせると連絡しておく。この店への地図はいるか?」
「あぁ、有難く貰おう。シエス店の場所を確認するついでに
「うん、一緒に行きたい」
「そういや、お前とシエスって付き合ってんのか?距離感がかなり近い気がするんだが…」
「付き合う?俺とシエスはそういう関係では無い」
「そいつは野暮な事を聞いたな」
「別に構わない。トルーガ、俺達はこれで失礼する」
「明日、ちゃんと仕事にいけよ」
トルーガに見送られ、俺達はトルーガ組合を後にした。
「ユキ、先に場所を確認しに行くの?」
「あぁ。地図によると西区の真ん中辺りにある店のようだからな」
「分かった……」
「どうしたシエス?」
「手繋ぎたい」
「あぁ、いいぞ」
そのままバベルの西区へと歩いて行った。
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