プロローグ3

 ケンゴと私はもう長い付き合いだ。


 小学生の頃、家庭の事情でこっちに転校してきた私は、男子達に毎日虐められた。理由は簡単、女の癖に男より背が高かったからだ。

 今の私なら、そのガキに報復しているが……当時は臆病で、泣くしかできないか弱い女の子だった。悪ガキの中にガキ大将がいて、誰も逆らう奴はいなかったらしい。

 

 みんながみんな、私を見て見ぬふりをした。腫物のように扱った。


『ぅ……ぐすっ……』


 このクラスでは、私は独りぼっちなんだって、テレビみたいに都合よく助けてくれるヒーローなんていないんだって、泣いていた。



 でも、小さい光が差したんだ。



『おまえらなにしてんだ! おんなのこをいじめるなんてはずかしくないのか!』


 ケンゴだけが助けてくれた。

 泣いていた私を、ケンゴはなんども傷だらけになりながらも勇猛果敢に立ち向かって、笑って助けてくれたんだ。


 本当に、本当に救われた……何度も駆けつけて、何度も私の前に立つ姿に憧れた。あの小さな背中を忘れることができない。


『おれ、かませけんご! よろしくな、てんこーせい! またいじめらそうになったら、おれをよべよな! すぐたすけてやるからな!』


『……うん』


 私が虐められるたびに、本当にいつも駆けつけてくれた。番犬のように、何度もいじめっ子に噛みついていった。喧嘩の後は、ボロボロで痛くて泣きそうな顔なのに、私を安心させるために、いつも笑いかけてきてくれた。


 その眩しい笑顔を隣で見たくて、その声が何度も聞きたくて……私は初めて恋をした。もはや依存に近いレベルなのかもしれない。馬鹿で天然なケンゴが大好きになった私は、どうしても彼を独占したかった。


 重すぎる思いは、年月を重ねるたびに肥大していった。


『――あ……かませ君、あの、えと……一緒に帰りたいなって思って……駄目かな?』


『――ケンゴ君、この前面白そうって言ってた映画、一緒に見にいこうよ』


『――おいケンゴ、今日もめし食ってけよ。うちの母さんがお前を気に入ったんだとさ』


 やがて肥大した思いに火が付き、恋慕に欲望を織り交ぜた不可解な感情に支配された。それが爆発した結果、ケンゴに距離をとられてしまった。あの行動は私にとって一番の汚点だ。複雑ながらも、未だに一緒にいてくれるケンゴに感謝している。


『――なぁ、ケンゴ………ハァハァ……一生の、頼みがあるんだ……ほんとにすぐ、すぐ済むからさ………これを付けて、ワンって言ってほしいんだ……フフフ』


 あの行動は後悔だ。強すぎる独占欲と支配欲……歪んだ愛情表現であることぐらい自覚している。彼がそれを嫌っているのも知っている。

 どうしてもケンゴが欲しかった。どんな時であろうとも、ずっと一緒にいたかった。


 私は、いつまでもケンゴと一緒だ。例えば…………そう、まで。



◇ ◇ ◇



「俺達が助けなかった場合……その少女はどうなる?」


 これまでにない真剣な顔で、自称神のアルマに問いかけるケンゴ。気づいてしまったようだ。

 やめろ、聞きたくないんだ。ずっと聞かないように気を付けていたのに。自覚したくなかったのに。


『え? 死ぬに決まっているじゃないですか?』


 あっけらかんと、当然のように答えるアルマ。


「⁉」


『当たり前でしょ? 子供が轢かれて無事なわけがないでしょうに』


「おい………それをわかってて、俺達を連れてきたのか⁉」


『そうですよ? 私、美しいものが大好きなんですよ。子供はどうでもいいんですけど、貴方たちのような美しい魂が死んでしまうのは忍びない……だから、ルールアウトギリギリの方法で助けてあげるんですよ』


