第136話 ピスターチオという人物



<ディアボロス>


クリストファーとシュナイダーがアメリカに移住を決意したのは僥倖だと言えるだろう。

ディアボロスが帰還者を求めて移動をしていた。

今は中東にいる。

大統領時代に、どこにテロリストがいるのか把握していた。

そのような紛争地帯は外から入って来る人も少なければ、中の情報が漏れることもない。

良い狩場だ。

そしてその中にも帰還者はいた。


テロリストとして養成されてブレイザブリクの世界に召喚された。

サラの時よりも1つ前の召喚だろうか。

3人の召喚者がいた。

皆、中東の連中だった。

召喚された人間は、何か飛びぬけた能力が備わっていることがある。

ピスターチオもその1人だった。

テロリストとして養成された割には理性が備わっていた人物だ。

よく物事を理解し、他の意見も聞いた。

テロリスト自体に疑問を常に持っていた。

まずは銃よりも話をするべきだと常々思っていた。

決して口にすることはできないが。


召喚されてすぐに適性検査を受ける。

ピスターチオは魔法適性があるようだった。

他の2人は戦士系の属性のようだ。

このブレイザブリクの国では戦士系は重宝される。

魔法系は補助的な要素が強い。

ダンジョンに潜り、何とかクエストをこなしそれぞれレベル21位にまでなっていた。

すると戦場に派遣されるようになる。

初戦は簡単に勝つことができた。

後で思えばうまい話だ。

おそらく召喚者に自信をつけさせるためだろう。

簡単な場所を攻めさせて攻略させる。

ブレイザブリクを良く思っていない小さな地域を攻める。

相手は遠慮なく抵抗するが、ほとんど蹂躙の状態だ。

ピスターチオはうれしくも悲しくもなかったが、他の2人は大いに喜んだ。

自分達は特別に強いのだと。

実はこれがブレイザブリクの国の罠だったのだが。


自信がつくと少々危険なことでも麻痺するらしい。

少しずつ強い勢力に当てられるようになる。

だが初戦でいい思いをしたのを忘れられないのだろう。

ピスターチオは冷静に考えることができていたが、他の2人の流れに逆らうことはできない。

「君たち、この国の戦闘自体少しおかしくはないか?」

ピスターチオは問いかけるが聞く耳など持つはずもない。

「ハッ! 俺たちの戦闘力は知っているだろピスターチオ。 この世界では力こそが正義だ。 それに俺たちにかなうやつなど、このブレイザブリクにいないではないか」

「そうだぞ、俺たちは勇者だ。 勇者たるもの勇敢でなければいかん。 ピスターチオには勇気がないのか?」

召喚された2人は薄ら笑いを浮かべながらピスターチオを見る。

「いや、そういうわけではないのだ。 俺たちが・・」

ピスターチオが自分の理論を話そうとすると頭を振って笑う。

「いやいや、すまぬなピスターチオ・・我々にはどうも魔法使い様の考えは理解できぬようだ」

「うむ、とにかく敵は蹴散らせばそれでよい。 結果がすべてなのだ。 だからこそ今の生活ができているのではないか」

・・・

・・

ピスターチオの言葉は全く届かなかった。

軽く頭を振るとピスターチオはゆっくりと2人に背を向ける。

その背中では確実にピスターチオを見下す言葉が飛び交っていた。

事実、やはり戦士系の方が戦闘では少し優勢なようだ。

ピスターチオのどこかに遠慮があるからそう思えるだけなのだが、自覚できていないようだ。


そのうち龍族と戦えという。

貴重な鉱石や龍の鱗を取って来いと指令が出る。

それに龍族から帰ってくれば、小さな国を与えるという。

ピスターチオ以外の2人はもはや有頂天になっていた。

自分の耳に痛い言葉など聞くはずもない。

提示された褒賞ばかりの計算をしていた。

ピスターチオは引きずられるまま戦闘に駆り出される。

・・・

結果は惨敗。

惨敗などという言葉は生ぬるい。

全滅だった。


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