第70話 帰還者か?



<クソウと一緒>


俺はクソウと一緒に政府専用機に搭乗していた。

帰国中だ。

半日もすれば日本に到着できるだろう。

俺的には走った方が断然早いが、まぁ急ぐこともない。

中国で内乱が起こったからといって、すぐ日本に何かあるわけではないと思う。

それはクソウ辺りが考えることだろう。


クソウが俺の真正面に座っている。

小さな会議ができるような空間だ。

「佐藤君、まぁ帰るまでゆっくりしてくれたまえ」

クソウが笑顔で声をかけてくる。

「は、はぁ・・」

「どうしたのかね? 外交デビューは疲れたかね?」

クソウがニヤッとして聞く。

「そうですね・・確かに疲れましたし、一度に多くのことが起こり過ぎました」

クソウがうなずく。

「そうだな・・佐藤君には華々しいデビューだったからね。 だが、日本へ帰れば忙しくなるだろう」

クソウの言葉を聞きながら俺も思う。

そりゃそうだろう。

隣の国では、もはや外の環境どころではないはずだ。

諸外国にまで知られることになった内乱をどうにかしなければならないだろう。

だが、いったい何が起こっているのだろうか。

それは俺も気になるところだ。

俺が少し考えていると、壁際の電話が鳴る。

プルルル・・。

クソウ付きの行政官が電話と取る。


「はい・・えぇ・・少々お待ちください。 閣下・・」

行政官がコードレスフォンをクソウに手渡す。

クソウが電話に出る。

「はい、クソウですが・・えぇ・・なるほど・・はい・・わかりました」

・・・

少しの間、クソウが真剣な顔で話をしていた。

コードレスフォンを行政官に返す。

クソウが俺の方を向いてジッと見つめる。

「佐藤君・・中国の内乱だがね・・軍が出動したそうだ」

クソウが言う。

「ぐ、軍って、中国軍ですか?」

「うむ」

「それはまた大きな内乱になってますね」

「うむ・・それでだ・・その軍が大隊規模で全滅したという報告を受けた」

「え?」

俺は驚いた。

どの国でも大隊と言えば、かなりの人数のはずだ。

それが全滅って・・チベットにそんな武装集団がいたのか?

俺はそんなことを考えていたが、すぐにピンと来た。

帰還者だ。

俺がハッとして見ると、クソウもうなずく。


「そうだ、佐藤君。 帰還者だよ」

俺は無言でクソウを見ていた。

「まだ詳しいことは調査中だが、その事件が発生してから内乱の規模が拡大中らしい。 何でも万人単位で広がっているという話だ」

クソウが教えてくれる。

俺はうなずきながら聞いている。

「どうかしたかね、佐藤君・・」

俺が何も言わずに黙っているとクソウが聞いてくる。

「いえ・・どんな帰還者なのかと思ってしまって・・」

「君の知り合いとかではないのかね?」

クソウがジッと俺を見る。

何か疑うような視線だ。


俺は首を横に振り笑う。

「クソウさん・・私の知り合いは日本の学生だけですよ。 後2人ほどいましたが、どうやら向こうで亡くなったようです。 それに、私たちが召喚された時は5人だけでした。 だから考えていたのです。 私たちと違う時期に召喚された、あのドイツやアメリカの連中のような奴なのではないかと・・」

「ふむ」

クソウがうなずく。

「それに、我々は魔族領域の近くに放り出されたような感じでしたからね・・要は使い捨ての駒だったのでしょう。 そんな感じでいろんな人たちを召喚していたようです。 今はもうそういったことも起こっていないようですが・・」

俺はクソウに話しながら思っていた。


一体どんな奴が中国軍を相手に戦っているのだろうかと。

大隊規模を全滅させたと言っていた。

まぁ、ある程度レベルがあれば当然だろう。

それを正面切って戦い始めたわけだ。

どんな結果に・・いや、完全に中国の軍が崩壊するだろう。

勝てるはずがない。

魔法など知らない連中だ。

銃やミサイル、爆弾などしか知らないだろう。

爆弾にしても、魔法なら初級で凌駕する。

こちらに帰って来ているんだ、相当なものだろう。

ロシアのような奴なら怖いな。

それに変に英雄意識など持っていればやっかいだろうな。

・・・

・・

俺はそんなことを考えていた。


クソウがジッと俺を見ている。

「佐藤君・・我々としては君に協力は惜しまないつもりだ。 まぁ、ぶっちゃけ日本の国に有利なら何でも利用させてもらいたいと思う。 だが、君たちの安全はどうにかして守りたいとも思っているんだ。 これは正直な気持ちだ」

クソウが俺にいう。

俺が学生ならコロッと騙されるとは表現が悪いが、信じてしまいそうな言葉だった。

だが、大人・・特に政治家などは嘘をうまくつける人がなる仕事だと思っている。

危うく心に響きそうになった。

「あ、ありがとうございます、クソウさん。 私も自分の育った国ですからね。 国が危うくなれば戦うでしょう。 それよりも・・」

俺は中国にいる帰還者に会ってみてもいいのではと考えていた。


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