 これから人が死ぬというのに、アルマの顔からは何の罪悪感も感じさせない。価値のない命は救わないと、冷酷な表情が語っている。


「………そんな」


 俯くケンゴ。

 悲しい顔はやめてくれ……私だって辛いんだ。保身に走るなんてすごく恥ずかしいんだ。でも、仕方ないんだよ。

 私達には関係ないんだ。だからもう考えることは良そう。私たちが助かるんだから、それでもういいじゃないか。



「なぁアルマ様」



 ――夢をあきらめきれない少年のような顔が、私の鼓動を早くさせた。


「死は世界から弾かれることって言ってたよな? もし助けたとしても、その子は死んでしまうのか? その子の死はもう確定してしまったのか?」


 お前、まさか―――⁉。


『いいえ。死にかなり近いけど、まだ未確定。確定しているのは貴方たちだけです』


「! じゃあまだ、その子の死の運命を変えられるんだな!」


「――ッ‼」


 どうしてそこで笑えるのか理解できない……いや、したくない。

 いやだ。泣きそうになる。ケンゴの考えていることが、私には手に取るようにわかってしまった。


 その選択は駄目だ。ケンゴ。 


『……あなた。自分が何言ってるのか理解できてます? 私が未確定といったのは、分岐点がまだ存在するから、つまり貴方たちが助けに行く未来がまだ残っているだけということ。確かに死の運命を変えることはできるけど、それができるのは――』


「わかってるよ」


 駄目だ、選択肢を与えないでくれ。ケンゴは馬鹿なんだ。賢くない答えばかり出すんだ。



「決めた……異世界には、。元の世界に返してくれ」



 決意の言葉が、私を強く叩いた。

 今までため込んでいた悲しみや不安に亀裂が走る。決壊した感情から涙が流れる。

 

 ……いやだ。


『え……いいのですか? あの世界に戻れば死ぬしかないんですよ? 大事な人を助けて死ぬのではなく、知らない誰かのために死ぬのですか?』


「そうだね」


 お前の悪い癖だ。こういう重要な選択肢を、自分がいかに気持ちいいか、その感覚だけで選んでしまう。


「……駄目だ」


 いいわけ、ないだろ。


「ユウ」


「だめだ! 駄目に決まっているだろ! 馬鹿だ馬鹿だと思っていたがここまでだとは思わなかった! なんで死の世界に戻るんだ⁉ その子供が死のうと私達には関係ないだろ⁉」


 落涙を何とかとどめながら、馬鹿なケンゴを怒りながら説得する。行かせてなるものか。お前は私と一緒に異世界に行くんだ。私と一緒にいるんだ。


「せっかくの命を捨てるのか⁉ だからお前は馬鹿なんだよ! 自分以外を優先してばかりで! 今日だって知らない誰かのために殴られて! 賢くない行動ばかり……あげくには、知らない子供の代わりに死ぬ⁉ そういうのを犬死っていうんだ!」


 胸倉をつかみ、体を揺さぶる。

 

 行くな、行かないでくれ、私と一緒にいてくれ。私を第一に考えてくれ。誰かを助けたいのなら私だけを助けてくれ。私だけの優しいケンゴであってくれ。もう知らない誰かに手を伸ばさないでくれ。


「犬死じゃないよ。助けられるって確定してるんだからさ」


 ヒマワリを連想させるケンゴの笑顔……好きだったのに、見たくない。


「でも死だ! 駄目だ! ……駄目だ! 戻っちゃだめだ!」


「……ユウ、俺は」


「い、行かないで……行かないでよ……お願いだから、私と一緒にいてよ……。私を一人にしないで……!」


 私のことを怖いはずのケンゴは、震える私の肩を抱く。

 ……温かい、私が好きになった体温だ。


「―――ユウ。俺さ、子供の頃大好きだったばあちゃんの遺言で、言われたんだよ。『無償で誰かを助けられる人になれ』ってさ」


「……」


「助けられるんなら、助けに行かなくちゃいけないんだよ。誰かに任せられるわけでもなく、自分が名指しされてるのなら、なおさらだ」


 正真正銘の馬鹿だ。ただ純粋に、誰かを助けたいだと? 大人になるにつれて、無くしていくはずの心をいつまでも抱え込んだ大馬鹿だ。涙があふれるぐらいに、救えない。


「俺は、いい人でありたい」


 知っていた。……そうだ。ケンゴはこういう奴だ。

 

