第139話 こいつ、好き勝手しやがって!



ピスターチオも感じていた。

ビリビリと伝わる緊張感。

相手は魔族だ。

自分を狩ろうとしているのはわかる。

だが一体何の目的で自分を狩るのか。

いやそんな理由ことはどうでもいい。

とにかくこの場から逃げなくてはいけない。

ゆっくりと右足を動かすと足先に何かが当たる。

そうだ。

これを使ってその隙に逃げよう。


右足に当たったのは小麦粉の粉袋だった。

これを蹴り上げて相手にぶつけて、粉煙が舞っている間に全力でとにかくこの場から離れる。

その後のことはその時に考えよう。

できるはずだ。

小麦粉の粉が舞う間に炎の魔法を少し放てば粉塵爆発が起きるかもしれない。

その隙に魔素を徹底的に隠蔽して移動する。

きっと見つからないはずだ。

ピスターチオはそこまでを2~3度、頭の中でイメージをした。


ディアボロスが少しずつ間を詰めてくる。

・・・

・・

!!

今だ!

ピスターチオはイメージ通り、小麦粉の粉袋を蹴り上げた。

ディアボロスに向かって袋が飛んで行く。

その空中に浮きあがった瞬間に小さな魔法を放つ。

初級魔法のファイアだ。

粉袋は緩やかに回転しながらディアボロスの顔の辺りまで舞い上がっていた。

ピスターチオが蹴り上げたところから白い粉煙が続いている。

粉袋から漏れている粉だろう。

それにピスターチオのファイアの魔法がひっかかる。

まるで空中に導火線が敷かれたように粉袋に続く粉煙に引火。


ディアボロスとピスターチオにはそれほどの速さではないが、確実に火がディアボロスに向かって伸びていった。

ディアボロスの顔面付近に近づくに従って、粉袋から粉が大量に漏れ出していた。

ピスターチオのイメージ通りの絵面だ。

ドォーーン!!

天幕の中で爆発が起こる。

ピスターチオはその爆発の外側に避難しようとする。

爆発の衝撃が広がるよりも速く外側へ移動。

普通の人から見ればまさに一瞬の出来事だっただろう。

ピスターチオは爆発の起こった場所から300mくらいは移動しただろうか。

「おっとっと・・何とか逃げられたか・・」

ピスターチオは爆発の方向を見る。

!!

その瞬間、胸の部分に強烈に熱い何かが刺さる感じがあった。

爆発で破片か何かが刺さったのか?


ピスターチオはゆっくりと自分の胸の方を見る。

何かが突き出ている。

手のようなものが自分の胸から出ていた。

な、何だ?

「惜しかったな。 だが私も同じ過ちを繰り返したりはしない・・クックック・・」

ピスターチオの耳に聞こえる。

「あーはっはっはっは!! これだ、これだぁ、これだぁぁぁ!」

ディアボロスは思わず声を上げた。

ピスターチオを即座に吸収。

もはやピスターチオはそこにはいない。

ただ胸に穴の開いた服だけがあった。


「な、何だ? 爆発だぞ」

「どこから攻撃を受けた?」

・・・

テログループの拠点では人々が騒がしく動いている。

ディアボロスは満足したのだろう。

そんなの人は相手にせずにその場からスッと姿を消す。


<テツ>


クララと一緒にソバを食べ、クソウたちが借り上げている宿舎ホテルに帰って来ていた。

クララの部屋も用意してくれていたようだ。

「クララ、そっちが君の部屋のようだよ」

俺は部屋の鍵になっているカードをクララに渡す。

自分の部屋の扉を開けようとした。

!!

「こ、これは・・だが・・」

俺の身体をディアボロスの放った魔素が通過した。

だが、すぐに消える。

急いで俺はクララの方を振り向いた。


クララも同じように俺を見つめている。

「テツ・・これって・・」

俺はうなずく。

「間違いない・・ディアボロスだ。 だが、前よりも少し大きな魔素のようだし、すぐに消えてしまった。 場所もよくわからないが、かなり離れているのは間違いない・・クソッ!」

俺はどんな顔をしていただろうか。

テンジンの笑顔が頭の中に浮かぶ。

それに伴いやるせなさと妙な怒りの感情も浮かび上がってくる。

「こいつ・・好き勝手にしやがって・・」

クララが優しい声で俺に話しかける。

「テツ・・焦らないで。 怒りや焦りは相手にとって好都合よ。 でも・・この魔族、賢いわね。 もしこれが私たちに対するメッセージなら、適当に相手を挑発しつつ自分のエサにできるわね。 私はこんなことできないけど・・」

クララが言う。

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