第145話 ハンナの驚き


シュナイダーは思う。

我々の計画は神に許されていなかったのか?

ワクチンの効果が無効化される国が出現。

そもそもワクチンを接種しなければ、それほど深刻な身体の変化は生じない。

万が一不幸な事故が起こったとしても、それはその人のもつ寿命ということだった。

もし、その帰還者も神のご意思だとしたら、我々はいったい何のために行動したのか?

だが一度動いてしまえば、後戻りはできない。

そして、まさかプッツン大統領が人間ではないという話だ。

それに今は消息不明。

今度はクリストファーのような能力者を取り込んでいるという。

とにかく一度有志と合流し、今後の行く先を考えなければいけない。

ハンナは全くうってつけの友人だった。

シュナイダーはハンナに絶大な信頼を寄せている。


「シュナイダー、これは未確認情報なのですが、アメリカにいる帰還者のサラなる人物が亡くなったというのです」

ハンナの言葉にシュナイダーは立ち止まってしまった。

「なに?」

思わずハンナの顔を見る。

ハンナはうなずくと続ける。

「先ほど得た情報です。 何でもペンタゴンの中で暗殺されたのだとか。 目撃者の情報によると衣服に複数の銃弾の後があったといいます」

シュナイダーはその話を聞いて思わずクリストファーを見る。

クリストファーがその視線に気づき、近づいて行く。

「どうかされましたか、お館様」

「うむ・・クリストファー君、ひとつ聞きたいのだが・・君に銃を突き付けて撃つとする。 君は死ぬだろうか?」

シュナイダーは知っている。

クリストファーの顔面で銃を撃っても避けられることを。

だからこそ敢えてハンナの前で聞いてみた。

クリストファーは微笑みながら答える。

自分の答えを友人のハンナに聞かせるつもりなのだろう。

「お館様、結論から言えば死ぬことはありません」

ハンナはその言葉をジッと聞いている。

クリストファーは続ける。

「そして、身体に傷すら残らないでしょう。 何なら今ここで試してみましょうか? エステルさん、銃を所持されておられますよね。 ここに来て私のお腹に向けて銃を撃ってください」

!!

クリストファーの言葉にエステルとハンナが驚いた。

エステルがどうして銃を所持しているとわかったのか。

そんな素振りは一切見せていない。

エステルはハンナの顔を見たまま言葉を失っているようだ。

ハンナは軽くうなずくとシュナイダーを見た。


「シュナイダー・・これが帰還者という人物ですか?」

シュナイダーはにっこりとしてうなずく。

「エステル、クリストファー君の言う通りにしておあげなさい」

ハンナの言葉にエステルが近づいて来た。

エステルが腰のところから銃を取り出す。

「クリストファーさん、本当に撃ちますよ」

エステルの言葉にクリストファーは笑顔でうなずく。

「どうぞ」

エステルはゆっくり腕を動かして照準を合わせる。

クリストファーのお腹の部分に銃を向けた。

するとクリストファーがエステルの腕を持って自分のお腹にピタッとくっつける。

銃とクリストファーは密着している。

これではどれだけ速く動いても避けることはできない。

エステルは少しためらってしまう。

「どうぞ、エステルさん」

クリストファーが改めて言う。

エステルは少し迷っていたが自分の仕事をこなす。

ふぅっと息を吐き、引き金を引いた。

パン!

確実に手ごたえがあった。

間違いなく銃弾を発射した。

銃口の当たっていたクリストファーの服が黒く焦げている。


エステルは銃をゆっくりとクリストファーから引き離す。

!!

何かの塊が地面に落ちる。

クリストファーが何事もなかったかのようにしゃがみ、その落ちたものを拾った。

指先でつまんでいる。

エステルが撃った銃弾だ。

「これが結果です」

クリストファーが潰れた銃弾を手の平乗せて言う。


ハンナは驚いていた。

すぐに言葉が出て来ない。

そしてクリストファーのお腹の部分を見つめる。

「・・クリストファーさん、お腹は大丈夫なのですか?」

ハンナの言葉にクリストファーは服をまくり上げた。

!!

間違いなく銃で撃たれたはずだ。

だがどういうことだ?

クリストファーのお腹は全く変化していない。

服は焼け焦げている。

ハンナはそのままシュナイダーを見る。

シュナイダーは笑顔でうなずく。

「どうですかな?」

「フフ・・なるほど、映画でも見ているようですわ」

「そうでしょう。 私も初めて見た時には驚いたものです。 ですがハンナ・・これはあなただから見てもらったことなのです。 我々だけの秘密にしてもらいたい」

シュナイダーがしっかりとした口調で言う。

ハンナはうなずく。

わかっている。

こんなことが知られては、いろんな意味でバランスが崩れる。

それにしても帰還者というのはすべてがこんな感じなのかしら?

ハンナは思わず聞いていた。

「クリストファーさん、帰還者はみんなそんな感じなのでしょうか?」

「さぁどうでしょうか? ですが、少なくとも銃くらいで傷つくことはないと思いますよ」

クリストファーの言葉にハンナはうなずく。

「エステル・・あなたも秘密厳守でお願いします」

「はい」

「未だに夢を見ているようだわ。 それにしてもアメリカは、何故帰還者が亡くなったと発表したのかしら?」

ハンナの言葉に、シュナイダーもクリストファーも答えを持ち合わせてはいなかった。


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