 友達でも何でもない私に、助走をつけて手を伸ばしてきたんだ。頼んでもいないのに、助けてくれたんだ。きっと私だから助けたんだとか、そういうことじゃないんだ。

 

 知っていた。私が特別なわけじゃないんだ。


 人の言うことなんて聞かずに、ただ突っ走る。そんな馬鹿なところがたまらなく愛おしかった。


「でも……でも!」


「悪いけど、俺は行けない。一緒にいてやれなくて、ごめんな? ユウ」


「あ……」


 縋りつく私を優しく引き剥がして、アルマの元まで歩くケンゴ。

 足に力が入らない……追いかけなきゃいけないのに。


『本当に良いのですか? 向こうの時間で8分23秒後……いえ、もう3分4秒後にあなたは死ぬのですよ? 異世界に行きさえすれば、命は助かるというのに』


 少し離れただけなのに、ケンゴの背中が遠くに見える。


「うわみじかっ! ああそうだ、元の世界で5分は経ってるんだったっけ……向こうに戻ったら3分か。走って間に合うのかな……」


『もう行く気満々ですね……少女の見た目ぐらいなら教えてあげますよ』


「お! ありがとうアルマ様! すごく助かるよ!」


『これから死ぬのに何で笑顔なんですか……まったく、貴方は……馬鹿な人間の中でも群を抜いて馬鹿ですねー……ふふっ。でも馬鹿な子ほど可愛いという言葉も、今なら理解できますよ』


「ま、まって……まってケンゴ! なら私も――あぅ!」


 見えない壁に邪魔されて、ケンゴの元まで行くことができない。アルマが邪魔しているのだろうか。


『決断に水を差してはいけませんよ。貴方の異世界行きは決定しています』


 トントンと杖先で床を叩くと、先ほどまで何もなかった地面に大穴が出現する。私たちを飲み込んだものと同じだ。


『この穴を通れば、元の場所に戻れます。まだ走れば間に合います。助けられますよ』


「ん。わかった。……できれば事故が起こる場所に直接送ってほしいんだけど」


『交差点にいきなり穴が開いたら目立つでしょうが、馬鹿。わざわざ人気のないところを狙って連れてきたんですから』


「やっぱ誘拐と変わんねぇじゃん……」


「ケンゴ‼ ケンゴッ! 行くな、行くな! 馬鹿なことはやめろぉ!」


 恥も外聞もなく、涙でぐちゃぐちゃになった顔を見えない壁に押し付ける。届きそうなのに、絶対に届かない手が壁を叩く。


 だがケンゴはニッコリと、無邪気な笑顔を浮かべて大穴に片足を突っ込む。


「ごめんなユウ! 元気でな! 俺ちょっくら―――」 


 どうして、最後まで私の言うことを聞いてくれないんだ。私はただ、お前と二人で―――!


「人助けしてくるわ!」




 ――それが、私とケンゴの最期の会話だった。彼は、笑顔で崖から飛び降りることを選んだ。




 もう、いない。




「………あ」


 取り残されてしまった。私は、一人になってしまった。


「ケンゴォ……」


 名前を呼んでも、返事が返ってこない。もうここにいないのだと理解するのに時間がかかる。

 悲しいとか、切ないとかじゃない。ただ、胸にぽっかりと大きな穴が開いた。

 

