第170話 試金石か?



<テツ>


俺は神崎と共に日本に帰って来ていた。

クララも一緒だ。

クソウの事務室にいる。

帰って来るなり、神崎はクソウと密談。

俺は応接室でデイビッド、そしてクララと一緒だ。

不思議とクララは邪魔にならない。

傍でいるのだが、その存在が希薄な感じだ。


「テツ、サラ・・いや、アリスだったか。 どうだった?」

デイビッドが聞いてくる。

「フフ・・変わらなかったよ。 彼女は彼女のままだね。 妙に正義感が強そうな感じだが、軽い感じも受けるんだよなぁ」

俺は思ったままを言ってみる。

「あはは・・なるほど・・確かに彼女は軽い感じがするだろうね。 目に見えた状況を優先するタイプなんだ。 いや、悪い意味じゃない・・素直だということだね」

デイビッドが肩をすくめる。

「まぁ、彼女が無事であれば、それでいいだろう。 だが、これからが問題だな・・」

デイビッドが少し難しそうな顔をしてつぶやくと、俺に話しかけてきた。

「それでテツ・・君はこれからどうするつもりなんだい?」


デイビッドの質問内容について、俺は既に考えていることがあった。

俺はデイビッドに向かってうなずくと軽く結界を張る。

デイビッドもクララも気づいたようだ。

「これで会話が漏れることはないだろう」

俺はそう言葉を出すと話を続ける。

「デイビッド・・ディアボロスという最悪の種はなくなった。 これから世界はどうなると思う?」

「フッ・・人間はそんなに変われるほど賢くはないだろう」

「あぁ、俺もそう思う。 一度、力を手に入れたらそれ以下の状態に戻るのは難しいだろう。 生活水準を落とすなんてことはなかなかできることではない」

デイビッドはうなずく。

クララは微笑みながら俺の話を聞いている。

俺は一呼吸置くと話出す。

「おそらく俺たちは、まぁまぁの待遇で飼い犬として使われ続けるだろうな」

デイビッドが笑う。

「まぁ、それも悪くないかもしれないが、俺のタイプじゃない」

デイビッドの顔つきが変わる。

「テツ・・まさかこの国を乗っ取ろうなんて考えているんじゃないだろうな」

デイビッドの言葉に俺は思わず笑ってしまった。

「ププ・・あははは・・いや、すまない。 デイビッドの想像力があまりにも面白くて・・何ていうのかな、俺にはそんな面倒くさいことはできない。 人の幸せや生活を背負うのはできないな」

俺はクララの方を見てデイビッドを見る。

「俺の周りの生活が安定していればいいんだよ。 それが邪魔されなければ、酷い言葉だが、どうでもいい。 まぁその安定のためには社会システムの安全が必要だが、それはクソウたちに任せればいい」

「フフフ・・テツはいいとこどりということだね」

デイビッドが言う。

「まぁ、そんなところだね。 で・・この後のことなんだが、どこかの廃村か、メガフロートの浮島などで生活できる自由をもらおうと思うんだ。 どうせ俺の魔法でそんな場所なんてすぐに作れるしな」

俺の言葉にデイビッドが少し考えていた。


「なるほど・・それはそれでいいかもしれないね。 ただ、国という組織がその力を手放すはずもないが・・それはどうするつもりなんだい?」

「うん、俺の所属している国の安全が脅かされるときには手伝うということでまとまらないかな?」

俺は疑問を投げかけてみる。

「う~ん・・ま、自国に敵対するわけでもなく、属してくれているなら可能かもしれないが・・わからないな」

デイビッドも明確な答えは持ってはいないようだ。

「ねぇテツ、私はテツの傍でいてもいいのよね?」

クララが上目遣いで俺を見る。

おいおいクララ・・そんな見方されると、ムラッとくるだろ。

それに女の人って自然とこういう仕草ができるのか?

「も、もちろんだよ、クララ。 君は自由人だろ?」

「そ、ありがと。 でも、たまにクズは処理しに行かないとね・・」

クララがボソッとつぶやく。

「え? 何、クララ?」

「ううん、何でもない」

クララが首をゆっくりと振る。


俺は結界を解く。

同じようなタイミングで神崎とクソウ、山本が応接室に入って来た。

「やぁ、ご苦労さん」

クソウが片手を挙げながらニコニコしていた。

「あ、そのまま、そのまま」

クソウが片手を前に出し、俺たちに座ったままでいいという仕草をする。

「佐藤君、大活躍だったそうだね。 ありがとう」

クソウはそう言葉を続けて山本を見る。

山本がうなずく。

「佐藤君、君はこれからどうしたいと考えているのかな?」

山本が聞いてきた。

これは明らかに試されている。

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