第171話 俺って日本が好きなのですよ
「はい・・俺・・いや、私のこれからの立場はどうなりますか?」
俺はまずは言葉を選びながら答えてみる。
「うむ、どうもしないね・・そのまま自由だが」
クソウがニヤッとしながら答える。
俺は意表を突かれた。
もっと俺を縛るようなことを言うのかと思っていたが、違った。
「ただね・・我々のように、国民というものを背負っていると何かとやっかいでね・・佐藤君、一つ確認しておきたいのだが、君は日本を離れるということは考えているのかね?」
俺はキョトンとしてしまった。
いったい何だ?
ん?
デイビッドの雰囲気が固くなっている・・おでこ汗が流れているのか?
「クソウさん・・俺には何を言っているのかわからないのですが・・日本を離れる? まさか・・考えてもいませんでした。 それに、海外で生活したことはありませんが、日本より良い国なんてないんじゃないですか?」
俺は軽く返答する。
「ふむ・・そうかね。 じゃあ、これからも・・」
クソウが話そうとするところで、俺が発言する。
「あ、えっと・・クソウさん」
クソウと山本、神崎が俺を見る。
「えへん。 あの・・もし可能なら、どこかの廃村かメガフロートのような敷地をいただけないかと思っています」
俺の言葉にクソウの目つきが真剣になる。
「ふむ・・今回の報酬のようなものだな・・」
クソウが顎を撫でながら少し考えていた。
山本の方を見る。
山本が軽くうなずくと話し出した。
「佐藤君、まぁこの国にいてくれるのならありがたい。 実を言うとね・・君がどこかの国に行ってしまわないかと心配していたのだよ」
山本が一呼吸置く。
俺は驚いた。
まさかそんなことを考えていたなんて・・。
俺は驚いた表情をしていたのだろうか、言葉が出て来ずに山本とクソウの顔を見比べていた。
「フフ・・佐藤君、君という存在は、いわば戦略兵器に匹敵する、いやそれ以上だ。 例えば、君の気分次第で国が亡ぶことも考えられる。 とてもじゃないが我々以外では扱いに困るだろう」
クソウが真剣な顔で話してくる。
俺は無言で聞いている。
「そうなんだよ、佐藤君・・閣下とも話あったのだが、答えがない。 君に今回のことで無理を言われても、我々としては断ることが・・言葉としてはできるが、佐藤君が無理を通せば通るのだよ」
!!
俺は山本の言葉に即座に対応する。
「ま、待ってください・・俺、いえ私はそんな気持ちは全く・・」
俺の発言にクソウが首をゆっくりと左右に振る。
「佐藤君・・人はわからないものだよ。 我々の世界で信用できる政治家なんて1人も存在しない。 だが、みんな初めは国を良くしたいと思って活動を始めるんだ。 すぐに壊れるがね・・まぁ、君が日本から離れないと聞いて安心はしたよ・・それに廃村だったかな・・その希望は叶えられると思うよ。 ただメガフロートのような目立つ存在は無理だね」
クソウがそこまで答えると、山本が続ける。
「えぇ、そうなります。 佐藤君、君のような帰還者の存在はどの国にも公表はされていない。 今回の件すらも、テロリストなどの対処という措置で落ち着いたところだ。 まさか魔法などというものは存在しえないのだよ」
俺は山本やクソウの言葉を聞き感じていた。
いかに俺たち帰還者の存在がエラーなのかを。
だが、誰もどうすることもできない。
・・・
・・
俺はしばらく言葉が出て来なかった。
そして、あまりにも簡単に考え過ぎていたことを反省する。
「なるほど・・完全に理解したとはいえませんが納得はしました。 クソウさん、まずは約束します。 私は日本人であることを捨てることはできません。 それに、日本という国は好きなのです、これは本心です。 そして、廃村をいただけるということなら、ありがたく頂戴いたします。 その村を私たちが住みやすい環境に作って行きますよ」
俺が答えると山本がうなずきながら答える。
「佐藤君・・不自由さを感じさせて申し訳ないと思っている。 ただね・・我々はただの人間なのだよ。 だからこそ目立つような環境づくりはやめてくれよ。 君の言葉を聞いてパッと頭に浮かんだよ・・浮遊する街や魔法結界・・全くSF小説などのことがリアルで存在すれば、それこそ世界バランスが崩れてしまう・・」
「うぅ・・ま、まさかそんなことは・・」
俺は答えながらも焦っていた。
まさに山本が言ったようなことをしようと思っていたからだ。
だが、考えてみればできるはずもない。
とはいえ、防御結界などは見えない分、アリだろう・・たぶん。
・・・
・・
出るはずもない答えを、あぁでもない、こうでもないと、しばらくは問答が続いた。
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