第149話 それぞれの見方



<アリス>


帰りも車で送ってくれる。

車の中でお茶会のことを考えていた。


アリスはデイビッドの言葉を思い出す。

自分の尺度で相手を測ってはいけないことを。

シュナイダーたちビリオネア、間違いなく人類を間引こうとした張本人たちだ。

だが、不思議と殺意が沸き起こって来ることなかった。

シュナイダーたちに救われている人たちが世界では大勢いる。

それにシュナイダーたちは言っていた。

今の国という組織は、本当に人を助けていない。

だからこそシュナイダーのような立場の者がどこかでいなければいけないのだと。

そんな話を聞くうちに、そうなのかもしれないと思うようになる。

アリスは軽く頭を振ると、窓の外を見る。

あ~デイビッド、あなたに聞きたいことだらけだわ。

もう私では無理。

私もどこかに行こうかな?


<サラに刺客を送った連中>


とあるビルの1室に数名の人間が集まっていた。

椅子のところで座ったり立ったりする人。

貧乏ゆすりが止まらない人。

腕を組んで外を見ている人。

それぞれが落ち着きなくソワソワしていた。

「・・ヒットマンからの報告は間違いないな」

「あぁ、それは確実だ。 映像もあった」

「くそ! 何故ヒットマンを始末したのだ」

「あぁ全くだ。 これでは仕事が完結したのかわからなくなる」

「いや、問題なく仕事は終わっている。 君もあの映像をみただろう」

「うむ・・全員で確認した。 あれで生きているはずはない」

「そうだ。 ペンタゴンでもサラが死んだと発表があった」

・・・

・・

ガヤガヤと勝手な言葉が飛び交う。

「それはそうと、サラの後任にアリスなる人物が就いたそうだが、何者だ?」

「私も知らないのだ。 サラの付き人をしていたというがな。 そんな人物がいたのかよくわからない」

「全くだ・・サラ以外はノーマークだったからな」

「うむ。 そんなことよりもビリオネアたちがアメリカに集まっているのを知っているか?」

「あぁ、今日はそのための集まりだろう」

「うむ・・そのビリオネアがサラの付き人に興味があるというのだ」

「何だと? 彼らの協力が得られなければ活動資金が激減するぞ。 我らは彼らの望みのままに動いて来たというのに・・」

「その通りだ。 今さら動いている事態を止めることはできない」

集まっている政治家たちは何の益もない話をしていた。


<ロシア>


大統領が不在の事実は要職たちには知れ渡っていた。

副大統領が代行業務を行っている。

「プッツン大統領の足取りはまだ掴めていないのか?」

副大統領が事務室で聞いていた。

「はい、未だに・・」

「そうか」

副大統領は答えると、椅子に深く腰掛ける。

一体、大統領はどこに行ったというのだ?

ミシチェンコがついているはずだ。

防衛の面では問題はあるまい。

だがこの国の運営をどうするのか。

プッツン大統領は外に圧力をかけていくことは考えていなかった。

だが旧ソ連時代の版図はんとは我が領土と扱えと言っていた。

今さら国土を広げてどうするのか。

領土が増えれば維持費がかかる。

人が増えれば食べさせていかなければいけない。

これからの時代は(コロニー)で運営していく方が良いと思っていた。

そのコロニーで揉め事などが起きた時に法を行使する機関が国というものであればよい。

そうすることこそが新たな世界を作って行くと考えていた。


プッツン大統領は笑うだけで私の意見には賛成してもらえなかった。

とはいえ、私も西側からの亡命者だ。

共産社会主義で教育を受けたわけではない。

・・・

とにかく今はプッツン大統領の所在を知ることが先決だ。

それに中国の件もある。

連邦制とはいえ、我が国も一歩間違えば小さな集団がバラバラに空中分解する。

副大統領は椅子から立ち上がると、行政指示を出す。

「よし・・中国との国境の警備に重点を置け。 各自治州、自治管区からの報告は後で処理すると伝えろ」

副大統領の指示を受け、取りあえずは行政停滞にならずに済んだようだ。

我が国も皆が同じ方向を向いているわけではない。

ただ、他のことをするよりも今のままでマシだと思っているだけだ。

そう思わせることが組織の安定につながる。


そんな中、イレギュラーなことが起こった。

中国という国がそのまま頭が消えてしまったようだ。

その流れが我が国に来ないとも限らない。

ミシチェンコのような特殊な輩がいる。

その事実を民衆が知ればどうなるか。

国の求心力など、一気になくなるだろう。

・・・

とにかく、今は大統領が見つかるまで私が現状を維持しなければならない。


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