「う、うぅ、うああああ……」


 絶対に埋まることのない、黒くて底の見えない穴が開いた。その穴から漏れだしたのだろうか、涙が止まらない。


 笑顔が焼き付いた。「もう見れないんだから大事にしておけ」と、諭されているみたいだ。


 どうして、私を置いていくんだよ。私はそんなことを望んでなんか――。


『……純粋にただ人を助ける、そのためには自分の命すら顧みない、ですか。ここまで美しく強い輝きを放つ魂は初めてです』


 長いローブを揺らしながら、膝を折った私に近づいてくるアルマ。


「………っ!」


 アルマなりにケンゴを称賛した言葉なのか知らないが、今の私にはお前の言葉が全て癇に障る。


 お前さえいなければ。

 よくも……よくも私とケンゴを引き離したな。


「どうして……どうして私たちを試した……!」


 これが神からの試練だとしたら、性根が悪すぎる。

 お前が、こんな選択肢をよこさなければ、私はケンゴと知らずに最期まで一緒にいられたんだ。


『気まぐれですよ? 自分の死か他人の死かの選択肢を与えたらどうなるのかなー? って気になったんでやっただけです。まぁ、戻る人間がいるとは思っていませんでしたが』


 悪びれた態度もなく、友人と話すような声色で語ってくる。

 ふざけるな……自分を神だと言い張るのなら、全ての人を幸せにして見せろよ。


「…………死の運命を回避させることができるのなら……どうして事故にあうはずの少女を救おうとしない……そうすればケンゴはっ……!」


 俯いた視線を上げ、射殺すような視線をぶつけるが、無機質かつ冷酷な目で私を見降ろすアルマ。


『……私にこの世界における死者を全て救えと? 何で私が人間の尻拭いを引き受けなければならないのですか。言いませんでした? 私、人間が大嫌いなんですよ。気に食わないという理由で、傷つけあって殺しあって……さらには、人を殺す道具を作るために頭をひねる。ここまで愚かな動物は見たことがありません』


「…………」


 熱くなっていた頭が急激に冷却されていく。身をもって知っている。アルマの言う通り、人間は愚かだ。

 たとえ幼少の頃であっても、他者を蹴落とすために暴力を振るい、不利益につながりそうなことには見ないふりをする。腹の中に正義なんてない汚い生き物。


 でも、そんな人間にも、ケンゴの様に無鉄砲で人を助ける奴がいる。アルマはそういったものだけを救い上げている。


『貴方たちはその中でも、無くすには惜しい命だと思えたから選択肢を与えただけです。まぁ貴方にはさっきの発言でがっかりしましたが』


 救い上げるのは、ケンゴのような優しい人間だけ。


『しかし、実に美しい人間でしたよ。私のお気に入りの人間です……ああ、もったいないですね。あんな綺麗な心はもう見つからないかもしれません』


「……そこまで言うのなら、ケンゴを……! ケンゴを死なせないでくれ、守ってくれ! 頼む! お願いします!」


 プライドも何もかもを捨てて、必死に額を地面にこすりつける。だが――


『無理です。……私には、「死」そのものに介入する力はありません。これは摂理なんです。人を生き返らせることがいまだ叶わないのは、世界にルールがあるからなんですよ。だからこそ、違うルールを持つ世界に行かないとダメなんです』


 しこり程度にできた希望ですら砕かれる。世界によって人が殺され、命が巡っていく。これこそが世界の摂理なのだと、アルマは語る。


「そんな……」


 じゃあ私は、もう一生会えないのか? これからの人生にケンゴがいないのか?

 

 大切な人を失って、得た物が『独りぼっちの世界』………生きていく意味、あるのか?


『……さぁ、もう行きなさい。私の後ろの扉をくぐれば、異世界に行けます』


 もういい。


「…………」


 サーッと、かろうじて残っていた熱が冷めていく。うずくまり、全ての情報を遮断するように目を閉じる。……もういい。ケンゴが死んだ後にでも、追いかけて私も死ぬ。


『せっかく異世界を生き抜く力をあげるのに、そんな様子ではすぐに魔物に殺されてしまいますよ?』


 魔物……そうか、異世界はファンタジーだったな。……じゃあ私も痛い思いをして死んだほうがいいかな。そうすれば今度こそ同じ場所で会えるかもしれない。


「どうでも、いい。…………ケンゴがいないのなら、もういい……」


『えー? なんですかそれ』


 もう嫌だ。誰でもいい、私を殺してくれ。


『はぁ……そこまでケンゴを愛していたとは……このままだと異世界で自殺しそうですね。……それではわざわざ私が助けてあげた意味がないし……うーん』


「……」


『……あぁもう仕方ないですね! 分かりましたよ! 転移ボーナスの他に、ありがたい出血大サービスな特典をあげますから! 拗ねないでください!』


 急に声を張り上げたアルマに視線を合わせる。どこか興奮したような顔だ。


「……?」

 


