第160話 余裕



クララを待ち、みんなと合流して言葉をかける。

「みんな、このままでは相手に逃げられるかもしれない。 あの・・もしよかったら俺に触れてくれないか? 俺のスキルで移動するから」

もはや俺のスキルを隠す段階ではないだろう。

それにすべてを見せるわけじゃない。

「え? テツのスキルって・・何?」

アリスが聞く。

「あぁ・・細かい説明は面倒だけど、とにかく速く動けるスキルなんだ。 おそらく目的地まで2秒とかからないと思うよ」

「ほんと? 転移魔法でもあるの?」

「でもそんな魔法・・私知らないわよ」

「うん、僕も聞いたことはないな」

アンナたちが騒ぐ。

「いや、魔法じゃないんだ。 俺のスキルだ。 時間を圧縮して・・って、いいから早く俺に触れてくれ!」

俺がそう言うと、みんなが俺に触れる。


「よし、俺に触れたところから離れるなよ」

俺はそう言うと超加速のスキルを発動。

少し服が引っ張られ移動しにくいが、時間の経過はほとんどないだろう。

俺たちは移動する。


<クリストファー>


クリストファーは思っていた。

こいつは化け物だ。

俺の身体が知っている。

絶望という言葉だ。

戦うことすら許されない。

心が既に折れている。

だが、あらがう以外にない。

完全に無駄だとわかっているが、どうせ死ぬのなら足掻あがいてやる。

そう思うのだが、身体が動こうとしない。


「フフフ・・君はよくわかっているじゃないか。 所詮人間などは我が魔族のエサに過ぎぬのだよ」

ディアボロスはゆっくりと歩みを進める。

1歩クリストファーに近づく。

クリストファーは後ろに下がりたかったが、身体が反応しない。

もう1歩ディアボロスは歩みを進める。

自然と笑いが込み上げてくる。

「フフフ・・いいぞ。 クリストファー君、君のおかげで私は進化できるかもしれない。 ありがとう・・ん?」

ディアボロスはニヤついていた顔を引き締め右横を向く。

「何かが近づいてくる・・」

ディアボロスは目を閉じてその感覚を研ぎ澄ます。

テンジンやテツと対峙して以来、妙な感覚には過敏になっているようだ。

「・・わからないな、魔素は感じないが・・何だ?」


!!

ディアボロスのところに突然、人が現れた。

少なくともクリストファーにはそう見えた。

テツ(レベル44)、クララ(レベル32)、アリス(レベル28)、アンナ(レベル30)、レオ(レベル28)がそこにいた。

「うぅ・・うげぇ・・」

アリスがいきなり吐き出す。

「テ、テツ・・うぇ・・何これ・・気持ち悪い・・うげぇ・・」

俺はアリスを見て思う。

こいつは戦線離脱だな。

ディアボロスの魔素にあてられたのだろう。

アンナとレオも少し気分が悪そうだ。

クララは平気だな。


ディアボロスが俺を見つめる。

・・・

「貴様は、この私に傷をつけた人間か」

俺の心臓はドキンとなった。

「ディ、ディアボロス・・と呼べばいいのかな」

俺の意思では初めてこの魔族と会話すると思う。

ディアボロスはジッと俺を見つめている。

「ふむ・・私もテツと呼べばよいのかな?」

ディアボロスは完全に余裕の雰囲気だ。

微笑みながら話を続けてきた。

「で、テツは何をしにここへ来たのかな?」


俺は生唾を飲み込む。

緊張しているのだろうか。

すぐに言葉が出て来なかった。

ふぅ・・。

呼吸を吐き出す。

少し落ち着いた。

クリストファーをチラッと見る。

・・・

完全に怯えた猫だな。

「ディアボロス・・いったい何をしているのですか?」

俺は無意識に丁寧な言葉で話していた。

「ふむ・・我が進化に付き合ってもらおうと思っていたのだよ」

「進化?」

俺はオウム返しで言葉を出す。

「フフフ・・フハハハ・・・おっと、これは失礼。 君たちも同じだろう。 レベルのあるものを倒せばその経験値が手に入る。 この世界ではそれが叶わなかったが、今は違う。 私の前にこれほどたくさんの経験値があるのだ。 これが笑わずにいられるかね?」

ディアボロスの発言に誰も言葉を返せない。

本能的に怯えているのだろう。

ただ、クララだけは違った。


「あら、あなたの経験値ではなくて、あなたが倒れれば私たちの経験値になるのよね?」

クララが言う。

す、凄いなクララ。

俺はクララを見直す。

「フフフ・・笑えぬ冗談だな。 貴様ら人間は、所詮は我が魔族のエサなのだよ」

「ディアボロス・・それは違う。 魔王はそんなことはしないし、俺の知っている魔族は魔物以外、侵略されない限り攻撃をしなかったぞ」

俺は思わず反論した。

「ふむ・・テツは我が魔族に少しは詳しいようだな。 だが所詮は人間だ。 わかるはずもない」

「そうだな・・お前からはフレンドリーな感じは微塵も受けない」

「そうね・・嫌な匂いだわ」

クララが同調する。


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