第69話 内乱?



クラウスとアンナの顔つきが変わる。

メリケン首相が何度かうなずくと、報告をしていた男の人が下がって行く。


メリケン首相が俺たちを見て話し出す。

「クソウ閣下、今とても大事な情報が入りました。 そのうち全世界でわかるのでお教えします。 中国で内乱が発生したようです」

クソウの食べている手が止まる。

俺も手を止めてメリケン首相の顔を見つめる。

「速報なので詳細はわかりませんが、チベット付近から戦線が広がっているようですね」

メリケン首相の言葉を聞き、クソウが言葉を出す。

「戦線が広がっている? そんな大規模な内乱ですか・・今までにそんな情報は1つもなかったように思うのですが・・」

メリケン首相がクソウを見ながらうなずく。

「はい、我々の情報にもそういった動きは感知しておりませんでした。 何かが起きたとしか・・まさか、プッツン大統領・・いえ、ディアボロスでしょうか・・」

メリケン首相が驚いたような表情を見せる。

「いや、その可能性は薄いでしょうな。 彼は逃げたのです。 それがいきなり戦線を作って動くなど考えにくい。 それにそれだけの人脈を持っているのかどうか・・」

クソウが反論していた。

「確かに・・」

メリケン首相がうなずきながらクラウスを見る。

「クラウス・・そういった大勢を洗脳するような能力はないのですか?」

「はい・・私の知る限りありません」

「そう・・わかりました。 クソウさん、これからどう行動されますか?」

メリケン首相がクソウに問う。

クソウは食事を終えていた。

「えぇ、我々は即時帰国しようと考えております」

「当然ですわね・・わかりました。 クソウさん、この度はわざわざお越しいただき、ありがとうございました。 我々ドイツにとって、日本という国がとても大事な存在になりました」

メリケン首相はパッと気持ちを切り替えたのか、クソウと握手をしようと手を出した。

クソウも食事の途中だったが立ち上がり、メリケン首相の手を握る。

「いえ、私どももできることをしただけです。 食事・・おいしかったです。 首相・・中国の内乱の事件、我が国に帰ったら詳細をお教えしますよ。 では、我々はこれで失礼します」

クソウは食事をそのままに、メリケン首相に挨拶だけをしてその場を立ち去ろうとする。

俺は食事をもっと食べていたいが、政治家などは何が起こるかわからない。

すぐに気持ちの切り替えができるのだろう。

名残惜しいし、もったいないが、仕方ない。

クソウについて俺も移動する。


部屋から出るときにクラウスとアンナが笑顔で見送ってくれた。

「テツ・・今回は世話になったな。 またいつか」

「私もお礼を言わせてもらうわ。 ありがとうテツ」

俺も微笑みながら握手で返す。

「こちらこそ楽しかったですよ」


俺とクソウは空港まで送ってくれるそうだ。

出迎えに来たのと同じ車で移動。

今度はクソウと一緒に乗るようだ。

アンナの方が良かったな。

そんなことがフト頭に浮かぶ。


<メリケン首相たち>


「クラウス、アンナ・・あの日本人の帰還者をどう感じましたか?」

メリケン首相が訊ねる。

「はい、我々に協力的でした。 目的を一致させると協力的になると思われます。 命を救ってくれましたから」

クラウスが答える。

「えぇ、私もそう思います。 信用という言葉は早計かもしれませんが、敵対しない限り、牙を向けないと思います」

アンナも言う。

メリケン首相はうなずいて答える。

「なるほど・・ロシアに潜入したことは、いろんな面でよい成果を得たようです。 さて、今後の対応ですが、日本の情報収集を強化するのと、ロシアにもう1度潜入してもらえませんか?」

クラウスとアンナが少し驚いていた。

メリケン首相が微笑みながら答える。

「いえ、ロシアの帰還者は1人なのでしょう? それをあのテツという日本人が吹き飛ばした。 無事ではないでしょう。 もし無事なら即座に反撃に出ているはずです。 あなたたちが無事に帰って来れたということは、何らかのハンディを背負っていると考えます。 今が好機です。 大統領も不在。 その間にできる限り、どんな情報でもいいのです。 集められるだけ集めてきてください。 期限は3日とします」

クラウスはメリケン首相の言葉を聞きながら思う。

このお方は怖い人だ。

まったくぶれていない。

ドイツの在り方を、我々よりも上位の目線で見ているようだ、と。


「わかりました。 では、早速出発の準備に取り掛かります」

クラウスはアンナを見る。

アンナもうなずいていた。


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