第157話 集合



アリスがおそるおそる俺を見る。

「持ってみたいのか? いいよ」

俺の言葉にアリスが片手を伸ばす。

どうやら動かないようだ。

今度は両手で持ち上げようとする。

ホーリーランスがわずかに動く。

「ぷはぁ・・何これ? 全く持ち上げられないわ。 どういうこと?」

「属性武器なんだ。 俺の属性に合った武器ってことだな」

俺は一応そう説明する。

もっともアリスが俺よりもレベルが上なら、簡単に持ち上げることができただろうが。

クララが真剣な目を向けてホーリーランスを見ている。

「これは、私は触れてはいけない感じね」

クララが小さな声でつぶやく。

「え? 何、クララ?」

アリスが聞く。

「ううん、これがあれば何とかなるかもしれないわね。 テツが攻撃できる回数が増えれば増えるほど、安全度が上がるってことね」

クララが言う。

「そうね、そうだわ」

アリスが明るい顔で答えた。


いやアリス、お前単純すぎるだろ!

はい、心の声です。


アリスが軽く咳払いをすると、改まって言葉を出す。

「えへん・・後、テツたちに話しておきたいことがあるの」

俺はアリスの顔を見ようと思った。

だが、アリスが姿勢を正した時に、確かに胸が揺れたんだ。

その揺れに思わず俺の目線が走る。

パコン!

俺の頭をアリスが殴る。

「テツ! 真剣に聞いて」

いや、アリスさん。

今の動きは速かっただろ。

俺、反応できなかったぞ。

「えへん、実はあなたたちだけじゃないのよ」

俺とクララはお互いに顔を見合わせて、アリスを見る。

「日本だけじゃなく、ドイツとイギリスにも声をかけてみたの。 まさかこんなタイミングで空港にターゲットが写っているとは思ってみなかったわ。 それよりも、そろそろこちらに着いてもいい時間なのだけれど・・」

アリスの言葉に俺も考えていた。

確かにタイミングが良すぎる。

偶然というものだろうか。

ただ、偶然っていうのは決してでたらめじゃない。

俺たちの知っている因果律では測れない法則が存在していると思われる。

その偶然を俺たちがリアルに体感しているのだろう。

そしてそのチャンスを逃すと、おそらく次がない。

ディアボロスを倒すどころか、追跡すらできないかもしれない。


ドイツからはアンナ、イギリスからはレオが到着予定。

間もなくペンタゴンに着こうとしていた。



俺たちはアリスのところで小一時間過ごしていた。

神崎の調整も終わったのか、国務長官などというものに紹介された。

俺はとても緊張した。

今すぐにでもディアボロスの足取りを追うのかと思っていると、イギリスとドイツからの帰還者の到着を待つという。

すると、国務長官のところにそそくさと近寄って行く人がいる。

何やら国務長官の耳元で話していた。

国務長官がうなずくと、報告をしていた人物が足早に離れていく。

ハムスターか?

俺は思う。


間もなくして、レオとアンナがそれぞれの国の行政官だろうか、一緒に入って来た。

両方とも俺は知っている。

神崎はアンナは知らないかもしれない。

俺の顔を見ると、アンナとレオが微笑む。

アリスが国務長官と共に、俺たちに紹介してくれた。

「皆さん、こちら・・アンナとレオです。 今回の件に協力してくれます。 よろしくお願いします」

「アンナです」

「レオです」

レオの自己紹介の時に、神崎がピクッと動いた感じがする。

知り合いか?

俺たちもそれぞれ名前を紹介する。

神崎が震えながら顔を少し赤らめていた。

熱でもあるのか?

「レ、レオ様・・」

神崎が小さな声でつぶやいている。

目はどこか遠くを見ているような感じだ。

何言ってんだ、神崎?


アリスが早速話題を転換。

すぐにこのメンバーで移動しようということになった。

タクシーで移動したにしても、その時間周辺のタクシーの動きを解析していたようだ。

その結果からそれほど遠くに移動したタクシーはいない。

数も知れている。

その中の1台が街の郊外で引き返してきたようだ。

その運転手に聞くと、おぼろげながらもそんな人物を乗せたかもしれないと言う。

大きなチップもいただいたそうだ。

アリスがそれらの情報を教えてくれ、とりあえずその周辺から探索をしたいという。

なるほど、もっともな感じだ。

アリスが自分で考えたのだろうか。

それならアリスってかなり頭いいぞ。

俺はそんな目線でアリスを見つめていた。


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