2
二人が奥に消えたのを確認した猫は体術で静かに、軽やかに残りの男たちを倒す。
そうして銃を構え、奥の部屋へ侵入。扉に耳を当て、二人の会話を聞いた。
「私たちがこの件から手を引く。約束しよう。その代わりに君たちにも同じようにデメリットが無ければならない。ウィンウィンにするにはそうだろう?」
「せやな。お前は何を望むん?」
「それは君が決めなさい」
そう言って目を細めて笑った男にウサギは思わず舌打ちをする。
距離を詰めて気絶させられない距離ではないが、手の内が分からないのに安易には飛び込めない。
「……分かった。俺らの仲間を一人差し出す」
「ほお。君を入れて七人いる。誰を差し出すというのかね?」
「……さっきの女、俺らは猫って呼んどる。あいつを差し出す」
猫は静かに息を飲んだ。ウサギは確かに『猫を差し出す』と言った。一年組んだバディが、確かにそう言ったのだ。
扉を蹴破り、そのまま男の足に一つ発砲した。いつの間にか入れ替わった麻酔銃と実弾。部屋に男のうめき声が響く。
「猫!」
「うるさい」
ウサギの目を見ないまま男の前に立つ。
「どうやら私を差し出すみたいだね。まあその前にあなたとはおさらばだけど」
冷酷なその目は男を捕らえる。
「ま、待ってくれ!殺すべきは私ではなく君の仲間だろう!?」
「そもそも私たちの目的はあなたとこの組織を潰すこと。先に仕事をするだけ」
顔があからさまに引きつった男のそんな表情を冷ややかに見た彼女。
「またね」
お決まりの言葉を告げた彼女はそのまま引き金を引いた。
「猫、あのさ」
「お前と話すこともないけど」
そう言ってウサギの額に容赦なく銃を突きつける。
「君は仲間を売るような奴だったんだね?」
そう言って笑った彼女の顔は寂しさの色が滲んでいた。
「答えて。なんで私を売ったの?」
人よりも生への執着心がない彼女は死への恐怖心が少ない。喧嘩で猫の右に出る者がいないと呼ばれる理由の一つはここにあるのかもしれない。
「すぐに助けに行こうと思って」
「それが本当かどうか分からない」
冷ややかな目はウサギの目を捉えたまま。
「まあ、君に死ぬ覚悟が無くても私はいつ死んでもいいから構わないけど」
そう言ってウサギに向けていた拳銃を自分の額に当てる。
「猫、待ってやめて」
「やめて?売ったくせに」
ふふっと可笑しそうに笑った猫はそのまま引き金に指をかける。
『猫ちゃんとウサギ〜外の車にみんな来とるよ〜』
「すぐ行く」
そのまま拳銃を下ろした猫はウサギに背を向ける。それを見たウサギはほっと息をつき、胸を撫で下ろす。
「多分君はもう『僕』と組むことはないよ」
「僕って……」
「さっきあいつを殺したとき、私は一緒に死んだ」
殺す気はなかったんだけど、と付け足す。
「もしも次に僕と組むことがあれば、それは」
『運命だよ』
そう言って外に出た猫は空が泣いていたのか、彼女自身が泣いていたのか、誰にも分からない。
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