第66話 バッキンダック主席の焦燥



報告者はその緊張に耐えられず、口から泡を吹いて倒れてしまった。

バッキンダック主席こそ能力者かと思われた。

ただ見つめるだけで相手が気絶する。

凄いことだ。

バッキンダック主席は隣の人物を見つめた。

見つめられたものは不動の姿勢となる。

「君・・続けて報告をしてくれたまえ」

「は、はい! 軍が戦車などで攻撃するも、相手はただ歩いてくるだけでこちらの被害が拡大するそうです。 そして・・」

報告者は言葉を詰まらせる。

バッキンダック主席が睨みながら言葉を出す。

「それで・・?」

「は、はい・・それで、各地方の一般市民たちが軍の武器を奪い、レジスタンスなって広がっているそうです」

バッキンダック主席はうなずき、ゆっくりと言葉を出す。

「ほぅ・・英雄の誕生ですかな?」

報告者が引きつりながら作り笑顔をする。


「笑っている場合か!!」

バッキンダック主席の怒声が飛ぶ!

報告者はまたも気絶してしまった。

次なる報告者が震えながら立っていた。

バッキンダック主席が近づく。

報告者は思わず一歩下がってしまった。

その報告者の肩をバッキンダック主席がグッと掴む。

案外、力が強い。

「君・・恐れることはない。 私はただ事実が知りたいだけなのだよ、わかるね?」

報告者は何度も首を縦に振る。

「よし、続けたまえ」

「は、はい・・そのレジスタンスの規模が拡大の一途をたどっていまして、もはや制御できそうにありません」

バッキンダック主席が妙に落ち着いて来た。

「ん? 警察はどうしたのか? 動いていないのか?」

「そ、それが・・軍が出てきているからと言って動いていないようなのです」

バッキンダック主席がギロッと報告者を見つめた。

その眼力、やはり能力者かと思われるほどだ。

報告者は気を失いそうになったが、踏みとどまる。


「どういうことかね? まさか職務を放棄しているのではあるまいな?」

「わ、わかりません。 ただ軍の後ろでいるようなのです」

「役立たずどもが・・」

バッキンダック主席はつぶやく。

「よし、すぐに連絡をしろ。 警察は軍とともに行動するように。 そして指示に従わないものには発砲も許可すると言え」

「は、はい!!」

報告者は返事をすると、急いでその場を離れる。

ホッとしたことだろう。


<テンジン>


テンジンは一直線に北京に向かっていた。

途中で軍が道をはばむ。

だが、全く問題ない。

これなら異世界の魔物の方が強い。

近代兵器など単なる花火だ。

テンジンのレベルは31。

職業はモンクだった。

素手で戦う僧侶と言ったところか。

回復系の魔法も得意だった。


テンジンが行く道にある村などを次々に解放して行った。

軍や政府関係の人間には容赦しなかった。

村の人たちも初めは怯えていたが、テンジンの行動には迷いがない。

それに一般人には決して手を出すことはない。

負傷している者達を回復までさせてくれた。

『神様』

皆がそう思い始めていた。

ようやく自分たちの祈りが通じたのだと。

何十年にもわたって自分たちの言葉すら発することができなかった。

日々周りに怯えながら暮らしていた。

それがテンジンという人が歩いて来るだけで、光が差し込んできた感じだ。


「テンジン様、ありがとうございます」

今一人の回復してくれた老人が言葉を出す。

テンジンは優しく微笑み、その老人の横にそっと寄り添い言葉をかけた。

「気にすることはありません。 私は人として当然のことをしているまでです。 これでこれからは自由になります」

テンジンはそう言うと立ち上がる。

周りを見て声を大きくして言う。

「皆さん、不自由な時間は終わりました。 そしてこれからは自分の意思で物事を掴むのです。 武器が落ちています。 自由は与えらえるものではありません、自ら掴みに行くものなのです。 私の後を歩いて来てください。 そして、本当の平和を勝ち取りましょう」

テンジンは村々で同じように演説をして北京を目指していた。

解放された村々では、今までのうっ憤を晴らすかのように武器を手に取り、ほとんどの者が立ち上がる。

テンジンが北京を目指して1日が経過。

既にその集団は3万人を超えていた。

各自、中国軍の武器を手に取り、点が線となり広がって行っているようだった。

テンジンは村々を解放すると単独で移動。

その移動には誰もついて来れないが、解放された連中は徒党を組み、テンジンの後を追う。


皆のスローガン。

北京を目指せ!


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