猫が帰ってきたのは夕飯を食べ終え、それぞれが思い思いの時間を過ごしていたときだった。

「猫ちゃんおかえり!柴ちゃんがアップルパイ焼いてくれた!だから」

「ごめん狐ちゃん。今日は気分じゃない」

『一緒に食べよう』

 その言葉まで猫は待ってくれなかった。

「柴ちゃんごめんね。明日もらうから冷蔵庫入れといて?」

 そう静かに笑った猫はそのまま女性用浴室へ向かった。

「猫ちゃん……」

「しょうがない。ゆっくり待とうや」

 悲しそうな狐の肩を羊が叩く。

 約三十分後、猫は浴室から出てきたと思ったらそのまま自室へと消えた。

「なんかあったよねぇ」

「せやな」

 柴犬の声にスマホの画面から目を外さずに同意をしたウサギに感情の矛先が向きそうになるネズミ。

「先寝ますね」

 おやすみなさい、とみんなに挨拶をし、自室へ向かう。そう思われたネズミは自室を通り過ぎ、猫の部屋の扉の前に立った。

 三回ノックをする。

「猫さん、ネズミです。入ってもいいですか」

「どうぞ」

 扉を開けると部屋は月明かりのみがついていた。そうして彼は自らの目を疑う。

 壁に貼られた彼女の世界のプロットや原稿がビリビリに破かれ、床に散乱していた。その真ん中で女子にしては高いその背を小さく丸め、静かに震えていた。

「猫さん、俺知ってるんですよ」

 その声にハッと顔を上げた猫。その目は赤くなっていて、泣いていたことが分かる。

「バディとしても仲間としても、みんなに言うべきではないですか?」

「そうは思わない」

 震える声で、でもハッキリと言った猫になんで、という心の声が漏れる。

「それを言えば彼のイメージも信頼も崩れてしまうことは避けられない。分かっているリスクは回避すればいい」

 そう言って目を細めた猫はそのままネズミを見つめる。

「だからお願い、言わないで。このことは君と僕の秘密にして」

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