002 受付嬢リディア

 王都宮殿一階、勇者の間。


 戴そうな名前が付いているが、実際は兵士の休憩室の一角を改装しただけの狭い部屋である。

 

 入り口の扉からはみ出すほどに長い列が続いていた。並んでいるのは屈強な男ばかり。談笑する声や、武器や鎧が奏でる金属音があちこちで響いていた。


 部屋の奥にある受付では、一人の女性が忙しなく動いていた。この部屋は男たちの日焼けした肌の色や土色に汚れた鎧の色で埋め尽くされていたが、そんな中で彼女の緑色の短めの髪だけが映えていた。


 彼女はリディア。王に仕える女性兵士である。本来は悪人を捕まえるいわゆる警察のような仕事をしていたのだが、今回特別にこの任務に就くことになった。


 彼女はとても疲れていた。


 毎日何十人もの勇者志願者がここに訪れるのだ。そしてそのほとんど、いや全員が勇者と認定される。

 勇者となったものにはその証拠となる腕輪を渡し、勇者としての心得について一人ひとり説明してやらなければならなかった。


「……以上で説明を終わります。あなたの力がこの国を救うと信じています」


 何度も同じ内容を説明するのは骨が折れる。

 812番目の勇者を見送った後、リディアはため息をついた。


 確かに、魔物退治のために志願者を募って戦わせるのはよい考えだとは思う。だが中には単なる生活の保障を求めてやってきたと思われる者もいた。

 さらには、今までいくら探しても見つからなかった犯罪者や山賊の頭などが当たり前のように現れて、勇者となっていくことが少し歯痒かった。

 

 部屋の中は明かりがついているはずなのに、突然視界が暗くなった。どうしたのかと、ふとリディアが見上げると自分を覆い尽くすほどの大男が目の前に立っていた。

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