第160話 余裕
クララを待ち、みんなと合流して言葉をかける。
「みんな、このままでは相手に逃げられるかもしれない。 あの・・もしよかったら俺に触れてくれないか? 俺のスキルで移動するから」
もはや俺のスキルを隠す段階ではないだろう。
それにすべてを見せるわけじゃない。
「え? テツのスキルって・・何?」
アリスが聞く。
「あぁ・・細かい説明は面倒だけど、とにかく速く動けるスキルなんだ。 おそらく目的地まで2秒とかからないと思うよ」
「ほんと? 転移魔法でもあるの?」
「でもそんな魔法・・私知らないわよ」
「うん、僕も聞いたことはないな」
アンナたちが騒ぐ。
「いや、魔法じゃないんだ。 俺のスキルだ。 時間を圧縮して・・って、いいから早く俺に触れてくれ!」
俺がそう言うと、みんなが俺に触れる。
「よし、俺に触れたところから離れるなよ」
俺はそう言うと超加速のスキルを発動。
少し服が引っ張られ移動しにくいが、時間の経過はほとんどないだろう。
俺たちは移動する。
◇
<クリストファー>
クリストファーは思っていた。
こいつは化け物だ。
俺の身体が知っている。
絶望という言葉だ。
戦うことすら許されない。
心が既に折れている。
だが、
完全に無駄だとわかっているが、どうせ死ぬのなら
そう思うのだが、身体が動こうとしない。
「フフフ・・君はよくわかっているじゃないか。 所詮人間などは我が魔族のエサに過ぎぬのだよ」
ディアボロスはゆっくりと歩みを進める。
1歩クリストファーに近づく。
クリストファーは後ろに下がりたかったが、身体が反応しない。
もう1歩ディアボロスは歩みを進める。
自然と笑いが込み上げてくる。
「フフフ・・いいぞ。 クリストファー君、君のおかげで私は進化できるかもしれない。 ありがとう・・ん?」
ディアボロスはニヤついていた顔を引き締め右横を向く。
「何かが近づいてくる・・」
ディアボロスは目を閉じてその感覚を研ぎ澄ます。
テンジンやテツと対峙して以来、妙な感覚には過敏になっているようだ。
「・・わからないな、魔素は感じないが・・何だ?」
!!
ディアボロスのところに突然、人が現れた。
少なくともクリストファーにはそう見えた。
テツ(レベル44)、クララ(レベル32)、アリス(レベル28)、アンナ(レベル30)、レオ(レベル28)がそこにいた。
「うぅ・・うげぇ・・」
アリスがいきなり吐き出す。
「テ、テツ・・うぇ・・何これ・・気持ち悪い・・うげぇ・・」
俺はアリスを見て思う。
こいつは戦線離脱だな。
ディアボロスの魔素にあてられたのだろう。
アンナとレオも少し気分が悪そうだ。
クララは平気だな。
ディアボロスが俺を見つめる。
・・・
「貴様は、この私に傷をつけた人間か」
俺の心臓はドキンとなった。
「ディ、ディアボロス・・と呼べばいいのかな」
俺の意思では初めてこの魔族と会話すると思う。
ディアボロスはジッと俺を見つめている。
「ふむ・・私もテツと呼べばよいのかな?」
ディアボロスは完全に余裕の雰囲気だ。
微笑みながら話を続けてきた。
「で、テツは何をしにここへ来たのかな?」
俺は生唾を飲み込む。
緊張しているのだろうか。
すぐに言葉が出て来なかった。
ふぅ・・。
呼吸を吐き出す。
少し落ち着いた。
クリストファーをチラッと見る。
・・・
完全に怯えた猫だな。
「ディアボロス・・いったい何をしているのですか?」
俺は無意識に丁寧な言葉で話していた。
「ふむ・・我が進化に付き合ってもらおうと思っていたのだよ」
「進化?」
俺はオウム返しで言葉を出す。
「フフフ・・フハハハ・・・おっと、これは失礼。 君たちも同じだろう。 レベルのあるものを倒せばその経験値が手に入る。 この世界ではそれが叶わなかったが、今は違う。 私の前にこれほどたくさんの経験値があるのだ。 これが笑わずにいられるかね?」
ディアボロスの発言に誰も言葉を返せない。
本能的に怯えているのだろう。
ただ、クララだけは違った。
「あら、あなたの経験値ではなくて、あなたが倒れれば私たちの経験値になるのよね?」
クララが言う。
!
す、凄いなクララ。
俺はクララを見直す。
「フフフ・・笑えぬ冗談だな。 貴様ら人間は、所詮は我が魔族のエサなのだよ」
「ディアボロス・・それは違う。 魔王はそんなことはしないし、俺の知っている魔族は魔物以外、侵略されない限り攻撃をしなかったぞ」
俺は思わず反論した。
「ふむ・・テツは我が魔族に少しは詳しいようだな。 だが所詮は人間だ。 わかるはずもない」
「そうだな・・お前からはフレンドリーな感じは微塵も受けない」
「そうね・・嫌な匂いだわ」
クララが同調する。
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