第146話 招待される



<サラ>


サラことアリスの紹介も終わり、通常業務に戻っていた。

誰もサラのことを追及しない。

本当に過去のことはすぐ忘れたのかもしれない。

アリスは国務長官の付き人として動くことになる。


「いや~疲れたね。 バレないかとヒヤヒヤしたものだが、案外大丈夫なんだな」

国務長官が自室でつぶやく。

アリスが笑いながら聞いていた。

「国務長官、そういうものですよ。 それより何か知らせたいことがあるとか・・」

「うむ・・」

国務長官が机の上の直通電話を見つめる。

「実はね・・有権者からの依頼でね・・君と一度面会したいという話があるんだ」

「私と?」

「うむ。 正確にはサラとだが、その後任にも興味があるという」

国務長官の言葉にアリスは引っかかる。

「どういうことでしょう? サラは亡くなったと知っているはずですよね?」

アリスの言葉に国務長官がうなずく。

「うむ・・この有権者というのは、いわゆるビリオネアと呼ばれる人物だ。 我が国にも多大な貢献をしている。 その言葉は大統領でも無視できないものだ」

アリスは黙って聞いている。



国務長官がチラッとアリスを見る。

「その・・考え過ぎなのかもしれないが、相手はサラが死んだということを疑っているのかもしれない」

サラは少し驚いていた。

「国務長官、あの私の撃たれた姿は共有されているはずですよね?」

国務長官はうなずく。

いくら関係者にしか公開していないといっても、普通なら死んでいる人間の映像だ。

「ならなぜ、そのような話が・・」

アリスは少し前のめりになりながら国務長官に話していた。

「うむ・・私の推測だが、相手の中にサラのような・・いや、アリスのような人物がいるのかもしれない。 だからこそ直接会ってみたいと言っているのかもしれないんだ」

アリスは少し戸惑っていた。

「アリス君・・彼らの言葉を無視することはできないのだよ」

国務長官のその一言でアリスは理解する。

この国も金持ちの意思に左右されるのか、と。


しばらくしてアリスが言葉を出す。

「国務長官、で、いつ面会すればいいのでしょうか?」

「すまない・・せっかくサラの存在を消せたというのに・・」

「いえ、それは成功していると思います。 ただ私と同じ帰還者ならば、誰でも銃での死亡を疑うでしょう」

アリスの言葉に国務長官は少しだが救われただろう。

「ありがとうアリス君。 面会だが、明日の午前に迎えが来るそうだ」

「それはまた急な・・了解しました」

アリスはそう返事をすると、国務長官の部屋を後にした。


アリスは通路を歩きながら考えている。

間違いなく私と同じものがいる。

誰が見てもサラが生きているとは思えない。

暗殺者目線でドアが閉じられたが、それでもはっきりと弾痕が見えたはずだ。

・・・

ビリオネアが帰還者。

それに追随する輩。

金の亡者か?

どうせロクなことを考えてはいまい。

アリスは相手を侮ったりはしていないが、見下すような目線でいた。


<翌日>


アリスのところへ迎えの車が来た。

国務長官に見送られて車に乗る。

車の中はドライバーが1人だけ乗っている。

本当に人を運ぶだけのようだ。


車は静かに発進し、移動している。

ドライバーは何も言わない。

アリスも後ろの席に黙って座っていた。

1時間ほど移動しただろうか。

いつからかきれいな草原が広がっていた。

その中を車がゆっくりと走って行く。

羊でもいるのだろうか。

白い動物たちが遠くで移動していた。

少し木々の間を抜けたところに、レンガ造りの古風な家が見えてくる。

車はその家に向かっているようだ。


結局アリスとドライバーは何も話すことなく、草原を小一時間ほど移動。

車が静かに停止する。

アリスのところのドアが開かれる。

「ようこそおいでくださいました、アリスさん」

やや年配の男がドアを開けながら声を掛けてきた。

ポーターか?

アリスはそう思いながら車から降りる。

「どうぞこちらへ」

年配の男がアリスを先導してくれる。

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