第65話 サラの出発



<グァム>


サラを乗せた航空機がグァムの米軍基地に到着していた。

ジェニファーはそのままハワイの基地に帰って行く。

「サラ・・無理をしないでね」

「ありがとうジェニファー、またね」

ジェニファーを乗せた航空機が慌ただしく滑走路へ向かって行く。

そのまま離陸し、飛び去っていった。

サラはジェニファーを見送ると、出迎えてくれていた士官の車で移動する。


軍司令官室へと案内された。

「よく来てくれた。 私はこの基地の司令官ハーディだ」

そう言ってサラに席を勧める。

サラも軽く挨拶すると、着席した。

「サラさん、今回の任務は聞いているね。 単身で乗り込んで情報を収集してもらうというものだ。 このウェアラブルカメラを装着してもらう。 こちらとは常に連絡がつく。 よろしく頼む」

司令官はそう言うと、副官がサラに装備を見せていた。

「了解しています」

サラはそう答えつつも考えていた。

これではまるで飼い犬ね。

常に監視されているというわけね。


「サラさん、それで出発だが・・」

司令官がミッションの概要を話してくれる。

副官が詳細を追加説明する。

・・・

・・

要は、中国に入り、帰還者を探せという漠然としたものだった。

ただし、中国との衝突を避けろという。

どうしてもダメな場合はサラの生存を優先。

簡単に言えばそんなところだ。

出発は今日の日没後だ。

後3時間ほどある。

サラは軍の宿泊施設で休憩することになった。


ベッドの上でゴロンと横になる。

天井を見つめながらサラは考えている。

私は何をやっているのかしら・・。

軍の指示通り動いて・・でも、私一人では情報を集められない。

こんな力を持ったからって、何もできないのね。

一歩下がって見れば、単なる強力な兵器ドローンだわ。

それにしても帰還者を探せって、何なのかしら?

もし相手が戦闘狂ならどうなるの?

あの日本人のようなレベルなら、知らないうちに私は死んでるわね。

・・・

その時は、その時か。


ほんと・・平和ってないものね。

私は子供たちが普通に外で自由に遊べる空間が広がればそれでいい。

みんなが笑顔で、銃やナイフを振り回さない社会。

会話で物事を進めて行き、いろんなディベートを繰り返しながら良い社会を目指していく。

そんな社会をイメージしていたのだけれど・・ダメね。

・・・

・・

サラがいろいろと考えていると、うたたねをしたのかどうかわからない。

すぐに時間が来たようだ。


部屋をノックする音が聞こえる。

コンコン・・

「入ります」

そう声が聞こえると、ドアが開けられた。

「サラさん、出発です」

サラはベッドに座っていた。

「わかりました」

返事をすると呼びに来てくれた人と一緒に部屋を後にする。


<グァムの基地から>


どうやら潜水艦で出発するようだ。

・・・

サラを乗せた潜水艦が上海沖に到着。

かなりの深度があるが、小さな1人乗りのボールカプセルみたいなものに搭乗させられた。

「サラさん、それはソナーやレーダーに反応しないように作られている。 ゆっくりと浮上して、海上に出ると入り口が開くようになっている。 後は乗り捨ててもらって構わない。 勝手に海水で溶けてなくなるからね。 では、お気をつけて」

潜水艦の艦長が笑顔で見送ってくれた。

サラも軽く会釈をするとカプセルのハッチを閉じる。

そのままミサイル発射口からゆっくりと射出された。


サラを乗せたカプセルはゆっくりと海上に向かっているようだ。

妙な言い方だが、サラは快適だった。

心地よい感じで浮上していく。

周りの音も聞こえない。

潜水艦の中の妙な空気は気持ちの良いものではなかった。

・・・

しばらくすると海上に到着。

空には星が輝いている。

とてもきれいだ。

水平線には明かりが見えていた。

おそらく上海の明かりだろう。


カプセルの入口が開き、サラは海の上に足を踏み出す。

トン。

佐藤もそうだが、帰還者たちは水上でも普通に歩くことができる。

サラが海の上に立ちカプセルを見る。

艦長の言ったように、入り口から海水が入ってゆき、みるみる溶けていった。

ほんとに溶けるのね・・いったい何でできているのかしら?

サラはフトそんなことを思ったが、水平線の明かりを見つめて歩き出す。


<中国>


ドン!

机を強烈に叩く音が響く。

事務所内にいた人達全員の背中が伸びる。

「いったいどうなっとるのだ! 本当に陸軍を派遣したのか?」

バッキンダック主席が怒鳴っていた。

「は、はい・・もちろんでございます」

バッキンダックの前で今にも折れそうな感じで立っている人が返事をしていた。

「相手は1人の人間のはずだな? まさか軍が手を抜いているのではあるまいな。 武器は持っているのか?」

「は、はい・・もちろん最新鋭の武器を備えております」

バッキンダック主席が握りこぶしを作ったまま後ろで手を組む。

ゆっくりと部屋の中を歩く。

報告をしている者の前で立ち止まる。

そしてジッと報告者を見つめていた。


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