第9話 人質(クラスメイト)

「シエス大丈夫か?」

「うん、大丈夫。魔力はまだ半分くらいあるし、疲労もあまり無い」

「なら索敵を頼む。今の状態で魔物に襲われるのは良くないからな」

「分かった」


 俺達が無事なのは、シエスが大気圧縮砲エアストブロウを放ちスピードを緩和させ、俺が風護法エアフォースを唱えて着地したからだ。


「(さて、これからどうするかはシエスの索敵結果次第だな…)」


 その場で5分程待つと、索敵を終えたのかシエスが口を開いた。


「ユキ、この辺りには大きい魔物は居ないみたい。それと、近くに池のようなものがあるみたい」

「なら、その池付近で休むか。流石に、この暗闇の中で森の中を進むのは危険だからな。で、池までは近いのか?」

「うん。ここから歩いて少しの場所にあるよ。案内する」


 シエスの後を歩くこと約2、3分…直径約50メートルくらいの池に着いた。


「今夜はここで野宿だな」

「わたしも賛成。それで、この人間はどうするの?」

「手足を縛って動けないようにしておく。それと、服に武器を隠しているかもしれないから、全身を隈無く調べるぞ」

「分かった」




 全身を隈無く調べた結果、短剣が一本、大金貨5枚と銀貨10枚が入っている布袋、題名の書かれていない少し小さな本が1冊見つかった。


「この本なんだろう…」

「さぁな」


 本は暗すぎて文字が読めないから後回しにするとして、今日はもう休むか…






 翌朝、俺達は昨日人質にした女の怒鳴り声で目を覚ました。


「貴方達!早く起きなさい!」

「………朝から何?」

「シエスおはよう。んで、あんまり大声出すなゴミ屑」

「ん、ユキおはよう」

「んな!?わ、私はゴミ屑ではありません!ゴミ屑は祟り神、貴方の事でしょう!」

「だから大声を出すな。ここはまだロゼ王国の領地とはいえ、魔物がいる森の中だぞ、死にたいのか?」

「くっ…」

「ところであなたの名前は?」

「ふん!誰が貴方達のような人に教えてあげるものですか。そんなに知りたいならそこのゴミ屑、祟り神に教えてもらいなさいな」


 と俺を睨みつけながら言ってきたが、正直に言うとこいつの名前が出てこない。


「悪いが、俺はお前の名前なんぞ知らん」

「なっ!?この高貴な私の名前を覚えていないですって!!ぐっ……」

「さっき注意したことも忘れたのかこの野郎。いいからシエスのためにさっさと名前を言え」


 また大声を出しやがったため、この女に身体強化した拳で腹パンし黙らせた後、シエスの質問に答えるよう命令した。


「ケホっ……わ、私の名前は零条美紗れいじょうみさですわ……」

「そうなんだ。それじゃあユキ、早く魔王のところに行こ」

「分かった」

「なっ!?魔王ベルゼのところに行くですって!?ま、まさか、貴方達魔王の配下になるおつもりってきゃ!?」


 また大声を出しやがったので襟首辺りを片手で掴み、持ち上げた後、俺はこう言い放つ。


「最終通告だ。次大声出したらお前の女としての尊厳を奪った後、手足を縛っている今の状態のまま魔物の群れに放り込んでやる。だから黙れ」

「ふ、ふん!そんなのハッタリですわ」

「ハッタリかどうかやってやろうか?」

「や、やってみせなさい」

「……そうか」

「えっ?…きゃっ!?」


 挑発してきたので、服を引っぺがしてやった。続けて、下着も引っぺがそうとしたら…


「や、やめて…大人しくするから、それだけはやめて下さい…」


 ……ようやく大人しくなったか。


「シエス、この辺りに魔物はいるか?」

「いる。でも、小さい反応ばかりだから大丈夫だと思う」

「(朝飯食べる時間はありそうだな…)よし、先に飯を食ってから移動する。テーブルと食器を出してくれ」

「分かった」


 シエスがテーブルを出している間に零条美紗が着ていた服を返し、手の部分の拘束を外す。

手の部分だけとはいえ、拘束を外されたことに困惑したのか、あたふたし始めた。


「な、何故、私の拘束を解いたのですか?」

「手を拘束したままだと食べづらいだろ?」

「そ、そんな理由で!?」

「なんだ?お前はいつも手を縛ったまま食べてるのか?」

「手を縛って食べるわけ無いですわ」

「だったら不思議に思うんじゃねえよ。シエス、準備は終わったか?」

「終わったー」

「直ぐに飯を出すから少し待ってろ」

「はーい」


異空間収納ボックス』を唱え、異空間から3人分のオーク肉入りスープとリンゴに似た木の実を取り出し、それぞれの前に置く。


「あ、貴方…その魔法は一体…」

「なんだ?異空間収納ボックスを知らないのか?」

「も、もちろん知っていますわよ。実際に見たのが初めてで少し驚いただけですわ…」

「……まぁ、いい。直ぐにでも移動したいからさっさと食え」

「わ、分かりましたわ」


 零条美紗が食い始めたのを見て、俺も食い始める。シエスは飯を置いてやった瞬間に食い始めたな。


「味は結構薄いですのに、美味しい…」

「あなたもユキの料理の虜になるべき」


 シエスがグッ!と親指を立てて、零条美紗にそう言った。


「だ、誰が祟り神の料理の虜になんてなるものですか!」

「でも、黙々とスープを食べてたよね?」

「そ、それはそうですけれども…」

「アホなこと言ってないで、さっさと食え2人共」

「はーい」

「ご、ごめんなさい」




 飯を食った後、テーブルや食器等の後始末、周囲の索敵をした。


「ユキ、索敵終わったよ」

「今はまだ大丈夫そうか?」

「うん。今のところ、この近くに魔物はいないみたい」

「分かった。で、零条美紗。お前は担がれて連れて行かれるのと、自分で歩いて行く、どちらが良い?」

「えっ?な、何を言っているのですの貴方は!?」

「ユキ、この人間の拘束を解くの?」

「最初は担いで行こうと思ったんだがな、飯の時の様子を見るに、ある程度は俺の言うことを聞くみたいだからな。さっき脅したのが効いているんだろう。で、お前はどっちが良い?」

「自分で歩いて付いて行きますわ」

「分かった」


 足の拘束を解き、零条美紗を自由にしてやる。


「さぁ、行くぞ」


 俺達は魔王領を目指し出発した。

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