第125話 帰路につく



それにしてもクララって結構考えていたんだな。

俺は少し見直した。


俺たちのイギリスでやることはもうないようだ。

神崎がいろいろと政治的な手続きを終えていた。

「佐藤さん、我々も帰国します。 空港まではこちらの車で送ってくれるそうですよ。 帰って来たばかりでお疲れかもしれませんが、早速移動させてもらいます」

神崎が俺にそう言いつつも、チラっとクララを見る。

「クララさん、あなた本当に一緒に来るのですか?」

「もちろんよ。 さっきも言ったけど、私たちのような人間が集まっていると安全度が上がるでしょ? それよりもあなた・・少し匂うわね」

クララの言葉に神崎が驚いて自分の服を匂っていた。

「・・ん? 別に変な匂いはしないですけど・・」

「フフン・・あなたという人の匂いよ。 嫌いな匂いじゃないけど、しつこい匂いってところかしら」

「は? しつこい・・どういうこと?」

神崎の言葉を余所よそにクララは部屋から出て行く。

女王たちは既に部屋を退出していた。


「か、神崎、違うんだ。 クララは相手の匂いというか、人の感じ方を匂いで表現するんだよ」

俺は慌てて言葉を出した。

なんで俺がクララの尻ぬぐいをしなきゃいけないんだ。

「神崎ぃ? あなたに呼び捨てにされる覚えはないですけどね! それにクララって・・いやらしい! 佐藤さん、あなたはイギリスに来てナンパですからね」

俺は神崎の言葉にムッとしたので言い返そうとすると、先に神崎が言葉を被せてくる。

「えぇ、わかっています。 佐藤さんが命のやり取りをされたのも重々承知です。 おかげで私の仕事もうまくいきました。 これは私の八つ当たりです。 だから先に謝っておきます。 佐藤さんすみません。 ですが、あの女ぁ・・人をバカにして・・私だって佐藤さんのような能力があればもっといろんなことができるはずなのに・・」

神崎が感情をあらわして話していた。

俺は意外な感じを受ける。

出会ってから冷静な神崎がこんなことで感情を揺さぶられるとは思ってもみなかった。

まぁ、何とか神崎の仕事も無事終わり、俺たちはそのまま黒い車に乗せてもらい空港に移動となる。


<アメリカ>


サラはうまいこと政府に利用されていた。

今の政府に反対する政党の連中を無力化するのに活躍していた。

マッチポンプと言われても仕方がないような方法で、反対勢力を煽る。

それに対抗して民衆が集まってくる。

個人の権利は自分たちで守る民族だ。

自分達が押さえつけられれば、力を持って現政権に抗議をしようということになる。

そんな時にサラが使われていた。

小さな集まりは呼ばれたりはしない。

1000人程度の集団などとなると、かなり危険な存在となる。

だからといってまさか軍を出動させることはできない。

一応民主主義の国だ。

国民に銃を向けるわけにはいかない。


サラには人を傷つけることなく無力化して欲しいといつも依頼されていた。

そしてサラもまんざら嫌ではなかった。

同じ自国民を傷つけずに無力化できるのは自分だけなのを知っている。

それに無力化された民衆たちにも教育をしていた。

現政権は君たちの意見もきちんと聞く。

だから力で意見を押し通そうとしなくて良いと。

自分達の行動をかえりみることなくだが。

・・・

サラの活動も相まってだが、反対勢力の集会が少なくなってきていた。

ただ、それらを煽動していた政治家たちは面白くない。

そういった政治家が10人ほど集まって談合をしているようだ。


「君ぃ・・どうやら我々の政治基盤が壊れそうだよ」

「えぇ、おっしゃる通りです。 政治資金が急速になくなりつつあります」

「うむ・・あの女・・何て言ったか、治安部の現場で動いている・・」

「あぁ、サラとか何とか・・何でも妙な武術を使うとかで素手で交渉してくるそうですな」

「そうそう、相手が女なので武装勢力も油断するのかもしれないし、ディベート技術が優れているのかもしれない。 とにかく危険な女だ」

「オホン・・相手が女性という発言は気を付けていただかないと・・」

「おっと、これは私が悪かった。 訂正と謝罪をさせていただきたい。 申し訳ない」

「そのサラなる人物ですが、近々静かになると思います」

「なるほど・・既に手は打ってあるわけですな」

・・・・

・・・

集まった議員たちは勝手な意見を交換していた。

どうやらサラに刺客が送られたようだった。


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