第11話 魔人族バルバ

 移動を開始して約3時間が経過した。正直、索敵しながら魔物の少ないところを通ると言っても、魔王領だからそれなりの頻度で魔物と遭遇すると思っていた。しかし、この道中で遭遇したのはゴブリン5匹だけだった。人間2人とエルフ1人だから見逃されているのか?

 ちなみに、遭遇したゴブリンとの戦闘は、賄賂(食料)を渡して回避した。


「ユキ、全然魔物と遭遇しないね」

「そうだな。こっちとしては有り難いが、どうなってんだこれ?」

「魔王のところに集まっている?」

「その可能性はあるかもな。ロゼ国王のいる城内で読んだ本に、魔人族は魔物を使役する能力があると書かれていたからな」

「ほえ〜」

「だが、本に書いてあっただけだから、真実かどうかは判らん。実際に魔人族と会って、本当に魔物を使役できるのかどうか、確かめてみないとな」

「その時はわたしも一緒」

「当然、お前も一緒だシエス」


 シエスの頭を撫でながらそう言ってやると、目を細めて少しだけ笑った気がした。

 そのまま頭を撫で続けていると、急に顔を顰めた。


「ユキ、何かが3つこっちに来る!」

「漸くか…どの位の大きさだ?」

「わたし達と同じくらいだけど、魔力量が多いみたい。多分、魔人族かも」

「あとどれくらいで来そうだ?」

「30秒くらい?」

「分かった」


 30秒ほどで、俺達のいる場所に辿り着くようだからその場で待つことにした。

 そのまま待っていると、両側頭部から小さな黒い角の生えた人間?の男女3人が現れた。


「この森に小さな反応が3つあると聞いて、ここへ来てみた訳だが…人間2人とエルフが1人がいるとはな」

「貴様ら冒険者か!」

「魔王様には手出しさせないわよ!!」


 俺達を見た途端、2人がそれぞれ剣を取り出し臨戦態勢に入った。


「待てお前達。いきなり攻撃を仕掛けるなと魔王様から常日頃言われているだろう」

「けど、奴等は人間ですよ隊長!エルフの女だけならともかく、そこの男はって…あれ?人間の女を担いでる?」

「しかも拘束されてるわね…」

「お前達、視界が狭まり過ぎた。帰ったら説教な」

「「えっ!?」」

「我の部下が失礼をした。すまない人間よ」

「いや、貴方達側からしたら当然の反応だ。だから謝罪はしなくていい」

「感謝する。では、本題に入らせてもらう。貴殿等は何故この場所にいる?」

「魔王と取引きをしに来た」


 そう答えると奴の部下2人が再び俺に剣を向けた。


「魔王様と取引きですって!?」

「身の程を弁えろ人間め!!」

「やめんかお前達!!」

「ですが隊長!」


 会話をスムーズにするにはこのまま、俺に剣を向けさせたままの方が良さそうだな…


「隊長とやら、俺はそいつ等から剣を向けられたままで構わない。だからこのまま会話を続けよう」

「む?そうか…お前達、我が許可するまでこの人間にいきなり斬りかかることは断じて許さんからな」

「「…了解」」

「話を戻すが、その取引きとやらの内容はどのような内容だ?」

「人間達の情報を集めてくる代わりに俺とコイツには手を出さないで欲しいというものだ。それと言い忘れていたが、俺とコイツは冒険者ではないからな」


 シエスの頭に手を置いてそう答えた。


「貴殿とそのエルフは冒険者ではないとすると、貴殿が担いでるその女は何だ?」

「コイツは最近ロゼ王国で召喚され、異世界から来た勇者の1人だ」

「それは本当かっ!?」

「事実だ。まぁ、それを証明するものはなにもないけどな…」

「いや、可能性があるだけで十分だ。そういえば、貴殿の名を訊いていなかったな。我の名はバルバだ」

「俺の名前は八神悠貴。コイツは俺のパートナーのシエス・ノワール。で、この女は零条美紗だ」

「ヤガミ・ユキとシエス・ノワールだな。では、貴殿等を魔王城のある街まで連れて行こう。付いて参れ」

「分かった」


 この隊長とやらは俺のことをそんなに警戒してないようだ。魔王とやらも、先ずは対話をしろと指導している辺り、取引きしやすい人物なのかもしれんな…

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