第135話 武藤の事務所
<武藤の事務所>
武藤は佐藤が帰還当初に灰すらも残さなかった事件を追っていた警官だ。
そのうち佐藤がクソウ大臣の秘書官付になるという報告を受ける。
それからはアンタッチャブルだ。
全く情報が入って来ない。
クソウ大臣のところへ行っても面会すらできない。
わかってはいたが、この国は権力者の思うがままの世界だ。
我々普通の、いや少しばかり一般市民に対して権力を与えられただけの存在では大したことはできはしない。
権力者が黒を白と言えば、本当に白になる。
武藤は事務室の机に座り、PCを眺めていた。
「武藤さん、動きがありましたか?」
「あぁ、常盤か・・いや全く情報が出て来ないね。 既に我々が知っているというのにマスコミすら取り扱っていない」
「えぇ、情報が情報ですからね。 いったいどんなことが起きるかわかったものじゃない」
常盤がニヤッとしながら話す。
「常盤、そこは笑うところじゃない。 何しろあの中国という国家がなくなったのだからな。 国民はいるのだろうが、俺たちが知っている情報では部族同士が集まって勢力圏を分割するとか言ってたな」
武藤の言葉に常盤はうなずく。
「そうです。 まるで三国志ですよ。 私個人の見解なんですが、これで本当に良い国になったんじゃないですか?」
常盤の言葉に武藤が難しい顔をする。
「武藤・・そんな単純なものじゃないだろう。 あの13億人の人を統制するのは容易なことじゃない。 湾岸戦争を思い起こせばわかるだろう。 外からの勝手な干渉が余計な不安定な社会を生む。 そして結局は干渉した国々を苦しめる結果になる。 今だって妙なテロリストがはびこっている・・そうか!」
武藤は思わず机から飛び降りて立ちつくす。
常盤たち事務所にいた連中がビクッと驚く。
「む、武藤さん、どうしたんですか?」
常盤が聞く。
「テロリストだよ、常盤」
??
常盤が不審そうな顔をする。
「あぁ、すまない。 いきなり過ぎたな」
武藤が話を続ける。
「いやなに、あの佐藤のような能力者がテロリストにいないのかと思ってね」
武藤のその言葉に事務所全員が凍り付く。
・・・
「いや、例えばの話だよ。 仮にいたとしたら既に大暴れしているだろう。 そんな情報は入っていない」
武藤はゆっくりと席につく。
「武藤さん・・悪い冗談・・じゃないですね。 でも実際どうなんでしょうね」
「さぁな・・既に俺たちにわかるはずもない。 動くことすらできないのだから・・それにこの事務所もそのうち解体されるかもしれない」
・・・
「「「えぇー!!」」」
事務所の中は一瞬静かになったと思うと、全員が声をあげていた。
武藤が片手を挙げて皆を落ち着かせる。
「みんな・・そりゃそうだろう。 佐藤のような特殊な事情で無理矢理できあがったようなチームだ。 そのうちなくなるだろう」
武藤の言葉に女の子が答える。
「あ~ぁ、これでまた変な落とし物や、揉め事、違反駐車に戻るのですね」
それに続いてみんなの口からいろいろと言葉が飛び出してきた。
「俺なんて変な新興宗教の教祖の相手をさせられるよ。 火星人だとか何とか・・」
「それならまだいいぞ。 俺なんてあのゴミ屋敷のばあさんの相手だよ。 家の中では深呼吸できないんだぞ」
・・・
・・
武藤のチームは日常に戻りそうだった。
ただ武藤は考える。
本当にどうなるのだろうかと。
情報が世界に向けて公開されていない。
誰かがその情報を操作している。
クソウ大臣なんかじゃない。
もっと大きな存在。
そんな存在のために世界が振り回されるのか?
冗談ではない。
だが俺たちのようなものでは、日本の法律にすら逆らえない。
いつも思う。
平和憲法を叫んでいれば、ミサイルが飛んで来ないと本気で思っている連中がいる。
そういった世界概念が、もしかすると変わってきているのかもしれない。
時代の変化の渦中にいれば気づくことはない。
今がその転換点なのか?
佐藤のような特殊な存在。
奴が本気になれば国などどうなるか・・。
武藤はそこまで連想すると、考えるのをやめた。
軽く頭を振ると事務所を見渡す。
今はこのチームが無事着陸できることを考えるだけだな。
◇
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