第158話 大統領



「えへん・・その方向で問題なければ、早速出立したいと思います」

アリスがそう言うと、ゆっくりと俺の方へ歩いてくる。

ポカン!

俺の頭を軽く殴る。

「は? な、何? アリスさん、何ですか?」

俺にはわからない。

アリスが少しムッとしながら言う。

「佐藤さん、先程も言いましたが、それってセクハラというやつですよ。 人の胸ばかりを見つめて・・」

「い、いや・・違うぞアリス。 俺は君の顔を見ていたんだ」

俺の言葉など無駄だった。

「あー!! そういえばテツってドイツでも私の胸ばかり見ていたわ」

アンナが追撃。

「はぁ? な、何言ってるんだアンナ」

俺は思わず反応。

確かに、アリスが話をしていると胸が揺れていた。

ノーブラか?

そんなことを考えていた。

しかしなぁ・・プルンと揺れるんだぞ。

視線が行かない方がおかしい・・だろ?

俺はそう思って神崎を見るが・・冷たい視線だ。

レオは・・ただ微笑んでいた。

お前、イケメンだな、おい!

クララは眠そうだ。


「ふぁ・・そんなことよりも、出発しないの?」

クララがそう言って俺の腕に絡んでくる。

なんというボリューム。

・・・

悪い、サラいやアリス、アンナ。

君たちとは次元が違う。

俺はクララ見てうなずく。

!!

ポカ、ポカ。

アリスとアンナに頭を殴られた。

「さて、出発しましょう」

アリスの声でみんなが席を立つ。

国務長官がアリスに労いの言葉をかけ、俺たちにも挨拶してくれた。

「アリス君、よろしく頼むよ。 それから各国の皆さま、本当にご協力感謝いたします」

神崎や各国の事務官たちは、この場所で待機だ。


<ハンナの屋敷内>


シュナイダーとハンナはテラスでコーヒーブレイクのようだ。

クリストファーはエステルにあれこれと聞かれていた。

「エステル、クリストファさん君が困っているわ」

ハンナが声をかける。

「あ、申し訳ありません。 クリストファー様、お許しください」

エステルは謝罪すると、新しいコーヒーを作りに行く。

「すみませんね、クリストファーさん。 私もエステルも信じられないようなことばかりなので、それでついつい深入りしてしまうのでしょう」

「いえ、お気になさらずにハンナ様」

クリストファーは笑顔で返答。

「それでは失礼ついでにお聞きしますね。 エステルと重なるかもしれませんが、その転移先では魔法の存在は常識で、我々のような科学技術も存在していたのですね」

「えぇ、科学技術というと怪しいですが、文明レベルもそれほど古い感じはしませんでした。 ただ石油の代わりに魔素などの生体エネルギーを使っておりました。 完全なエコ社会ですね」

「それは素晴しいですわ。 こちらでもそんな世界が構築できれば良いのですが・・」

ハンナは答えながらも、頭では計算していたのかもしれない。

そんな世界になれば、どうやって金儲けをし、イニシアティブを持って支配しようかと。 


そんな話題を繰り返しているとき、クリストファーが自然と振り返った。

ん?

誰か近づいてくる。

使用人か?

そんな感じで見ていたが、その雰囲気がわかるにつれて身体が動きにくくなる。

な、なんだ?

魔法の発動?

いや、何も感じない。

ただ、あの人物が近づいてくるに従って身体が硬直・・いや怯えているようだ。

いったいなんだ?


近づいてくる人物の顔がわかる距離になってきた。

「おやおや、楽しそうな話をしているようですね。 私も混ぜてもらってよろしいかな?」

近づいてくる人物は男のようだ。

そしてその顔を見てハンナが目を大きくする。

「まさか・・プッツン大統領ではありませんか! いったい私の屋敷に・・いえ、突然の訪問に驚いております」

ハンナはそう言うと席を立ち、プッツンのために席を用意する。

「プッツン大統領だと?」

シュナイダーも驚きを隠せない。

エステルは忙しそうに椅子を用意して、お茶の準備を行う。

「ありがとう」

プッツンは遠慮なく椅子に座る。

「ふぅ・・ご連絡をいただければお迎えを差し上げたものを・・しかし、どうされたのですか?」

ハンナが聞く。

プッツンは微笑みながら答える。

「ふむ・・私も休暇が欲しいものでね、1週間ほどいただいてきたのだよ。 お邪魔だったかな?」

「いえ、突然のご来訪だったもので驚いているだけです」

ハンナは落ち着いて来たようだ。

プッツンはうなずくとクリストファーを見つめる。

クリストファーにはわかっていた。

この人物、普通じゃない。

この私の身体が怯えている。

いったい何だというのだ。

頭には先ほどから想像したくない言葉が飛び交っている。

死。

何で目を見ただけでそう感じてしまうのだろう。

わかっている。

こいつは危険な帰還者だというのが。

だが、お館様やハンナさんはそれを知っている感じではない。

それにプッツン大統領だと言っていた。

ロシアの大統領の名前だ。

そんな人物がここにいるのか?

わからない。

だが、私の命が危ないのはわかる。

逃げれるのか?

いや、無理だろう。

戦えるのか?

それも無理だろう。

どうする?

クリストファーは明らかに混乱していた。


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