003 賞金首ガルシア

「ここか? 勇者の間ってのは」



 男は坊主頭で、額には大きな傷が斜めについていた。はちきれんばかりの筋肉は見るものを圧倒する。

 腰にはリディアと変わらないほどの大きさの戦斧が下がり、さらに人間の頭部が三つ、飾り物のように吊り下げられていた。

 

「ひっ」


 と思わずリディアは声を上げた。この風貌は間違いない。

 この国最大の犯罪者にして最高額の賞金首、ガルシアだ。本物を見るのは初めてだった。

 

「おい姉ちゃん、勇者になりてぇんだ。国王に会わせてくれ」


「え、い、いや国王の代わりにこうして私が……」


「直接聞きてぇことがあるんだ」


 何もしていないのに、物凄い威圧感だった。リディアもそれなりに経験を重ねた兵士だったが、その圧に物怖じしてしまった。


「ちょっと待てよ、ちゃんと並べ」

 列の先頭だった男がガルシアの右腕をつかんだ。と思った瞬間、男は勢いよく後方の壁に叩きつけられた。


「あぁ? 誰かいたのか?」


 ガルシアはにやっと笑いながら、意識をなくし崩れ落ちる男を眺めた。

 

 ざわめきが消え、部屋中が静まり返る。


 リディアにはただ掴まれた腕を振り返ったようにしか見えなかったが、それだけで勇者志望の男が吹っ飛んでしまった。とんでもない力に背筋の凍る思いがした。


 恐ろしさのあまり震えている一同を気にも留めず、ガルシアは受付の目の前に並べてある腕輪を一つ取り上げると自身の左腕にはめた。


「これをつけたから、俺も勇者になったってことだよな。で、国王はどこだ?」


 ガルシアがリディアに詰め寄る。


「待てぇ!」

 騒ぎを聞きつけた兵士が数名駆け込んできてガルシアとリディアの間に割って入った。


「ガルシア、勇者同士の戦いは禁じられているぞ!」


「あぁ? 俺は戦ってなんかいないぜ。あいつが勝手に吹っ飛んだだけだ。それによぉ……」


 ガルシアは左手首にある腕輪を摩りながら続けた。

「さっきの出来事は俺が勇者になる前だ。あいつもまだ勇者じゃねぇ」


 とんでもない化け物がいたものだ、とリディアは思った。と同時に、この強さがあれば魔物なんて一掃できるんじゃないか、いや魔王でさえ倒せるのではないか、そんなことも思ったりもした。

 

 この国最大の犯罪者であり賞金首でもあるこの男が世界を救うなんて、なんか違う気もするのだが。


「ちょうどいいや、お前ら。勇者様を国王のところへ案内しろ」


「国王はお忙しいのだ、お前なんぞと話をしている暇は……おい,こらぁ!」


 ガルシアは両手で目の前にいた兵士全員の首根っこを掴むと、軽々と持ち上げた。


「じゃあな姉ちゃん、またどこかで会おうぜ!」


 そして勇者の間を後にしていった。

 突然現れて嵐のように去っていた男に、残された者たちはただ呆然とするばかりだった。

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