第131話 クソウのところで



山本がその背中を見送ると俺に声をかけてきた。

「佐藤君、本当にご苦労様だったね。 とりあえずは休んでくれたまえ。 我々もその魔族とやらには警戒をしつつも、お隣の国の情勢で手一杯なのだよ。 悪く思わんでくれよ」

「いえ、気にしないでください」

俺はそう答えつつも、普通の人間が余計なことをすると邪魔になるかもしれないと考えてもいた。

俺のやるべきことはわかっている。

ディアボロスの捕獲もしくは討伐だ。

討伐は無理っぽいかもしれない。

チラっとクララを見る。

クララが微笑んでくれる。

「なぁに?」

俺はクララの顔を見ながら思う。

う~ん・・やはりディアボロス系じゃないのかもしれない。

もしこれでディアボロス系だったら、俺にクララが倒せるだろうか?

クララの顔を見ながら思う。


「ねぇテツ、さっき言ってたソバってやつ? 食べに連れて行ってくれない?」

クララが言う。

なるほど、お昼はまだだったしちょうどいいかもしれない。

「そうだな・・じゃ、食べに行くか」

俺は山本と神崎に挨拶をすると、事務所を後にする。


<クソウ>


クソウが椅子に座っている。

ゆっくりと座ったまま山本の方を向く。

「彼らは行ったかね」

「えぇ」

山本が答える。

部屋には神崎と山本、そしてクソウがいるだけだ。


「で、神崎君、実際イギリスで帰還者の様子はどうだったのかね?」

クソウが聞いていた。

「はい、イギリスは情報を隠しているような感じではありませんでした。 無論、一般市民レベルには行き渡っていないと思います。 ただ政治的なパワーバランスには平気で使っている感じです」

「ふむ」

「閣下、私の方の調査でも帰還者のいる諸外国は利用しようとしています」

山本たちの言葉を聞きながらクソウが答える。

「山本君、もしそれを我が国で行おうとすると・・」

クソウが全部話すまでもなく山本がうなずき答える。

「はい、諸外国は日本に圧力をかけてくるでしょうね。 今の所日本には、佐藤君一人しか存在しないことになってますからね。 あの名古屋の学生たちは普通に暮らしてもらっています」

「うむ」

「だが、いつまでも受け身でいるわけにもいくまい」

クソウが言う。

神崎がうなずきながら答える。

「閣下、その点でしたら我々が優位になっていると思います。 イギリスでは明らかに佐藤さんの方が能力的に上のようでした。 向こうの帰還者は佐藤さんを無視できないはずです。 それはそのまま日本の力になっています」

「なるほど・・」

「神崎君の言葉に付け加えて言うならば、隣国はもはや連合国になりつつあります。 我々が嫌がらせを受けることはないでしょう。 ただ、いくら強力な力があるからといって我々の意見を先進諸国は聞くはずもありません。 ここは静かにしながら力を強くしていくのが得策だと考えています。 幸い、佐藤君が新しい帰還者を連れ添っています。 日本が帰還者に対して取り込んでいるのではなく自由を与えているとわかれば悪いようにはならないでしょう。 それに、もしもの時には佐藤君も戦うのではないですかね」

山本が怖いことを平気に淡々と言う。

「ふむ・・なるほど・・まぁ我々に危害が及ばなければそれでよいわけだしな。 それに古い考えを持った連中に対する対処もそろそろ始めてもいいかもしれないね」

クソウはそう言うと椅子から立ち上がる。

「山本君、無理をかけるがよろしく頼むよ」

クソウが山本の肩を軽く叩く。

「はい、できる限りご協力を致します」

山本が力強い言葉を返していた。


<デイビッド>


デイビッドは公共機関を使わずに海の上を走っていた。

隠蔽魔法を身体に施し、かなりの高速で移動して行く。

テツほど速くはないが、それでも凄まじい速さだろう。

間もなくアメリカに到着するところだ。

海の上に霧みたいなしぶきが巻き上がっているが、デイビッドの姿は見えない。

誰が見ても自然な風が吹き抜けていると思うだろう。


サラ・・間もなくお前のところに着く。

確かワシントンにいると山本が言っていた。

デイビッドはやや速度を緩めながら上陸する。

そのままワシントンに向かって陸路を移動。

周りからは強風が吹き抜けるくらいにしかわからない。

・・・

・・

それほどの時間もかからずにワシントンに到着。


デイビッドは隠蔽魔法は維持しつつ、歩く程度の速度でペンタゴン周辺をうろつく。

「サラがいるとなれば、この施設のどこかだろう」

デイビッドはつぶやきながら失笑する。

俺も案外慌て者だなと。

サラのことが心配なのはいい。

だが、それだけで飛び出してきて、いったいどうやって接触すればいいのかまでは考えていなかった。

こんなことなら山本たちに調整してもらっておいてもらった方が良かったのか?

いや、それはまずいだろう。

俺の存在が浮かぶかもしれない。

それに3日くれるとクソウ大臣は言っていた。

サラに会うのはほんの少しの時間さえあればいいだろう。

・・・

デイビッドは深く考えずにペンタゴン周辺を散歩する。

隠蔽魔法を解くことはしない。



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