第68話 会食



「まさか・・あの人がこっちに帰って来ていたなんて・・でも、向こうでドラゴンと戦って死んだはずじゃ・・」

サラが言葉を出していた。

「あぁ、俺もそう思っていた。 だが俺たちはその死の瞬間を見たわけじゃない。 報告を受けただけだ」

「そ、そうだわ・・嘘の情報を聞かされてたわけね」

「それはわからない。 だが、テンジンがいろんな集落を解放しながら北京へ向かっていることは事実だ」

デイビッドの言葉を聞き、サラ笑顔で返答する。

「じゃあ、私たちも合流して一緒に・・」

「サラ・・勘違いをするんじゃない。 俺たちは中国人でもなければチベット人でもない」

「でも、この国の人たちって差別を受け続けていたわ。 自由のために協力しても・・」

デイビッドが首を横に振る。


「サラ・・それは違う。 俺たちからは差別と見えるだけだ」

「デイビッド・・でも・・」

「この国は遅かれ早かれ爆発するようになっていたんだ。 内部エネルギーが溜まり過ぎだ。 ただそのきっかけがテンジンなだけだ」

サラは無言で聞いている。

「サラ・・納得はできないだろうが、とにかくこの国ですることはなくなったはずだ」

「デイビッド、あなたの言うことが事実ならね」

サラは笑顔で答える。

「サラ・・」

「ううん・・いいのよ。 私は一応この国で帰還者に接触しろと言われているの。 テンジンだとは思ってもみなかったけど、一応会ってみるわ」

デイビッドはサラを見つめてうなずく。

「そうか・・まぁ、あのテンジンだ。 問題ないだろう。 むしろ敵が気の毒なくらいだ」

「フフ・・そうね。 素手で戦う回復術師・・変なのって思ったけど、その強さは本物よ」

「あぁ、俺もそう思う」

デイビッドとサラはお互いに向き合い、何か可笑しくなった。

軽く笑うとサラが言う。

「デイビッド・・あなた死んだ扱いになっているのよね? これからどうするの?」

デイビッドはニヤッとして答える。

「それなんだがな・・俺、日本に行ってみようかと思っているんだ」

「日本へ?」

サラは意外な発言に驚いた。


「な、なぜ日本なの・・あの男がいるところよ。 行けば今度こそ命が危ないんじゃない?」

サラが心配そうな顔で聞く。

「どうだろうな・・あの男、強い割には無茶をしない感じがした。 なんと言うか、人として信用っていうとおかしいが、そんな気持ちにさせてくれたんだ。 とにかくアメリカには帰れない。 正直に話して対応を探ってみるよ」

「そう・・」

「サラこそ無茶をするなよ。 仲間がいなくなるほどつらいことはない」

デイビッドはサングラスをかけながら言う。

「デイビッド・・ありがとう。 テンジンに会ったら何か言っておくことある?」

サラが微笑みながら聞く。

「そうだなぁ・・また今度、紅茶を飲ませてくれって言っておいてくれ」

「あ! そうだったわ。 彼の淹れてくれる紅茶がとてもおいしかったのよね。 わかったわ、伝えておくわ」

「それじゃ、サラ、またどこかで・・な」

「うん、またね、デイビッド」

サラはデイビッドを見送ると、また街を散策する。

テンジンの情報が聞こえてくるまで、ゆっくりと北京を目指せばいいだろう。

そう思いながらサラは歩いていく。


<テツとクソウ、メリケン首相たち>


メリケン首相と一緒に昼食をいただいていた。

昼食はおいしいはずだ。

だが味があまりわからない。

俺の舌がおかしいのではない。

メリケン首相やアンナ、クラウスが俺を観察している。

その視線をビリビリ感じる。

見つめているのではない。

動きそのものを観察している感じだ。


「テツさん、プッツン大統領ですが、魔族とおっしゃいましたか。 どういった存在なのでしょう?」

メリケン首相が突然聞いてきた。

この人、いきなり違う話題を振って俺の反応を見ているんじゃないだろうな。

「え、えぇ・・魔族といっても悪い存在ではありません。 私も手厚く保護を受けましたから・・ただ、プッツン大統領ですが、魔族で大罪を犯したそうなのです。 どんな罪なのかはわかりませんが、それで逃亡をしたようですね」

「なるほど・・それで、テツさんはプッツン大統領を追うのですか?」

俺は返答に困ってしまった。

チラっとクソウを見る。

クソウは無言で食べていた。

クソウも俺の反応を伺っている感じだ。

このおっさん・・。


「い、いえ・・正直わかりません。 ディアボロス・・いやプッツン大統領ですが、この世界でその存在を隠していたような狡猾な奴です。 あの場で、取り押さえられ無かったのですから、なかなか足取りは掴めないでしょう。 注意しつつも現状の事案に対処したいですね」

俺的には模範解答だと思う。

「なるほど・・テツさん、ドイツとは仲良くしてくださいね。 ロシアの帰還者を吹き飛ばしたほどの実力者、我々としても敵にしたくないですから」

メリケン首相、はっきりいうよな。

俺は苦笑いしかできなかった。

「メリケン首相、まぁその件は佐藤君の個人的な問題として、我々日本としてはロシア、中国など東南アジアもそうですな、なるべくなら大きな衝突なく自国の安全を優先させていくつもりです」

クソウがタイミングよく発言する。

「まぁまぁ、クソウ閣下はお堅いこと。 わかりました、ドイツも同じ意見ですわ。 これからもよろしくお願いします」

メリケン首相がそう答えた時だ。

ドアがノックされ、1人の男の人が入って来た。

すぐにメリケン首相に近づいて行く。

小さな声で囁いていた。


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