第105話 容疑
<クララ>
クラウスに背中を向けて悠然と歩く。
名前はクララという。
クララは路地裏を抜け、表通りに出た。
あの男と女・・相当なものね。
もしあそこで戦闘にでもなっていたら、どちらかが間違いなく死んでいたわね。
あの男の判断は正しいわ。
街中で私たちが戦えば、周りに被害が出る。
戦闘が回避されたのは良かったけれど・・何か言っていたわね。
確か大量に人が亡くなったのを調査していたとか何とか。
前にそんな雰囲気を感じたけど、遠くてよくわからなかった。
それに私のように生命力を吸収するようなものじゃない感じだった。
そう、本当に人を食べているような、そんな感じ。
・・・
どうでもいいわね。
取りあえず、私もあまり無茶をしないようにしないと。
でもねぇ・・クズを見るとどうしても狩りたくなるのよねぇ。
クララは頭を軽く振ると、また颯爽と歩いて行く。
<クラウスとアンナ>
クラウスは一息吐くと言葉を出す。
「すまない・・アンナ。 俺がもっと強ければ・・そして我々に制約がなければ、先程の女を見過ごしはしないのに・・だが・・」
クラウスの言葉から悔しさがにじみ出ていた。
「クラウス・・わかっているわ。 それに簡単に追跡もさせてもらえそうにないけど・・でも、あの女・・いったい何者なのかしら?」
アンナが言う。
「うむ、俺もそれを考えていた。 相手の生命力を吸い取る能力者・・テツなどの魔族領域にいたのか・・」
クラウスがつぶやきながら考えていた。
!!
アンナが目を大きく見開いて、何か思いついたようだ。
「クラウス! あのアンデッドの領域ってどうだったのかしら?」
アンナの言葉を聞き、クラウスも静かに顔を上げた。
「なるほど・・確かにアンデッドの領域ならば、そういった能力も存在するかもしれない」
クラウスはアンナの方を向きながら答えた。
そして、軽く微笑むと首を軽く左右に振る。
「うむ・・だが、誰も近づかない孤島だ。 ブレイザブリクよりも遥か昔の遺跡が残る廃墟の場所・・そんな場所にいたと言うのか? それにそんなところに飛ばされたという話・・聞いたこともない」
クラウスはそこまで言葉を出すと笑う。
「フフ・・聞いたことないとは笑えるな。 あんな国の言うことはどれも信用できないというのにな」
「クラウス・・」
アンナが寂しそうな眼差しでクラウスを見つめる。
「あ! でもクラウス・・アンデッドの領域ばかりとは限らないわ。 あの魔女の森の奥・・サキュバスなどの妖魔が生息すると言われているところがあったじゃない。 ヴァンパイアがいても不思議じゃないわ」
アンナが言う。
「なるほど・・確かにそれならば納得できるな・・」
クラウスがうなずいていた。
同時にクラウスの頭に浮かぶ。
本当に
ヴァンパイアやサキュバス、アンデッドなど。
おとぎ話のようなことを体験したきたのだと。
ただ、我々は直接接触したことはない。
・・・
!
そうだ。
今度テツにでも聞いてみよう。
クラウスはそんなことを思うとアンナに言う。
「アンナ・・口にトマトケチャップがついているぞ」
アンナは急いで口を拭う。
そして続ける。
「さてアンナ、追跡するぞ」
クラウスの言葉にアンナは微笑んでうなずく。
<イギリス>
レオとソフィは自分たちに与えられた部屋はあるが、今は休憩室で過ごしている。
「レオ、陛下は日本とお話されるみたいよ」
ソフィがコーヒーを飲みながら言葉をかけてきた。
あら、このコーヒー美味しいわね・・などと、ソフィのつぶやきが聞こえる。
「日本か・・」
「どうしたのレオ、日本に何かあるのかしら?」
「いや・・僕が学生の時だ。 日本に旅行したことがあるんだ」
レオが微笑みながら答える。
「ほんとに?」
「日本はとても安全なところだと思ったね」
レオが少し話をする。
・・・
・・
「ふぅ~ん・・そんな国から来る人って、大丈夫かな?」
ソフィが眉をひそめて言う。
「大丈夫じゃないかな? 一応帰還者だろ? 向こうで少しでも過ごしたのならソフィが心配しているような平和ボケした人物ではないだろう」
レオが笑う。
「う~ん・・まぁ先入観はよくないけど、何でも薄ら笑いを浮かべてうなずく種族というイメージしかないから・・」
「そうだね・・僕のイメージもそんな感じだったけど、実際に接してみると案外はっきりと物事は言うんだよね。 あ、でもその行動は違ったけど・・」
「行動?」
ソフィがレオに近づく。
「うん。 本当に嫌だと思っても手伝ってくれたり、逆のこともあったね。 なんて言ったかな・・えっと、本音と建前ってやつだったかな?」
「あ! それ、私も聞いたことあるわ。 日本人の言葉を素直に受け取らない方がいいって・・ま、何にしても会ってみればわかるわね」
ソフィとレオが笑いながら話していた。
◇
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