第148話 ビリオネアたち
シュナイダーがふぅと息を吐くと言葉を出す。
「アリスさん、我々と一緒に・・というと無理かもしれませんが、こういう考えをもった人間も存在するということを知ってもらいたかったのです」
アリスはうなずく。
シュナイダーがにっこりと笑顔を作る。
「さて、自己紹介も終わったことですし、本題といきましょう」
シュナイダーの言葉にアリスは少し驚いた。
自己紹介だったのだと。
「アリスさん、今日お呼びさせてもらったのは、これから迫ってくる脅威についてです」
シュナイダーはそういうとクリストファーの方を向いた。
クリストファーがうなずく。
「はい、実は・・気づいておられるかもしれませんが、とても強力な能力を持った邪悪な存在がいます。 私も直接遭遇したことはありませんが、ヨーロッパにいたときに、その存在を感じました。 とても私では太刀打ちできるものではありません。 そこでこのアメリカでサラさんの協力を得られればと思っていたのですが・・特殊な事情がお有りなのでしょう・・とはいえ、これは人類の存続すら揺るがす事案だと私は思っています」
クリストファーの言葉にアリスはうなずく。
デイビッドが言っている魔族の存在だろう。
「アリスさん、あなたの頭の隅にでも残しておいてください。 そしてあまり時間がないことも知っておいてください」
クリストファーがそう言って頭を下げていた。
「さて、アリスさん、堅苦しい挨拶はこれくらいにして、お茶でもいかがかな?」
シュナイダーがそう言いながら席を立つ。
アリスを先導して部屋を移動。
食事ができる部屋へと移って行く。
そこでハンナとエステルという人物も紹介された。
・・・
・・
アリスはハンナたちと共に軽食をいただきた。
終始笑いの絶えることのない楽しいお茶会になっている。
だが、アリスは確信する。
この目の前にいる人物たちこそがビリオネアという人種だと。
証拠はないが、この新型コロナウイルスの騒動を引き起こした最大級の原因。
しかし、不思議と殺意は起こって来なかった。
少し大人になったのかもしれない。
「・・アハハ、こんな楽しいお茶会は久々ね、シュナイダー」
「うむ。 私も若返ったような気分だよ、ハンナ」
シュナイダーがそう言うと、クリストファーが話し出す。
「アリスさん、サラさんとご一緒に過ごされていたのなら、帰還者の能力はご存知のはず。 是非私と協力して大いなる脅威に備えていただきたいのです。 我々の情報でもドイツやフランスなどに帰還者は存在しています。 協力できる力が多ければ多いほど安全度が上がるでしょう。 あまり時間がないように思うのです。 お帰りになったら責任者にお伝えくださいませんか?」
クリストファーの言葉は真剣だ。
アリスにも伝わってくる。
「クリストファーさん、私も同意します。 そのお言葉、そのまま国務長官に伝えましょう」
アリスはそう言うと席を立つ。
シュナイダーやハンナ、エステルに見送られながら帰路についた。
◇
<クリストファーたち>
アリスを見送った後、お茶会の席で話していた。
「クリストファー君、どうだったかね?」
シュナイダーが聞く。
「わかりませんね。 ですが、このアメリカにはサラの他にも帰還者がいるのかもしれません」
「どういうこと?」
ハンナが先に言葉を出していた。
「はい・・サラの存在だけを知らせておいて、実はまだ帰還者を抱えているのかもしれません」
クリストファーが答える。
「まさか・・私の情報網にそんな話は・・あ、そういえばかなり前に航空機爆発で亡くなったサラの友人というのがいましたね。 今まで忘れていました。 銃で傷つかなかったのだから、あの事件も・・まさか・・しかし、かなりの高高度だったと聞いていますが・・」
ハンナはブツブツとつぶやいていた。
「とにかくだ、彼女がどんな化学反応を見せてくれるかだな。 我々は今まで通り動いていればいい」
シュナイダーが言葉を締めくくる。
クリストファーは思っていた。
アリスか・・サラが変装しているのかもしれない。
自分では判別がつかなかった。
ただ、今はそんな些細なことはどうでもいい。
あの魔族の脅威・・本当に恐ろしい。
お館様やハンナさんなどの普通の人には、このプレッシャーは理解できないだろう。
とてもじゃないがあの魔族と目すら合わせることはできない。
クリストファーは静かに目を閉じる。
◇
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