第159話 絶体絶命



「君は不思議な感じがするね」

プッツン大統領が言う。

クリストファーは答える言葉が浮かばない。

シュナイダーたちはクリストファーが緊張しているのだろうと推察していた。

「大統領、彼は緊張しているのですよ」

ハンナが答える。

「なるほど・・これは失礼した」

「ところで大統領、お一人でここへ来られたのですか?」

ハンナが聞く。

「うむ」

「それはまた不用心な・・」

「全くの個人的な休暇だからね。 それよりも計画はあまり順調ではないね」

プッツン大統領が言う。

ハンナとシュナイダーは少し困ったような顔をする。

「えぇ、バッキンダック主席の経緯から・・」

ハンナが口ごもる。

「うむ。 おそらくロシアも同じような形になるだろう」

「「え?」」

ハンナとシュナイダーが思わず反応する。

「いや、私の勝手な言葉だ。 副大統領がよく言っていたものだ。 小さな政治区分に分けるべきだと。 私もそろそろ引退しようかと思ってね」

ハンナとシュナイダーはお互いに顔を見合わせる。

・・・

いったい、何を言っているんだ、この人は?

突然の来訪。

まさかこんな茶飲み話をするために来たわけではあるまい。

シュナイダーたちは計画に何かあったのかと思っていた。

人類を減数させる計画。

ワクチンによって時限爆弾を人類にセットする。

世界の各製薬会社と提携し、ワクチンは人の為に有用なものだと宣伝し続けてきた。

先進諸国はうまくいった。

発展途上国はその経済状態からうまく行っていない。

だが、先進諸国から巻き上げた資金を使ってワクチン接種を無償提供するつもりだ。

そういう計画だったはずだ。

何か不都合なことが起きたのか?

そればかりがハンナとシュナイダーの頭の中でこだましていた。


「ふぅ・・もはや面倒な役作りは要らないな・・」

プッツン大統領はつぶやく。

「「え?」」

ハンナとシュナイダーが大統領を見つめる。

「クリストファー君、君は帰還者だね」

プッツン大統領がいきなり言う。

クリストファーは心臓が止まるかと思うほど、ドキッとした。

少し心臓が痛い。

「・・・」

「まぁ、そう怯えなくてもよい。 私も同じようなものだからだ」

プッツン大統領の言葉にハンナとシュナイダーが驚く。

「だ、大統領・・いったい何の話をされているのですか・・」

ハンナは震えているようだ。

プッツン大統領が微笑みながら答える。

「うむ・・私はプッツンという名前ではない」

シュナイダーとハンナはお互いの顔を見た。

「ディアボロスという」

ディアボロスは一呼吸置き、話を続ける。

「君たちの計画は、どうやら半分は成功したというべきかな。 どうも量だけでは足りないらしいのだ」

ディアボロスがうなずく。

「だ、大統領・・いえ、ディ・・ディ・・何が足りないのですか?」

ハンナが震えながら聞いていた。

「うむ。 力が足りないのだ。 魔素という力がな」


「魔素? いったい何を・・」

シュナイダーがそこまで言葉を出した時だ。

シュナイダーが服を残したまま消えた。

少しすると、シュナイダーの服がゆらゆらと舞い落ちる。

!!

「シュ、シュナイダー!」

ハンナがそう叫ぶも、同じように消える。

ハンナの服もゆらゆらと舞い落ちた。

「ふぅ・・説明もいちいち面倒なのだよ。 それに聞いても意味がない」

ディアボロスはそう言うと、クリストファーの顔を見つめる。

エステルはその場で倒れている。

気を失ったようだ。


「フッ、だからそう怯えなくていいと言ったはずだが・・君は私になるのだから」

ディアボロスの言葉にクリストファーは全身で戦闘態勢に移った。

「ふむ・・少し薄いな(点々)」

ディアボロスは落ち着いてつぶやく。


<テツたち>


俺たちはペンタゴンを出たところだった。

!!

全員が強烈な魔素を感じる。

「こ、これは!」

俺は思わずアリスの方を向いた。

アリス、アンナ、レオも戸惑っている。

クララはマイペースだ。

ディアボロスではないが、かなり大きな魔素の発現を感じる。

それほど離れていない。

「アリス・・これって・・」

俺は思わずアリスに言葉をかけていた。

「えぇ、帰還者の誰かが戦闘態勢に入っているわね」

アリスの言葉に俺たちは目を合わせると、うなずく。

言葉を出すことなく俺たちは移動する。


ほんの数秒、俺たちは走って移動した。

俺は確信する。

遅すぎる。

俺は思わずダッシュしていた。

すぐに後ろを振り返るが、みんなとかなり距離が出来てしまった。

クララにしてもアリスたちと俺の中間くらいだ。

これではこの魔素を大きくした奴に遭遇する前に見失ってしまうかもしれない。

そしてみんなの頭の中にもあるだろう。

ディアボロスという言葉が。

おそらく何らかの遭遇をしている可能性が大きい。

このチャンスを逃すと、次があるのかどうかわからない。

俺は覚悟を決める。


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