第79話 アホか、テンジン!



俺がサラの胸に触れようとするとテンジンが注意をする。

「テ、テツ殿、それはいけない」

「何言ってるんだよテンジン。 サラなんて俺をボカスカ殴ってきたんだぞ。 それに見るだけだ。 あまり長い時間この状態が維持できるわけじゃない」

俺はそんなことを言いながら、遠慮なくサラの服をめくり上げた。

!!

「ブフォ! こ、これは予想外だ。 いや、予想通りか! ノーブラだ・・だが、なんてきれいな形をしているんだ。 テンジン、見てみろ! サラってもの凄い良い胸してるぞ!」

俺はそう言ってテンジンを見た。

ドサッ。

テンジンが鼻血を拭き出して倒れていた。

「クッ! 拙僧もまだまだ不覚。 これしきのことでこんなダメージを受けるとは・・テツ殿は平気なのですか? さすがですな・・これでは拙僧・・戦えないかも・・」

テンジンがそこまで言葉を出すが、顔を上げた目の前にサラのむき出しの胸があった。

・・・

フバァ!!

テンジンの鼻からもの凄い血が噴き出した。

「テ、テンジン! 大丈夫か?」

俺は焦ってしまった。

まさか漫画か?

裸を見て鼻血ブーッて、ないぞ今どき。

だが、テンジンは漫画を演じているわけでもないだろう。

テンジンは片膝をついて耐えている。

「はぁ、はぁ・・テツ殿・・これほどのダメージを負うとは思ってもみませんでした。 サラの胸・・強烈すぎます」

そこまでだった。

超加速が切れる。

俺は急いでサラの服を下ろし、一歩下がる。


サラが目を大きくして驚いていた。

いきなりテンジンが片膝をついている姿が目の前にある。

しかも出血している。

「テ、テンジン! いったい何があったのよ。 大丈夫? 血が出てるわ」

サラが心配そうにテンジンの顔に触れる。

テンジンの目の前にはちょうどサラの胸があった。

ドサ・・。

テンジンはそのまま前のめりに倒れる。

地面に血が広がっていく。

「テンジン! テンジン! ちょっとテツ、あなたテンジンに何かしたんでしょ?」

サラが鬼の形相で俺を見る。

テンジンが片手でサラの足に触れていた。

「サ、サラ・・テツ殿は・・なにもしていない。 拙僧が・・未熟なだけだ・・」

かなり疲弊しているのだろうか。

苦しそうにテンジンが話す。

「でもテンジン・・いきなり血を流して・・本当に大丈夫なの?」

サラがテンジンを抱き起す。

テンジンの手がサラの胸に当たった。

ムニュ。

テンジンは再び鼻血を噴き出して、今度は仰向けに倒れた。

 

「テンジン! テンジン! しっかり!」

サラが一生懸命にテンジンに呼びかける。

だが、サラが一生懸命になればなるほど、テンジンは地獄を味わうんじゃないか。

俺はサラとテンジンを見ていて思った。

思わず合掌をする。

テンジン・・ご愁傷様。

・・・

しばらくテンジンは横になったままだった。

サラが横で座っている。


「ふぅ・・どうなるかと思ったわ。 まさかテンジンが出血するなんて・・ドラゴンも倒すほどの人なのに・・」

サラが優しい目でテンジンを見ている。

「サラ・・不甲斐ないところを見せてしまったな」

「フフ・・テンジンも同じ人だってことがわかってホッとしたわ」

「いや・・実はなサラ。 その・・」

テンジンが何か言いにくそうに話している。

「なぁに?」

「うむ。 やはり僧侶たるもの、嘘はいけないな。 よし・・実はなサラ、君の胸が見えてしまったのだよ」

・・・

テンジンの言葉にサラの動きが止まった。

無論、俺も完全にフリーズだ。

言葉すら出て来ない。

「は? どういうこと?」

サラがキョトンとしていた。

だが俺にはわかる。

次の言葉で俺たちの運命が決まる。


「うむ・・先ほどほんの少しの間だが、サラの服がまくりあがっていたのだ。 それで・・その・・すまない。 見るつもりはなかったのだが、見えてしまったのだ。 許してくれ」

テンジンが真剣な顔で話してた。

顔は血だらけだが。

・・・

俺はその場で動けない。

サラの周りが凍り付くんじゃないかと思えるほど、空気が張り詰めていくのがわかる。

スキルとか魔法じゃない。

そういう雰囲気だ。

「なるほどねぇ・・そうなんだ」

サラが静かにゆっくりとつぶやく。

そして俺の方を見た。

俺は心臓に針が刺さったんじゃないかと思うほど、ドキッとした。

鬼だ。

鬼がいる。

それにテンジン・・アホか!

何言わなくていいこと言ってんだよ。

ダ、ダメだこりゃ。

万事休すとはこのことか。

そんな諺はいい。

とにかくこの危機をどうにかしないと。

俺は頭をフル回転して言葉を考えようとしていたが、空回りか!


「テツ・・そういえば、初めて空港で会った時だったわ・・」

サラがつぶやくように言葉を出す。

だが、その言葉に呪いでもかかっているようだ。

俺は動くことができない。

「デイビッドも私も、あなたに全く気づけなかったわ・・なるほどねぇ・・あなたのスキルってわけね。 それで私の知らない間に、私の胸を触ったり見たりしたわけね・・わかったわ・・」

俺は本気で恐怖した。

こ、これがプレッシャーというやつか。

あまりにも重すぎる。

なんだ、これは・・。


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