『ケンゴが死んだあと、! これで文句ありませんか⁉』



「てん、せい……?」


 言葉の意味を理解できているわけではない。だが、希望とも呼べる感情が胸の内から沸き上がり、勝手に冷えた体を温める。


「なんだ、それ」


『生き物が死ぬとき、魂はばらけながら宙に漂うんです。それを世界を輪廻させる前に急いでかき集めて、まだ死がない別の世界、別の器にさえ入れれば―――』


「―⁉」


 説明のすべてが理解できたわけではない。だが、ニュアンスだけが伝わった。


 ―――ケンゴが、生き返る……⁉


『元の世界にはルールが働いて転生させることができませんが、異世界になら―――』


「お――お願いします! ケンゴを転生させてください! お願いします!」


 ケンゴが生き返る! 異世界なら、異世界に行きさえすれば、ケンゴにまた会える!

 それだけを望みに、床に頭をこすりつけて神にすがる。自分のプライドなどどうでもいい。ただ愛する人の笑顔をもう一度……いや、死ぬまで見たい。


『……ただし、これだけは分かっていてください。転生先はランダムです。転生先が人間でない可能性もあります』


 つまり、会えたとしても、もう元のケンゴではない。それどころか、世界中を探し回っても見つからないかもしれない。


 頼れる人もなく、自分の常識や概念が通用しない世界で、ケンゴをただひたすらに探し求める日々……どれだけの寂しさが、辛さが、胸に刺さるのだろうか。

 


 ……それでも、いい。異世界には希望がある。



『あなたが異世界中を探し回っても見つからないかもしれない……それでも、いいのですか?』


「………構いません」


 例え姿が変わっても、お前に会いたい。そのためなら、何年、何十年かかろうが―――。



「どんな姿でも、絶対に私が見つけてみせるから」



『……』


 待っていろ、ケンゴ。お前がどこで迷子になっていようと、私が探し出す。会えたのなら、二人ぼっちの異世界で一緒に暮らそう。お前が傍にいてくれるのなら、私は生きて行ける。


 覚悟を決め、まばゆい輝きを放つ扉の前に立つ。ここをくぐれば、どこかにいるケンゴを探す旅を始めることになる。とても小さな希望を探す旅だ。


 アルマの後ろの扉に向かって、ゆっくり、着実に足を進めていく。すれ違いざま、アルマの優しい声に足を止める。


『……行くのですね?』


「はい」


 不思議と活力が湧きあがる。ケンゴに会える可能性なんて0に近いかもしれないのに、絶対に会える。そんな気がしてならない。


「向こうの世界の生活に少しでも慣れておかないと、ケンゴと生活できませんから」


『急にポジティブになりましたね……まぁいいです。……はい、貴方の体に転移ボーナスを振り分けておきました。これで向こうの世界に順応できるはずですよ』


 体に薄い膜のような光が纏う。アルマの言う通り、体が跳ねのように軽く、今までにないほどに力があふれ出る。空も飛べそうな全能感だ。


「! ありがとうございます……行きます!」


 扉を開くと、荘厳な風が出迎えてくる。日本ではないどこかの街。見たことのないトカゲ型の動物に荷台を引かせている商人や、不可思議な力を用いて火を灯す人がここからでも見える。

 完全に別世界だ。


『……やっぱり人間は不思議ですね』


 今度は、私が助ける。

 なに、報酬はキスでいいぞ……


 ただし、毎日だがな。



「絶対に……見つけてみせる!」



 私は、となった。

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