第203話 テツの迷い
「テツ、どうにもならないわよ、世界なんて。 どうせ人なんてそんなに変わりはしないわ」
クララの言葉に俺は軽く驚いた。
こいつって、たまに真実をつくというか、本質を見抜くというか・・天然なだけか?
「クララ・・お前って、凄いな」
「え? 何が?」
クララはキョトンとして俺を見る。
「いや、人は変わりはしないってことだよ」
「あぁ、そんなこと言ったかしら・・」
こいつは・・俺に言葉はない。
クララはメカラを連れて自分の家に戻っていった。
俺はそれを見送ると、コーヒーを淹れて飲む。
改めてクララの言葉とクソウや神崎の言葉を考えていた。
・・・
・・
俺は何も変わらない。
アンナやアリス、ソフィ・・それぞれの国に属して行動している。
クソウも言ってたが、世界は未だに帝国的野心を持っている。
というか、むしろ今までよりもむき出しで活動しているようだ。
既に、日本などは参加させてもらえていないという。
老獪な連中だ、日本の出方を伺っているのかもしれない。
俺の存在を知らないはずはないだろう。
だが、たかが人一人の力でどうなるものでもないと思っているのかもしれない。
魔法などを知らない連中はそうだろうが、実際俺が本気で魔法や武技を振るえば、世界だってきっと滅ぼせるに違いない。
夢ではない。
まぁ、そんな無駄なことはしないし、興味もない。
俺は本当に自然に包まれて、静かに美味しいものを食べて楽しく暮らしたいだけだ。
たまに刺激が欲しくなったりするかもしれない。
でも、人に迷惑をかけるようなものはしたくない。
よくゲームで行ったようなモンス〇ーハンターのような世界で魔法もあってRPGのようなレベリングもあるような世界で・・。
ん?
これって・・向こうの世界のことじゃないか!
俺はハッとして立ち上がっていた。
なんだ・・向こうにいた時にはわからなかった。
帰って来たい一心だったが、実際帰って来てみれば、妙に心が渇いていた。
満たされない。
無いものねだりなのかもしれない。
もし向こうでいたら、逆に無いものを求めて同じような心境になるのだろうか。
でも、考えてみると向こうの世界がやはり性に合っていたのかもしれない。
俺はそう思うと、ケンのところへ向かっていた。
◇
<ケンのところで>
俺はケンの部屋の前に来ていた。
ベルを鳴らす。
・・・
返事がない。
時間は11時。
どこかに出掛けているのだろうか。
俺はケンの宿泊している場所を後にする。
大きくもない町を歩いていると、前からケンが歩いて来ていた。
俺を見つけて手を振っている。
リカも一緒だ。
「テツさん!」
ケンが笑顔で近づいて来た。
「やぁケン君」
「テツさん、どうしたのですか? お昼でも食べに行くのですか?」
ケンが笑顔で聞いてくる。
眩しいぞ、その笑顔。
若いっていいな。
「い、いや・・ちょっと君に話したいことがあってな・・」
「え? 僕にですか?」
ケンが驚いている。
「え~、リカも聞きますよ、テツさん」
リカも気を使ってくれる。
「ありがとうリカさん」
「テツさん、その話って何ですか?」
「うん・・そうだな・・俺の家に行こうか」
俺はそう言ってケンたちと俺の家に向かう。
ケンたちは核融合炉の施設とレールガンの見学に行ってたそうだ。
間もなくレールガンも完成するという。
核融合炉も近々稼働予定だそうだ。
ケンがとてもうれしそうに話してくれた。
俺の家に入ると、ケンたちには席についてもらう。
俺はケンにコーヒー、リカには紅茶を淹れてみた。
「テツさん、ありがとうございます。 ちょっと聞いてくださいよ。 ケンったら機械の話ばっかりで、私には何が面白いのかわかりません。 そんなことよりも何かこの町で美味しいものがないのかって調べようとしても知らんぷりで・・」
リカが軽く愚痴てくる。
俺もコーヒーを飲みながら、リカの愚痴を笑って聞いていた。
しばらくすると、ケンが真剣な顔で俺を見る。
「テツさん、先程言っていた話ってなんですか?」
「あぁ・・実はね・・」
俺はこれまでのことを正直に話した。
・・・
・・
俺の悩みをわかってくれるのは、ケン君以外にいそうにない。
この現代の社会も理解しているし、向こうの世界もわかっている。
そんな存在は他には・・クララがいるが、どうも肌が違う。
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