第144話 ビリオネアの思惑
<シュナイダーとクリストファー>
クリストファーはシュナイダーと共にアメリカの大地を歩いていた。
空港から車で数時間揺られ辿り着いた郊外。
周りに人家はないが、きれいな草原が広がっている。
富豪の庭だ。
車を降りてゆっくりと歩いていた。
「クリストファー君、自由というのは気持ちがいいね」
シュナイダーは空を見上げ、微笑みながらつぶやく。
「おっと・・我が友人が歩いて来たな」
シュナイダーは視線を動かす。
シュナイダーたちの前方に2人の人影が見える。
100mくらい離れているだろうか。
お互いが近づくに従ってその輪郭がはっきりしてくる。
どうやら女性のようだ。
クリストファーはそう思って見つめる。
「ハンナ!」
シュナイダーが手を振って呼んでいた。
ハンナと呼ばれた女性は笑顔で片手を振る。
横にいる女性も一緒に微笑んでいた。
クリストファーたちの前に来る。
「シュナイダー、よくご無事で」
「ハンナ、ありがとう。 君の招待がなければどうなっていたか・・」
クリストファーは軽く会釈をする。
「いえ、すべては神の思し召しです」
ハンナはそう答えながらクリストファーを見つめる。
「シュナイダー、彼がクリストファー君ね。 聞いていますよ」
クリストファーはハンナの方を向き、挨拶をする。
「初めまして、クリストファーと申します。 よろしくお願いします」
「クリストファー君、自分の家だと思ってくつろいでくださいね。 えっと、この者は私の身の回りの世話などをしてくれているエステルというものです」
ハンナに紹介された横の女性が微笑み、軽く膝を曲げて挨拶をする。
「エステルです。 よろしくシュナイダー様、クリストファー様」
シュナイダーも軽く挨拶を返すと、ハンナに話しかけた。
「ハンナ、こちらの方ではどうなっているのだ?」
「フフ・・そう慌てるものではありませんよ。 こちらも似たようなものです。 ただ世界にはまだまだ能力者がいるようです。 その詳細は掴めませんがね」
ハンナは笑顔を絶やすことなくシュナイダーと話していた。
クリストファーはシュナイダーとハンナの後を追ってゆっくりと歩いている。
横にはエステルがついている。
「クリストファーさん、そう緊張しなくても大丈夫ですよ」
エステルが笑顔で話す。
そんなことできるはずもない。
クリストファーは思う。
いくらシュナイダー氏の友人とはいえ、自分には初見だ。
それに知っている。
ビリオネアたちは自分の信念以外信じることはない。
どれほど人や社会のために貢献しているように見えていても、見えているだけだ。
その根幹には自分のためになる何かがある。
クリストファーは苦笑いをしながら歩く。
まだ屋敷までは距離はあるようだ。
シュナイダーが少し険しい顔をして言葉を出す。
「ハンナ、他の同志との連絡は?」
「えぇ、全く取れていないわね」
「そうか・・」
「シュナイダー、バッキンダック主席が亡くなったのは痛いわね。 それにプッツン大統領・・彼が人でないという情報は腑に落ちないわね」
ハンナが言う。
「うむ。 私も見たわけじゃない。 クリストファー君も見たわけじゃない。 だが、帰還者と遭遇した時に知った情報だ」
「ふむ・・本当にそんな存在がいるのかしら? いえ、私の認識を変えなければいけないのね。 クリストファー君にしても普通じゃないし・・まさかそれ以上の存在がいるなんて・・神、いえ悪魔も存在するということね」
ハンナは真剣な顔で前を向いている。
「うむ。 我々も人として為せることをしてきたつもりだ。 だがそのご意思にプッツンという悪魔の種が植え付けられていたのだ。 我々の行為が悪の行為になったかもしれぬ」
「シュナイダー・・それは違うわ。 それすらも神のご意思だったのよ」
ハンナの言葉を聞き、シュナイダーは自嘲する。
「フフ・・そうかもしれぬな」
シュナイダーたちビリオネアの思惑。
地球上に増え過ぎた単一種族の間引き。
人という種族。
100億に迫る人口。
科学技術などというものが発達し、自然を侵害し過ぎた。
寿命などもその技術力でかなり改善。
神にでもなったつもりか。
気候変動などの変化が起きつつある。
大きな流れで見れば、いずれ人種族も
地球もバカではない。
大氷河期などで生物が大変化を起こすだろう。
だが、その時間を待つよりも、人が自分たちの連続した時間の中で自分たちの尻ぐらい拭けなくてどうする。
そういう漠然とした意図からビリオネアたちが集まって来た。
そしてそれができる
力とは今の時代、
その金システムの生きているうちに
その罪はいずれ神が下すだろう。
我々は喜んでその罰を受けとめよう。
そう思って計画をした。
ワクチンを作らせて実験をする。
プッツン大統領の協力でその計画が大いに加速された。
バッキンダック主席の力も大きい。
計画は予定通りに進んでいた。
だが、妙なことが起こって来た。
クリストファーのような帰還者の存在だ。
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