第137話 発見



龍に対してこちらの攻撃などそよ風程度だったろう。

龍族の領地に侵入した瞬間に撃滅された。

今にして思えば、領地に侵入するまでに何度も龍族から警告があった。

誰もまともに聞く者はいなかったが。

ピスターチオは魔法で防御を展開し吹き飛ばされる。

それがたまたま龍族の領域外であったために追撃がなかっただけだ。

生き残りはピスターチオ1人だった。

そのままブレイザブリクに戻る必要はないと考える。

どうせ生き残りは自分しかいない。

そう思い、この龍族との境でひっそりと暮らしていた。

しばらくすると突然、現代社会に戻ってきていた。

召喚されたその瞬間に戻っていた。

しかも向こうで得た能力を持って、だ。


ピスターチオは狂喜する。

この力があればわざわざ危険なことをすることもない。

自分1人生きていくには天国だろう。

そう思い、この紛争地域で静かに暮らしていた。

人前では決して能力を見せることもなく、ただ静かに暮らしていた。

テログループに属しているとはいえ、戦闘能力は高くない。

今は違うが。

そしてリーダーにはほぼ見放されているような状態だった。

もっぱら食事係に従事している。

ピスターチオはそれで十分だった。

もともと戦闘などは好きではない。

それは異世界に行って帰って来ても変わることはなかったようだ。

自分の状態を決して表に出さず、部隊の調理業務にせっせと汗を流す。


「ピスターチオ、夜には少し多めに食事を作っておいてくれ」

リーダーらしき人が声を掛けてきた。

「はい、わかりました」

リーダーらしき人の横にいる男も話しかけてきた。

「ピスターチオ、もう少し自分を鍛えた方がいいぞ。 ここもいつ戦闘に巻き込まれるかもしれない。 自分の身は自分で守らなきゃな」

「はい、わかっていますよ」

ピスターチオの返事にリーダーらしき男と向き合って、やれやれと両肩をすくめる。

ピスターチオから離れながら会話していた。

「あいつ本当に戦闘には役に立たないからな。 よくもまぁ生き延びられたものだよ」

「まぁそういうな。 彼の食事は美味しい」

・・・

・・

そんな時だった。

いきなりこの拠点に一人の男が現れた。

笑顔を絶やすことなく悠然と歩いている。

余りに堂々と歩いているので誰も声を掛けずにいた。

だが見たこともなく、雰囲気もどこかの上流貴族かという感じだったので見つめるのみだった。

その男が1人の男を捕まえてたずねていた。

「君、この拠点のリーダーはどこにいるのかね?」

その質問が発端だった。

聞かれた方は素直に答える。

「は、はい、リーダーはあのテントの中にいます」

「そうか、ありがとう」

男は笑顔でうなずくと、そのままテクテクと指示されたテントに向かって行く。


遠慮なくテントの幕を開けて中に入って行った。

!!

中にいた人たちは全員驚いた。

「な、何だお前は?」

「誰も近づけるなと言っておいたはずだが・・」

リーダーもいきなり入って来た侵入者の方を向く。


男は軽くうなずき自己紹介を始めた。

「これはこれは、皆さんお揃いで。 いえね、この近くで大きな妙な魔素を感じたりしてものでね、立ち寄らせてもらったのだよ。 ふむ・・お前ではないな・・おかしい」

男はブツブツとつぶやくと首を傾げている。

「おいお前、いきなり何を言っているんだ。 出て行け!」

不意の侵入者に当然の反応をする。

中でいた男たちが手を伸ばして入って来た侵入者に触れて追い出そうとした。

!!

一瞬の出来事だった。

リーダーは驚く。

手を伸ばした部下たちが男に触れた瞬間、部下たちが消えた。

服はまるで中に人が入っているかのような膨らみを持っていたが、ゆっくりとしおれてヒラヒラと床に落ちていく。

「な、な、何だ? いったい何が・・」

リーダーは声にならない声でつぶやいていた。

男はつぶやく。

「ふむ・・私の勘違いか? いや違う・・間違いなくこの近くにいるはずなのだが、うまく探知できないな・・やはりテンジンの影響か?」


リーダーは震えながら席を立とうとする。

「お、お前・・いったい何者なんだ? まさか連合軍の新兵器なのか?」

リーダーはついに答えを得ることなく即座に男、ディアボロスに吸収された。

「うるさい」

ディアボロスは何事もなかったかのようにテントを出て行く。

辺りを見渡して目を閉じる。

・・・

・・

見つけた。

かなり弱々しいが魔素を感じる。

私の集中力が足りなかったようだ。

ディアボロスはそう思うと、わずかに感じる魔素に向かって歩いて行く。

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