第4話 決意のチュートリアル
非常に短く分かりやすいムービーにより、ジンは
「――で、どこよここ」
ジンは
こうした場面でプレイヤーが着用している被服はボロ布一枚だったりTシャツの場合が多いが、彼の着ている服はパイロットスーツのような物である。
程よい厚さで動きやすく、肉体の動作を妨げる装飾は付けられていない。そんな服の着心地を確認していると早速
そこでジンが知り得た情報曰くここは訓練施設……つまりチュートリアルエリアのようだ。
案外
その矢印に従って進んだジンが行き着いた先には訓練用のシミュレーターマシンが鎮座しており、そのコックピットに座る事で戦闘チュートリアルが始まるらしい。
「――こりゃクレナに会うのは当分先かな」
決して多いとは言えないが、少なくない数のゲームをしてきたジンは直感的にそう感じた。
彼の経験上、世の中には大まかに二種類のゲームが存在する。
一つは実戦の中でチュートリアルを行うゲーム、そしてもう一つは実戦の前にチュートリアルを行うゲームだ。
「――実戦中にチュートリアルをした方がスピード感出て人気だが……俺はこういう事前にしっかり教えてくれるチュートリアルも嫌いじゃないぜ」
操作方法が分からない状態でも適当に操作、爽快感を教えてくれるゲームは確かに楽しい。
だがそれでは適当な操作をする癖が付いてしまう。そして何より、多少の面倒を越えてから爽快感があった方が良い……というのがジンの持論だ。
コックピットに座ったジンは内装を軽く見回した。
そこには操縦桿とメインモニターを中心に、フットペダルやサブモニターがいくつか取り付けられている。
「民間用の乗り物と比べりゃ複雑な操作になりそうだが、軍用の乗り物と比べれりゃ楽な操作にだろうな……」
この辺りの内装は大抵の機体で共通らしいが、次の指示は機体起動させる事だ。
ジンがサブモニターに表示されたエントリーボタンを押せば、すぐにメインモニターが点灯する。
だがこの動作もシミュレーターである今回限定らしく、機体次第では長い時間が必要となる場合もあるらしい。
また機体の細かいセッティングや調整の為に、機体の動作を補助するAI……バディが存在するとも紹介されていたが、エントリーボタンのそれを含めて今回は省略されているそうだ。
ジンがそうした注意書きを読み終えると、メインモニターに穏やかな草原が映し出された。
回りには地面へと突き刺さった剣が存在するのみで、他に人工物のような物は見当たらない。
「お、もう動かせるのか……」
次の指示は、視線の先に突き刺さっている剣を抜き取る事。
操縦桿を握り込んだジンは指示通り機体をゆっくりと動かし、地面へと突き刺さっていたその剣を抜き取った。
どうやら実戦の場合でも、フィールドに落ちている物は何でも使えるらしい。
今回使用する剣は何の変哲もない物だが、構造を見る限りは非常に頑丈そうだ。
ジンがそうして武器の観察を行っていると、メインモニターに敵機の存在……そしてサブモニターに現在の武装一覧が表示され、この機体がライフルも装備している事を教えてくれた。
「なるほど、どっちかを使って戦えと?」
恐らくこの場合はライフルを使うのが正解であり、多くのプレイヤーがそうしているのだろう。
だが実戦でも同様の選択を取るだろうと予測したジンは、折角のシミュレーターだからという事もあり剣を使う事にした。
その武器を振るう相手はフェンサーという一般的な
「さて……VFと
ジンは二~三度剣を空振りし、感触を確かめてからその刃先を敵機に向けた。
操作は以外にも分かりやすく、左右レバーの中指に当たるトリガーで構えとロックオン。
そして人差し指に当たるトリガーで攻撃の指示となる。
相手はそれほど動かないように設定されているらしく、特に作戦の必要を感じなかったジンは早速突撃を始めた。
途中からはフットペダルを踏み込んでブースターも起動したが、スピードは思うように出すことが出来ない。
空もそれほど自由には飛ぶことが出来ず、そうした事への技能を極限まで特化させていたVFの時と明らかな違いがそこには存在した。
「結構重いな……っと!! 」
だがパワー面でも前と今では全く違い、この点に関してはシミュレーション機であるフェンサーの方が
そうしたパワー系キャラでの戦法をあまり持たないジンだが、彼の脳裏には見知ったパワー系プレイヤー……クレナの動きが浮かんだ。
「――せいッ! 」
ジンは
相手からは攻撃して来ないが生半可な攻撃は防がれる、そして機体スペックは互角。
「それなら、これで!」
無理に近接武器にこだわる必要は無い。
ジンが得意とする戦法は、豊富な手数による作戦勝ちだ。
剣による拮抗を斬り上げたジンは機体を跳躍させ腰にマウントしていたライフルを手に持つと、少し下がった場所からの射撃を開始した。
そのライフルはチュートリアル武器だからなのか、一マガジンの弾数はかなり少なく設定されている。
マガジン内の弾薬を全て撃ち終わると、メインモニターに警告文とサブモニターのチュートリアルが表示された。
だがジンにとってそんな事は初めから分かっている情報であり、ジンは弾切れと同時にライフルを相手へ投げつけた。
敵機はそれを払い落とすが、ジンはその隙きに足払いで相手を宙に浮かばせる。
後は持ち替えていた剣を構え、思いっきり斬りつけるだけだ。
ジンの
「ふぅ……これでどうだ?」
どうやら無茶な動きをすれば、自機も相応のダメージを受けてしまうらしい。
お陰で評価はそれほど高くないが、一先ずジンはチュートリアルを突破する事が出来た。
だがジンは提示された評価の低さが気に入らなかったらしく、幾度か再戦を重ねる事となった。
――――――――――――――――――――
ジンは何度か敵機を爆散させ、同様に自機も爆散させている。
やがて最高評価を獲得して大体の操作も把握すると、ようやく操縦桿から手を話した。
そうして一休みしていると彼の脳裏には様々な考えが
「――
CAはβテスト時はまだVFのトップとして君臨していたジンだが、一時期はCAのトップを目指そうかと考えた事もあった。
だが彼は抽選に落選してしまい、βテストには参加出来なかったのだ。
やはりβと一般スタートでは知識と経験の差が存在し、それを埋めるのは容易ではない。
故に彼は、その時点でトップ入りを諦めている。
「あの時は悔しかったなぁ……」
そうして端からトップ入りを諦めているCAでのジンだが、そもそもはやり過ぎていたVF時代の反動という面もある。
攻略サイトや検証板に入り浸るのは当たり前、装備や育成は徹底的な効率重視。
そんな様子を尊敬された記憶もあるにはあるが、
そうして時には酷い扱いを受けようとも
そんな考えを持っていたジンがVFを引退した理由、それは“辞め時と感じてしまったから”に他ならないのだろう。
そう感じた理由は本人が一番把握出来てない。
だが少なくともそう感じてしまったのだから、それ以上の理由は必要無いのだろう。
ジンが今更その行動を変える事は無かった。
「じゃあ、CAは楽しむ事にするかね。ガチな腕を期待してるクレナには悪いけど……」
VFのような自身で動くゲームと比べればとても狭いコックピットの中、彼は腕を組みながらそう呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます