第132話 再会



しばらく歩いていていると、フトある考えがデイビッドの頭をよぎる。

建物を包み込む結界を張ればよいのではないかと。

サラが通過したら反応する結界。

それほどの大きさでもない。

どうせ普通の人にはわかるはずもない。

もし違う帰還者がいたとしても、その人物が把握できたと思えば大きな収穫となろう。

だがそれは自分の命の危険をも意味する。

どうする?

デイビッドの頭の中では自問自答の繰り返しだ。

・・・

・・

デイビッドは決断をする。

やはり結界を張ろうと。


デイビッドはとある木の前に来ると、片手を地に着けて膝をつく。

手のところから薄い白い光がスッと広がってゆき、ペンタゴン全体を覆った。

隠蔽魔法は解いていない。

!!

結界を広げていくときにサラの位置を捉えていた。

「サラ!」

デイビッドがそう思うと同時に、サラも感じていた。

「こ、この感覚は・・結界だわ。 いったい誰が?」

サラは通路を歩いていたが立ち止まる。

「サラさん、どうかされましたか?」

サラの護衛SPが言葉を出す。

護衛とは聞こえはいいが、要は見張りだ。

「いえ、何か寒気がしたものですから」

「それはいけませんね。 医務室へ行かれてはどうですか?」

「ありがとう。 でも最近忙しかったから、疲れているのかもしれません。 少し散歩でもしてくれば身体がほぐれるかも・・」

サラの言葉にSPが答える。

「そうですか、サラさんがそうおっしゃるなら外へ出てみましょうか。 その後で医務室へ行かれても良いかもしれませんね」

SPはサラの言葉に直接的には逆らわない。


サラは人工的に作られた芝生の空間に出てきていた。

同時に結界を探ってもいる。

いったい誰がこの軍事施設に結界なんかを張ったのかしら。

サラはそんなことを思いながら、視線を移動。

建物の影で軽く片手を挙げて、幽霊のような雰囲気で立っている人物がいる。

誰?

サラはそう思ったが、すぐにわかった。

デイビッド!

サラは震える右手を口に当てて、今にも泣きそうだった。

「サラさん、どうかされたのですか? ご気分がすぐれませんか?」

SPが声を掛ける。

「い、いえ、そうじゃないのよ。 えっと・・久々に外の空気を吸ったらホッとしたのよ」

サラはそう答えつつ両手を上にあげて大きく伸びをする。

「うぅ~ん・・ぷはぁ・・少しこの空間を散歩してきてもいいかしら?」

サラの言葉にSPが少しの間を置いてうなずく。

どうせこの空間のどこに行っても外に出られるところはない。

「どうぞ」

SPの返事を聞くとサラは駆けて行きたい気持ちを抑えながら、デイビッドに向かって歩いて行く。


デイビッドは建物のところで隠蔽魔法をかけており、普通の人には見えることはない。

ただ注意深く観察すれば、空間が陽炎かげろうのように揺らめいている感じがわかるかもしれない。

サラがデイビッドのところまで歩いてきた。

デイビッドは建物の影に隠れながらサラに微笑む。

「やぁサラ」

サラは手を口に当てて目からは涙が流れていた。

「デイビッド・・あなた・・生きていたのね」

デイビッドはサラの言葉に苦笑する。

「サラ・・時間がないので要点だけを言う。 この建物の影の部分をゆっくりと歩きながら話そう」

デイビッドとサラはゆっくりと歩いて行く。

SPから見ればサラが1人で散歩している感じにしか見えない。

監視カメラには完全にデイビッドは写っていない。


デイビッドは簡潔に話していた。

今の自分の状況は放置。

そして、自分は死んだことにしておいてくれという内容だ。

それにサラの立場を注意していた。

・・・

・・

「デイビッド、でもねぇ一般市民は何もしらないのよ。 それを政治家、いいえお金や権力を持った人たちのおもちゃにされているの。 それを見ていたら・・」

サラがそこまで話すとデイビッドが片手を挙げてサラの言葉をさえぎる。

「サラ、それは見た目の印象に過ぎない。 彼らは本当に弱者なのかい? 弱者を敢えて演じているかもしれない。 見方を変えてみれば、その権力者のスポークスマンかもしれないんだ」

「デイビッド! 私をそこまでバカにして・・」

「違うんだサラ、興奮しないでくれ。 俺は君が心配なんだ。 今の世界で俺たちみたいな帰還者はいろんな形で国という大きな組織に利用されている。 それは単に軍事力の強化に過ぎない。 俺は思うんだ・・本当に今この世界は変わろうとしているのではないのかと」

デイビッドの言葉をサラは聞くことが出来ていた。

まだ完全に現政権に洗脳されているわけではない。


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