第133話 蕎麦屋



デイビッドはうなずくと続ける。

「サラ、俺たちがどうしてこの世界に帰って来れたのか? それも1人や2人じゃない。 どれくらいの数がいるかわからないが、現実世界にはない魔法力ちからを持った人間が存在する。 それはこの世界が、言い換えれば神が俺たちを必要としているんじゃないかと思うんだ。 古い社会システムから脱却するには、完全に脱皮しなければならないだろう。 フェニックスの伝説を知っているね。 燃え尽きた灰の中から新しく蘇るという。 今の世界は一度滅びるしかないと思うんだ。 その・・」

デイビッドはそこまで話すと自嘲する。

「すまないサラ、話が長すぎたね。 つまり君がうまく利用されていて危険だと思っただけなんだ。 とにかく俺は生きている。 今日本にいるが、いつでも会いに来れるから、決して無茶なことはしないでくれ。 今言えるのはそれだけだ」

サラはデイビッドの言葉をゆっくりと歩きながら聞いていた。


「神様か・・デイビッド、ありがとう。 私もデイビッドが生きているのがわかっただけでも1人じゃないとホッとしているの・・うん、わかったわ。 これからは私だけじゃなくデイビッドもいるんだって思える。 もう変に利用されたりしないわよ」

サラがにっこりと微笑む。

「ハハハ・・サラ、それが危ないっていっているんだよ」

「な、何がよ?」

「君はすぐに行動するだろう? 俺の言葉をそのまま受け取って、極端に方向転換すれば、それこそ怪しまれるぞ」

「ちょ、ちょっとデイビッド、そうやってすぐ私をバカにして・・」

「アハハ・・ごめん、ごめんサラ。 よし、じゃ俺は行くよ。 あそこのSPも少し変な感じに気づき始めたのかもしれない。 とにかく死ぬなよ、サラ」

「もちろんよ」

サラはそう答えるとSPの方を見る。

「デイビッド、SPは別に変な感じじゃないわよ・・って、デイビッド?」

サラが振り返るとデイビッドは消えていた。

隠蔽魔法を深く発動し、その場から移動したようだ。


サラは方向を変えてSPの方へ向かってゆっくりと歩く。

デイビッド・・生きていたのね。

良かったわ。

私、大丈夫だから。

もう一人じゃないってわかったから。

それにしてもデイビッド、いろいろと考えているのね。

神様が私たちをこの世界に戻したとか何とか・・。

ま、それならそれで今は答えがわからなくても、いずれわかるわね。

私は自分にできることをするだけだわ。


<テツ>


俺はクララを連れて蕎麦屋を目指して歩いている。

行きつけとまではいかないが、美味しい蕎麦屋を知っていた。

戸隠そばを扱うお店だ。

いろいろ美味しいところがあるが、東京で俺に合うのはこのお店くらいだろう。

と、偉そうに言うが、そもそも3~4件くらいしか回っていない。

まぁ無難に食べれるお店ということだ。

ただ、行き交う人が必ず俺たちを見る。

俺じゃない、クララを見る。

きれいな金髪をなびかせて微笑んでいる美人。

誰でも振り返るだろう。

クララはそんな目線は全く気にならないようだ。

俺の腕にくっついて歩いている。

・・・

無論、俺の腕にはクララの胸のボリュームをずっと感じている。

になりそうになりながらも、俺の意志力でかろうじて耐えている。


「クララ、このお店なんだ」

目的の蕎麦屋の前に来た。

入り口に暖簾のれんがかかっている。

俺はそれを片手で避けて入っていく。

「いらっしゃい!」

威勢のよく歯切れのよい言葉が飛ぶ。

クララが身体をかがめながら俺について店に入る。

「いらっしゃいませ~、お二人ですか?」

店員だろう人が笑顔で俺たちに近寄って来た。

「はい」

俺は即答。

「どうぞこちらへ」

店員に案内されてカウンターに座った。

クララはニコニコしながら席につく。

こうやって笑顔で座っているだけなら、とてもじゃないが人を傷つけれるような感じがしない。

だが実際は平気で人を狩る。

・・・

怖ぇよなぁ。

「ねぇテツ、これがソバを食べるところなの?」

クララが聞いてきた。

「あぁ、そうだよ。 こういう椅子に座って食べるんだ」

「そうなんだ。 私こんな雰囲気初めてよ」

クララはうれしそうだ。


「お客さん、何にしましょ?」

店員が聞いてきた。

「えっと・・ざるそばを2つお願いします」

「かしこまりました。 ざるそば2丁!」

店員が注文を復唱していた。

クララは興味深そうにいろいろと見ている。

・・・

・・

しばらくしてそばが運ばれてきた。

俺とクララの前に置かれる。

ツユと蕎麦湯も一緒に置かれていた。

「蕎麦湯が熱いのでお気をつけください」

店員はそういってまた入り口付近に向かって行く。


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