第77話 テンジン



「サ、サラ・・本当に、俺・・触ってないぞ」

俺は小さな声でつぶやく。

「テツ、私の目を見てしっかりと言って。 言っておくけど、私のスキルで相手の嘘を見破れるから」

サラが言う。

俺の目は泳いでいたかもしれない。

「うぅ・・その・・サラ・・本当に俺は・・」

俺がそこまで言葉を出した時だ。

!!

サラがバッと後ろを振り返る。

「テンジン・・もうこんなに近くまで来たのね」

サラはそう言うと近寄ってきている魔素の方を向く。

俺は気づけなかった。

サラの尋問に必死だったようだ。

だが、とにかく助かった。


「こんな茶番を演じている時じゃなさそうね。 テツ、テンジンが近くまで来ているわ」

サラが笑顔で話す。

俺も少し注意して感じてみる。

・・・

なるほど、こいつは強そうだ。

それに不思議な感じがする。

何だろう?

「テツ、行くわよ」

サラがテンジンの魔素の方へ向かって走り出した。

俺も後を追う。


<クリストファー>


中国に入って高速移動していた。

周りからは黒い物体がパッと横切った程度で、気にしなければ記憶に残らない。

クリストファーは大きな魔素の方向に向かっていた。

索敵範囲はそれほど広くない。

移動していると、ゆっくりと移動している魔素の反応を感知。

そこまでは良かった。

だが、近づくに従って違う魔素も感じるようになった。

テツとサラの魔素だ。

それほど大きく感じないが、自分よりは強いのではないかと分析していた。

クリストファーのレベルは28。

「まさか・・3人もの帰還者がいるとはな。 ここで引き返すべきか・・いや、せめて顔だけでも見ておかなければいけないだろう。 お館様に報告ができない。 しかし、気づかれずにそんなことができるのか?」

クリストファーは移動速度を緩めながら考えていた。

こちらが気づいているということは、相手も気づいているだろう。

どうする?

答えの出ない疑問を抱いたまま、移動を続ける。


<テンジン>


間もなく北京に到着だろう。

「ふむ・・強い魔素が遠くに1つと、こちらに2つ・・近づいて来ていますね。 う~ん・・待ってみますか」

テンジンは街から少し外れ、砂漠のようなところで待つことにした。

・・・

少しすると、2つの大きな魔素が近づいてくる。

1つは何か懐かしい感じがする。

「テンジン~!」

遠くで声が聞こえる。

「ん? 拙僧の名を呼んでいるぞ」

テンジンはその声のする方向を見る。

サラが手を振りながら駆け寄ってきていた。

「・・まさか・・サラなのか?」

だが、髪の色が違う。

テンジンは手を振っている女の人を見ていた。

横の男は・・知らないな。


サラがテンジンのところに来た。

「テンジン!」

サラが笑顔で話しかける。

「サラか? 何か雰囲気が違うようだが・・」

「あ、髪の色ね。 ちょっと仕事で染めたのよ」

「そうなのか? お連れの方は?」

テンジンが俺を見る。

「紹介するわテンジン。 彼はテツって言って、日本人の帰還者よ」

サラがそう言って俺を紹介してくれた。

俺はそんなことよりも、ずっと気になっていたことがあった。

胸だ。

サラの胸。

走るたびに揺れる。

見た目はそれほど大きくないのに、形は良さそうだ。

くぅ・・あの時、きちっと見ておけばよかった。

ドイツのあの女の人みたいに・・。

それに今振り向いたときにプルンと揺れたぞ。

それほどか!!

ノーブラかもしれない。

俺は見逃さなかった。

このテンジンていう男も、俺と同じ目線でサラを見ていたぞ。


「ちょっとテンジン、聞いているの?」

サラがムッとしているようだ。

「あ、あぁ、すまない。 聞いているぞ。 えっと帰還者なのだな」

「そうよ。 それよりもテンジン・・あなたいったい何しているのよ?」

サラがいきなり核心を聞いていた。

「うむ。 拙僧せっそうがチベット出身なのは知っているな?」

テンジンが言う。

「えぇ、もちろん。 向こうでも変な坊さんって誰もが言ってたわ」

「うむ。 それでな・・」

テンジンがいろいろと話してくれる。

自分達の部族が長い間、虐げられてきたこと。

自分に力があるのは、それらの諸悪の根源を浄化するためなのだと。

そして中国の中でも同じような少数民族を解放しながら北京を目指していることなどなど。

・・・

・・

「そうなんだ・・」

サラがうなずきながら同情しているようだ。

「テンジン・・私たちも一緒に行っていい?」

サラが言う。

「は?」

俺は焦ってしまった。

って何言ってんだこいつ。


「サ、サラ・・俺は・・」

俺がそこまで言葉を出すとサラが俺を睨む。

「テツ、こんなにひどい扱いを受けている人たちを、もしかして助けないっていうの? あなたそれでも人間なの?」

「ちょ、ちょっと待ってくれサラ、それは・・」

俺がそこまで言葉を出すとテンジンが言う。

「うむ。 サラ・・その気持ちはありがたく頂戴する。 だが、これは我らチベットや虐げられたものたちの問題だ。 お主たちは関係ない」

俺はテンジンの言葉を聞き、少しホッとする。

「テンジン・・」

サラがつぶやく。

「サラ、それにテツ殿、お主たちがもし勝手に動いてしまえば、自国に迷惑がかかるだろう。 それに私1人でこの国の軍の相手はできるし、この国の人も自分達の力で自由を勝ち取りたいはずだ。 見守っていてくれ」

テンジンがしっかりとした顔でサラに言っていた。

俺はその言葉とテンジンの表情を見て、一目で信用してしまいそうだった。

ただ、気になることがある。

サラが力強く話すたびに胸が揺れる。

俺はともかく、テンジンも時々チラっと目線が動く。



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