004 勇者になりたい少年
夕方になり受付も終了した。
本日新しく誕生した勇者は68人。
リディアは名簿を見ながら、これが明日以降もずっと続くのかと考えると嫌になった。部屋の明かりを全て消したのを確認してから、外に出て入り口の扉に鍵を閉めた。
「あの、勇者になりたくてここに来たんですけど……」
声のする方を向くと一人の少年が立っていた。粗末なぼろを着ていて、薄汚れた赤茶色の髪の毛は荒れ放題に伸びていた。
腕や足は細く筋肉は付いていない。
どうみたって勇者になりうる器じゃない。
リディアは瞬時に、安定した生活を望むこの子の親が勇者にさせようとしているのだと判断した。
しかし、勇者になれるかどうかは彼女が決められることではない。
志願するものは全員勇者として認定し丁重に扱うこと。国王からはそう指示されているから仕方がない。
勇者になって最初に出会った魔物に殺されてしまうような力のない者でも、とりあえず勇者になれるのだ。
「ごめんね、今日の受付は終わったの。また明日の朝、ここに来てくれるかな」
「あの、僕、イヴァル村から来たんです。勇者になれば宿代も無料になると聞いていて……」
ほら、やっぱりそうだと彼女は思った。「生活の全てを保証する」なんていう看板が出てしまったからこんなことになるんだ。「国民から英雄として称えられる」ぐらいでよかったのに。
「今日勇者にならないと泊まる場所がなくて……」
少年は困った顔をしてリディアを見つめた。こんなとき、非情になれないのが彼女の悪い癖だった。
「わかったわ。特別に受付してあげるから、中に入って」
リディアは持っていた鍵で扉を開けて少年を招いた。
「うわぁ」
少年は部屋の中を見渡しながら感嘆の声をあげた。壁に整然と並べられた剣や斧、棚に揃っている鎧や盾。見るもの全てが初めてといった表情をしていた。
「で、あなた名前は?」
引き出しの中から帳簿を引っ張り出し、少年の表情には一瞥もくれずに尋ねた。
「ジャスティン=ブルームバーグです。」
「出身は……ああ、さっき言ってたわね」
イヴァル村。王国の西の端、暗黒山脈の麓にある小さな村だったはずだ。恐らく自分たちで生活していくだけで精一杯の村。
だからこそ、稼ぎ頭である勇者が必要……いや、もしかしたら暗黒山脈からの魔物が頻繁に襲来しているのかもしれない。武器を買う余裕もないから、勇者がいれば武器も手に入りやすい……。
帳簿に記録しながらリディアは多くのことを想像した。
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