第204話 帰省してみた
「なるほど・・テツさんは向こうの世界に帰りたいのですね」
ケンは俺が思っていても、言葉にしないことをはっきりという。
俺は苦笑いしながらうなずく。
「そういうことになるかな・・何か変だろ? あれほどこちらの世界に帰ってきたいって思っていたのに、実際帰ってきたら・・何て言うのか、窮屈というか、俺の存在場所がないというか・・おかしいよな?」
俺はどんな顔をしていただろうか。
笑っているような苦しんでいるような、自分でもよくわからない感情があった。
「テツさん、僕もまだ学生で難しいことはわかりません。 僕は今のこの状況にホッとして満足しています。 でも、テツさんは抱えているものが僕とは違います。 なんていうのかな・・素直に自分の心に従うのが自然で、結局は一番良いのだと思います。 ちょっと偉そうですね」
「い、いや・・ケン君の言う通りなんだよ。 周りのことに気づかれして自分を見失うより、よっぽどその方が身体にいいと思うよ。 たった1度の人生だしね・・うん、ありがとうケン君」
俺は心なしか、少しすっきりした気分になった。
まさか学生のケン君に救われる感覚になるとは思ってもみなかった。
「でもテツさん・・もし向こうに行ける方法がわかったら、行く前に必ず教えてくださいね」
「あ~ぁ、テツさん・・いなくなっちゃうんだ」
リカが軽く言葉を出す。
「何言ってるんだよリカ。 まだ行くとは決まってないだろ」
「でも、テツさんはこっちの世界は苦手なんでしょ」
「う~ん・・」
ケンとリカが話していた。
「私も、今のままが好きなんだよね~。 あ、テツさん、気を悪くしないでくださいね。 友達も全く変わらずに付き合ってくれるし、学生最高って思えるんですよ」
リカが椅子にもたれかかって上を向く。
なるほど、ケンとリカはしっかりと地に足がついているんだ。
俺だけだな。
妙にフワフワしているのは。
「テツさん、まだ向こうに行く方法はわかってないんですよね?」
ケンが聞いてきた。
「うん・・」
俺は曖昧な返事をする。
だが、実はおぼろげながら思っていることがある。
ロン様だ。
一応、時空を超えてやってきた神品だ。
俺よりもきっと長く生きている。
知識は十分なものがあるだろう。
しかし、ケンたちには言うことができなかった。
「まぁ・・まだわからないな。 向こうへ行ったら帰りたくなるかもしれないし・・」
俺がつぶやく。
「きゃは! テツさんって、可愛い! 何かしっかりしているようで弱々そうなところ・・放っておけない感じがします」
「お、おい、リカ。 失礼だろ」
「だってぇ~」
リカが不貞腐れている。
「いや、いいんだケン君。 俺が優柔不断なだけだよ」
「すみません、テツさん」
ケンはそういうと席を立ち上がり、リカと一緒にお昼を食べに行くという。
俺も誘われたが、遠慮した。
「テツさん、勝手に行かないでくださいよ」
ケンに念を押される。
俺は微笑みながらうなずく。
そして一言つぶやいた。
「そうだなぁ・・俺も、一度実家にでも顔を出してみるか」
「そ、そうですよ、親の顔を見るとまた違った考えが浮かぶかもしれませんよ」
ケンが振り向いて俺に言う。
「ありがとう、ケン君」
俺はケンたちの背中を見送ると、一度実家へ帰ろうと思っていた。
ただ、帰る前にロン様に聞いておかなければならないだろう。
◇
時間は12時前。
俺は家を出ると、すぐさま超加速のスキルを発動。
一気に実家に向かう。
実際の時間の経過はほとんどない。
実家の前に来ていた。
・・
懐かしいなぁ。
何年ぶりだろうか?
新型コロナなどで帰っていない。
向こうの世界の時間も俺には加算されているので、本当に久々だった。
家のドアの前で一度止まる。
「ふぅ・・」
俺は息を吐き、ベルを押す。
ピンポーン。
この時間には母親はいるはずだ。
買い物などは午前中に終わらせて、お昼は弁当か家で作っていると思う。
午後はゆっくりと家で過ごしている、というのがルーティンだったのだが。
「はーい」
声が聞こえて、パタパタとスリッパの足音が近づいてくる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます