第147話 シュナイダーたちの見ているもの



家のドアを開け、中へ入って行く。

家の中でも何人かが出迎えてくれた。

「「いらっしゃいませ」」

アリスは年配の男と共に移動する。

「アリスさん、このお部屋です」

アリスは入った瞬間にわかった。

クリストファーが微笑みながら壁際に立っている。

間違いなくこいつが帰還者だ。

ん?

アリスは同時に違和感を感じていた。

どこかで見たことがある。

・・・

!!


クリストファーじゃない!!

そうよ、間違いないわ!

私たちと一緒に召喚された人物。

ただ、すぐに別々になったけど・・。

まさか生きていたは・・しかも今私の前にいる。

私がサラだとわかっているのかしら?

いや、わかるはずもない。

髪の色も黒く見えているはず・・違う!

クリストファーが、もし私よりもレベルが上なら完全に見破られる。

アリスは少し焦っていた。

クリストファー:レベル28

アリス(サラ):レベル28


アリスを見つめる老人がいる。

シュナイダーだ。

気持のいい笑顔を作り、アリスに話しかける。

「急にお呼び出しして申し訳ありません。 ご無礼をお許しください。 アリスさんでしたか・・ようこそおいでくださいました。 私はシュナイダーと申します」

シュナイダーがゆっくりと立ち上がりながら挨拶をする。

アリスは微笑みながら顔を動かす。

その目線を追ってシュナイダーが話しだす。

「どうぞこちらへ」

シュナイダーがアリスに席を勧め、自分も向かいのソファに座る。

シュナイダーは椅子にスッと腰かけると、膝の上で両手を合わせる。

アリスは思う。

間違いなく観察されている。


「アリスさん、サラさんはお気の毒なことをされました。 心よりご冥福をお祈り申し上げます」

シュナイダーが目を閉じ言葉を発する。

「い、いえ、ありがとうございます、シュナイダー卿」

シュナイダーはうなずくと言葉を続ける。

「アリスさん、単刀直入に伺います。 今のこの世界をどう思っておられますか?」

シュナイダーの両手を合わせた奥に鋭い眼光が見える。

微笑んでいるが、確実にアリスを見定めている。

アリスは妙な緊張感を覚えながら、返答する。

「今の世界ですか・・私の言葉で言えば偏った世界だと感じています」

「ふむ・・偏った・・どのように偏っていますかな?」

シュナイダーがつぶやく。

「自分の行動・・何が正しいのかはわかりませんが、当たり前のことをして正当な評価が得られない。 人は評価のために生きているのではないでしょうが、それでも何か認めてもらえるとうれしいものです。 そういった判断基準が偏っていると思います」

アリスは自分でも不思議だが、シュナイダーの前では妙に本音が語れるような感じがした。

「なるほど・・それは理解できます」

シュナイダーもうなずく。


「ところでアリスさん、ここにいるクリストファーですが、実は帰還者なのですよ」

シュナイダーがいきなりクリストファーの紹介をした。

アリスは別に驚く様子はない。

「なるほど・・それほど驚かれないのですね。 私の知っている情報では、サラさんも帰還者だったとか・・」

シュナイダーが言う。

アリスは一瞬だが、しまったと思った。

この男はすべてに地雷をしかけているのか?

言葉から私を値踏みしているのだ。

うかつにも私は素直に答え過ぎてしまった。

だが、後悔しても遅い。

「え、えぇ・・サラはそういう扱いになっていたようですが・・」

アリスは言葉に困る。

「アリスさん、私は不思議に思っているのですよ。 クリストファーにしてもそうなのですが、帰還者は銃くらいでは傷もつかないはずです。 あの公開されている映像・・不思議なのですよ」

シュナイダーは明らかに疑っているようだ。

アリスは平常心をよそおう。


「アリスさん、詮索はしませんが、何か重大な事案を抱えているのではありませんか? まぁ、国という大きな組織の考えること・・ロクなものではありませんでしょうがね」

シュナイダーが笑いながら言う。

「お館様、アリスさんが困っておられます」

クリストファーが笑いながら言葉を添える。

「おっと、これは失礼した・・アハハ・・」

少しの間、笑い声が響く。


「さてアリスさん、こんな老人ですが、今ここにいるクリストファー君と共に世界を見ているのです。 世界というと偉そうに聞こえますが、今の社会システムはお金を基調として動いています。 この世界は、そのお金で極端な話、命まで買うことができる錯覚に陥っています。 私たちはそういった世界の中で、個人として生きて行こうと決めたのですよ。 そして個人でできることをする。 お金が基準ならその力を使って組織からこぼれた人たちを、大げさにいえば救済する、いやしたいと思って生きているのです」

シュナイダーが力強く話す。

アリスも思わず聞き入ってしまっている。

「おやおや、私としたことがついつい語ってしまいましたね。 まぁ言うなれば金持ちの偽善行為をしているというのでしょうね」

シュナイダーがはにかみながら笑っている。

クリストファーが微笑み言葉を出す。

「アリスさん、私は帰還者ですが、こちらに帰って来てつくづく思い知らされました。 国という大きな組織では本当に救いを求めている人を救うことなどできはしないと。 ここにおられるシュナイダー卿と共に新しい世界を作りたいとそう思っているのです・・少し偉そうでしたかな?」

「い、いえ・・シュナイダー卿、それにクリストファーさん、私もそれには同感です。 何といいますか・・世界ですか・・私はそこまで大きく考えたことはありません」

アリスには言葉が出て来なかった。

この人たちは理想をそのまま実行に移して行動しているのだと感じていた。

嘘は言っていない、そんな気がする。

デイビッドがいれば笑っただろう。

サラはいつも乗せられると。

だが今のアリスの頭の中にデイビッドはいなかった。


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