第10話 逃亡
歩き始めて約5時間が経過したが、俺達はまだ森の中にいる。
「貴方達、ずっと訊きたかったことがあるけれど、いいかしら?」
「あぁ、別に構わない。で、訊きたい事はなんだ?」
「貴方とシエスさんはいつ出会いましたの?」
「俺とシエスは城の地下牢の中で出会った。お前らのせいで入れられた地下牢の中でな」
「そ、そうでしたの…」
「……なんだ?俺の事を散々祟り神と言って嫌っているくせに、今更罪悪感でも感じてるのか?」
「そ、そんな事はありませんわ。シエスさん、ちょっといいかしら?」
「なに?」
シエスは零条美紗に呼ばれたため、俺の傍からヤツの傍へ移動した。
◇
シエスが傍に来たことを確認すると、零条美紗は、彼女へ小さな声でこう言った。
「ねぇ、シエスさん。私と一緒に祟り神から逃げませんこと?」
「ユキから?どうして?」
「どうしてって…貴女は祟り神の奴隷なのでしょう?だから、無理矢理祟り神に連れまわさせられているのですわよね?」
「わたしはユキの奴隷じゃない。無理矢理連れまわされてもいない。勝手な事言わないで」
「あらあら…これは祟り神に洗脳でもされていらっしゃいますわね…シエスさん、洗脳を解いて差し上げますので一緒に祟り神から逃げますわよ」
シエスが悠貴に洗脳されていると思い込んでしまった零条は、逃げるためにシエスの手を掴んだ。
しかし、シエスの手を掴んだ直後、零条は固まってしまった。何故なら…
「………」
「ひっ!?」
無言で零条を見つめる、シエスの物凄く濁った目を見てしまったからだ。
「わたしの…漸くできた、たった一つしかない居場所を…貴女は奪うの?」
「えっ?」
「ユキは、わたしを絶望の淵から救ってくれた。何の価値も無いわたしを必要としてくれてる。わたしを絶対に見捨てないって約束してくれた。だから、貴女と逃げない。もしもまだ、わたしを連れて逃げようとするなら…」
シエスは自身の顔を零条の顔へ、ズンと近づけた後、続きを言った。
「ユキに怒られちゃうかもしれないけど…わたしは、貴女を殺す」
「っ!?」
シエスの言葉に恐怖した零条は、直ぐにシエスの手を離した後、風魔法で脚を覆い、脱兎の如く逃げ出した。
「わ、私の魔法は風。だから逃げ切れますわ…絶対に…」
「ほぅ…大した自信だな」
「えっ?きゃっ!?」
突如、目の前に現れた人間に驚いた零条は、バランスを崩して尻持ちをついた。その際脚を覆っていた風魔法が霧散した。そして、目の前に現れた人間を認識すると唖然とした。
◇
「な、何故貴方が…此処にいるのですか!」
「
「
未だ唖然として、棒立ちしている零条へ腹パンをして黙らせた後、俺は零条の疑問に答えた。
「どうやってもなにも、普通に覚えただけだが?それはそれとして…お前、俺達からよくもまぁ、逃げ切れると思ったな…」
「ゲホッ…」
「それと、障害物の多い森の中を風魔法を使って逃げようとするとか…アホだろお前」
「…うるさい…ですわ…」
「普通なら身体強化で上に飛んだ後、
「………」
さて、
そのまま零条を観察していると、零条は上に飛んだ。だが、その行動は俺の予測通りだ。
「あばばばばば!?」
上へ飛んだ直後、
こういう単細胞の馬鹿は、動きを誘導させやすいからな…
「ユキ、この女…殺す?」
「待て待て、それを決めるのは魔王と会ってからだ。手足をふん縛って、さっさと連れてくぞ」
「分かった」
零条美紗の手足を縛り、担ぎ上げ、再び魔王領へ進み始めた。
それから数日後、俺達は漸く魔王領へ到着した。
「ここからが魔王領か……(魔王領なだけあって、魔物の気配が多いな…)」
「ユキ、ここからどう進んで行くの?」
「どう進んで行くか……取り敢えず、索敵しながら魔物の少ない所を進んで行く。魔物に遭遇したら交渉をして、出来る限り戦闘は避ける。俺達は魔王を討伐しに来た訳じゃないしな。まぁ、お前の目的は魔王討伐な訳だがな。なぁ、零条?」
「んんんー!!」
地面に転がしている零条へ問い掛けると、顔を真っ赤にしながら唸り始めた。多分、俺に対する恨みつらみみたいなのを言っているんだろう。まぁ、口に布を使った猿轡みたいなのを噛ませ、封じているため、喋れないんだけどな。
「交渉するにしても、魔物って話せるのかな?」
「その点なら恐らく問題無い。俺がこっちの世界に来る時に貰った能力があるからな」
「それってどんな能力?」
「翻訳というもので、この世界のどんな言語だろうが、俺が使う言語に変換される能力だ」
「わたしにもその能力の恩恵を受けられないのかな……」
「さぁな。それは俺をこの世界に連れて来たあの自称神に問い出してみないと判らんな」
「そっか……」
「さて、そろそろ移動するぞ」
零条を担ぎ、傍に寄ってきたシエスが差し出してきた手を握り、魔王領内の移動を開始した。
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